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駆けだし死霊使いの鎮魂歌  作者: 紅茶時間
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01


前略 神様

助けて、いやマジで。笑えないから、これ・・・


事件は三分ほど前にさかのぼる。

俺、鏡堂真也はいつものように通学路をだらだらと歩いていた。暖かい三月の太陽の光にふぁ~、とあくびが漏れる。目が閉じうっすらと涙が滲む。そして、


目を開けるとそこは異世界だった。


周りを歩いているのは角や尾の生えた生物で、アスファルトだったはずの道には石畳が敷き詰められており、石造りの家々が並ぶ。全てを理解するのには十分な景色だ。そんな現代日本とはかけ離れた景色を前に現在に至る。

「あぁー終わった、何もかも終わりだよ。さらば俺の人生、さらば懐かしき日本」

膝をつき地面を力のこもっていない握り拳で地面を殴る。今の自分の目を見ることが出来るのなら「死んだ魚のような目」という言葉がぴったりと当てはまるだろう。俺の目も死にたくて死んでるんじゃないのだが


「あのー」

「すいません、俺の事はほっといて下さい。なんで俺が、、」

気分のせいか頭まで重いのでうつむいたまま返事をする。

「道端でこんなに暗いオーラ出してる人ほっとけないわよ、ほら顔上げて」

「だからほっといて下さいって、今はそんな気分にはどうしてもなれないんですよ、」

透き通るような美しい声音で獣みたいな奴でもこんな声がだせるのかと新たな発見。

「上げるの、ほら」

俺の顔を両手で挟み上をむかせる。

「うわぁっ」

体が後ろへと勢いよく飛びのく。目の前にいたのは御伽話の中から連れ出してきたような美少女である。肩まである髪は綺麗な金色をしていて太陽の光を受け美しく輝いており、大きな翡翠色の瞳は真っすぐにこちらを見つめている。それは獣などではなく俺と同じ人間だ。

「なっ、なによ。人の顔を見るなりそんなにビックリして、いいわよ私の顔なんてそんなものよ」

ふんっ、という風にすねた少女はこちらを見ることなく手を差し出す。

「あ、ありがとうございます。あなたは?」

「そんなの後で、貴方のその黒い髪も黒い眼もここでは目立ちすぎる。さっさと離れましょ」

俺の手を掴み少女は足早に歩きだす。引っ張られるがままその後をついていく俺の心臓は爆発するのではないかと感じられるほど大きく高鳴り、耳は赤く熱を持つ。なにせ青春とは無縁の高校生活で女子と手を繋いだことはなく、彼女いない歴=年齢という非リアの俺に金髪美少女はハードルが高すぎる。

「あの、どこに向かっているんですか?」

走りながら俺が問い、走りながら少女が答える。

「私の家だけど」

い、家!?それは少し早すぎやしませんか。これはもしかして一目惚れってやつですか!?そしてこのまま結婚!いやでももっとお互いの事を知ってからのほうが、、いやこんな可愛い子が性格悪いわけ無いからな可愛いって最高!などと可愛い至上主義を掲げているうちに周りの景色が変わり始めていた。



