青い絵
絵を描いた。少女が海に沈んでいく絵。いくら手をのばしても届かない、水底からのびる無数の手にひきずりこまれていく、そんな絵。ありきたりで面白みなんてない。友人はすごいと褒めてくれたけれど、どうせお世辞なんでしょう。分かってるわ、痛いぐらいに。ほんとうにうつくしいものは、技術じゃあ生み出せないもの。
白に赤をまぜて、そこにさらに青をまぜる。赤みがかった青。キャンバスとは違う、青。それに黒を足すと、藍よりも深い、紺よりも暗い色ができた。これも青。みぃんな、青。どれもこれも違ういろなのに、青でひとくくり。ああ、面白くない。なんてつまらないの。絵と同じように、のびてきた手が足をつかんだ。沈む、沈んでしまう。そうして二度と浮きあがれない。そんな気がした。
絵筆をキャンバスに走らせる。黒に近い青が、鮮やかな青を塗りつぶして、何もかも飲みこんだ。少女も、手も、そして私自身も。その時はじめて、私は、自分の絵をきれいだと思った。私はこれを知っている。だって私の世界は、こんな色だったもの。