「遠慮せずに入ってね」

来てしまった。人生初女子の家、緊張で死にそうです。

少女と出会った場所から少し走った場所にある家からはのどかな田園風景が見える。

「失礼します」

「適当に座って、お茶準備するから」

椅子に座り奥の部屋に消えていく少女の背中を見送る。


「どうぞ、よく出来てるかはわかんないけど」

「ありがとうございます」

ずずっと少女がだしたお茶を飲む。ふぅー、と安堵のため息が漏れる。

「だいぶ疲れてるみたいね」

「はい、いろいろありまして」

「大変だったのね。それで疲れてるとこ悪いんだけど貴方どこから来たの?その黒髪と黒い眼、ここらへんの人じゃないわよね」

「信じて貰えないかもしれないんですが俺この世界とは違う世界からきたんです」

「からかってるの?」

「ですよね、俺ももよく分かっていないんです」

「まぁいいわ、寝る所無いんだったらこの家に居候したら。一人で住むには大きすぎる家だし」

「いや、でも」

「夜には獣でるし、盗賊なんかもでるわよ」

「居候させていただきます」

「貴方凄く手の平返すのはやいわね、まあいいけど」

少女が若干ひいたように見える。

「でもお客様じゃないんだから家事はあなったにもして貰うわよ、料理とか出来る?」

「ええ」

自宅警備員スキルを磨き続けてきた俺にとって家事など造作も無い、同年代の中ではトップクラスの腕前を誇ると自負している。

「よかった、今日からは出前に頼らずにすみそうね」

「もしかして料理出来ないんですか」

「出来ないんじゃなくてしないだけよっ」

何故か少女が顔を赤くして声をあげる。

「そんなことどうでもいいでしょ。ところで貴方名前は」

「鏡堂真也です。」

「シンヤ?変な名前ね。」

「悪かったですね、貴方の名前は?」

「私の名前はリン・シャーロット、最強の名を手にいれる魔法使いよ」

「魔法使い?」

「ええ、何か変?」

「魔法って何、おいしいの、、」

「ええっ」

リンが驚愕の表情をみせる。

「あ、貴方魔法を知らないの!?」

「はい、今日この世界に来たばかりなので、、」

「本当にそうかもね」

「信じてくれるんですか?」

「信じざるをえないって感じよ!嘘をついてるようには見えないし」

嘘などではない、正真正銘俺は今日人生最大級の災難に見舞われたのだ。

「シンヤいい?」

「は、はい」

リンの威圧するような声音に背筋がピンと張る。

「この世界で魔法が使えないってのは死活問題なの、洗濯するのにも、料理をするのも、働くのも魔法なしじゃ何も出来ないの」

「何も?」

「そう、何も出来ないのっ」

何それ、聞いてない。一難去ってまた一難、不幸が不幸を呼び負の連鎖となり、俺の人生となる。そんな気がし始める。

「はぁ、しょうがないわね。一流の私が教えてあげるわ」

戸惑う俺にリンが呆れたように言う。

「本当ですか」

「覚悟しなさいよ、私は厳しいわよ」

「あ、ありがとうございます!」

神様、目の前に天使が降り立ちました。眩しいです、尊いです、可愛いです。

「何にやけてんの、まあいいわ。さっさとご飯つくって、私もうお腹ペコペコ」



異世界での料理は存外おもしろいものだった。リンがたくさん持ってきた見たこともない食材の味を確かめ、どのような料理にするのかを考える。まるで誰もした事のないゲームの攻略法を考えるような感じである。

「出来た~?」

一通り食材を切り終えた所で奥からリンの声がする。

「あのー、あと少しなんですけどこのコンロどうやってつけるんですか?」

「何それ、そんなものないわよ」

そう言いながらリンがキッチンに入ってくる。

「それじゃあどうやって火を、って!?」

リンは白いワンピースに着替えていて、風呂あがりなのか火照っている姿は目のやり場に困る。

「もうお腹すいてるんだから早くしてよね、で何が分からないの?」

隣に来るとその美しい金髪からいいにおいがする。その無防備な感じは反則じゃないですか?一発KO、試合終了のゴングが鳴る。

「黙ってちゃ分からいでしょ」

「あ、すいません。その火のつけ方が分からなくて」

「そういえばあなた魔法使えないんだっけ、まあ見てて」

リンがコンロのようなものに人差し指を向ける。

「ほいっ」

ポッとコンロに火が灯る。

「おおー」

「この程度の魔法で感心してどうするのよ」


「リンさん、出来ましたよ」

「待ってましたー」

今日の夕食は何だか分からない動物の肉のステーキと、謎の野菜を使ったスープ、それとパンらしきもの。テーブルで紅茶を入れていたリンが子供のように目を輝かせる。

「おいしそう、いただきまーす」

リンは元気よく声をあげ、フォークでステーキをパクリと食べる。

「どうですか?」

「うん、おいしい!」

「よかった」

安堵の声が出る。

「こんな温かい料理いつぶりかな、君と出会えて良かったよ」

「ありがとうございます」

少しくらいは恩返しできたのかと嬉しく言葉を受け取る。

「シンヤ、明日は街に行くわよ。この料理に免じて服くらいなら買ってあげるわ」

女子と二人で買い物、それってデートですか?デートだよね?デートだと言ってくれ!


翌日、デートであるわけがなくリンとの買い物はあっさりと終わってしまった。

「服はこれくらいでいいわよね、シンヤこれに着替えてギルドに行くわよ」

「ギルドって何ですか?」

「当然の如く知らないのね、ギルドってのは魔獣倒したり要人の警護なんかの依頼を達成してお金を貰う仕事。私もギルドに入ってるわ。ギルドでは何人かでパーティーを組んで依頼を達成するんだけど私のパーティーには空きがあるから貴方をいれてあげる」

「働くんなら別にギルドじゃなくてもいいんじゃ」

働かなくていいなら働きたくないと言いたい気持ちを抑える。居候とはいえど住まわせてもらっているのだから家賃くらいは払うべきだろう。

「ギルドで働かなくても適正職くらいは知っておいたほうがいいの」

「職って何で」

「職って言うのはね」

リンが俺の言うことが分かっているかのように説明を始める。

「自分がどういう魔力を持っているのかを表すもの、自分の魔力にあった仕事をするのが普通だから職っていうの。私なら魔術師(ウィザード)、魔力量が多く魔力の強い一部の人間しかなれない上級職なの、すごいでしょ」

リンが胸を張る、可愛いせいか全く鼻につかない。

「他にはどんなものがあるんですか?」

騎士(ナイト)召喚術師(サモナー)なんかは上級職で華があるわね、他にもいろいろあるわよ。さあ行こー」


リンにつられるままにギルドに来てしまった、リンは親し気に受付のお姉さんと話している。

「ねぇアリア、新人の登録したいんだけど」

「へぇ、どの子?」

「シンヤ来て」

「黒髪に黒目、珍しい。どこ生まれ?」

「それがこことは違う世界から来たとか言ってるの」

「ふふっ、おもしろいじゃん」

「笑い事じゃないわよ、とにかく能力はかってよ」

「はいはい、君ちょっと手をだして」

リンがアリアと呼んでいた女性に手をだす。アリアは俺の手を触り目を閉じる。

「ふふっ、君ほんとにおもしろいわね」

「どうかしたの?」

「適性がほとんどの職においてほとんどゼロ」

「ええっ、それじゃあギルドには」

それはポンコツという事ですか、この世界に来てまでポンコツなのかよ、チート性能を期待していたのに、

はぁーあ、やってらんねーよこんな世界。

「焦らないの、ただ一つ飛び抜けて高い適性を持ってるわ」

なるほどここで秘められた力が明らかになるわけですか。

『その職とは』

俺とリンの声が重なる。ごくりと息をのむ。

死霊使い(ネクロマンサー)よ」



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