第一章 2話 冬の夜の蒼い月
2話投稿!
短いけれど宜しくお願いします!
蒼月side―
静かな部屋の中にコトコトという鍋を湯掻く音がする。
少し薄いけどいい匂い…いい匂い…?
そこで夢現だった僕の意識は一気に目覚めた。
あまりの失態に僕は飛び起き、その時に何かが落ちたのかカタンと音を立て床に落ちた。
「コレは…?」
その落ちたものは1枚の家族絵のようなもの…―
「起きたのか…お粥、食べられるか?」
突然話しかけられて僕は驚いていつもの癖で攻撃魔法を使ってしまった。
相手は僕のことも魔法のことも知らないただの人なのにやってしまった。
「《絶対障壁》」
なっ…なんで!こっちの世界の人は魔法のことを知らないんじゃなかったのか!?
まさか僕に対する追っ手?
違うな…僕の軍の知り合いには黒魔法を使う魔法騎士はいなかった…。
「全く…いきなり《能力》使うなよ…驚くだろ?」
「…アビリス?」
アビリスって何だ…?
もしかして今の彼が使った魔法…彼にとっては当たり前のことなのか?
僕がそう考え込んでいると僕とあまり年が変わらないように見える少年が僕の顔を覗き込んでいた。
「どうしたんだ?あーもしかして《能力》のこと知らなかったのか?」
「…うん、そのアビリスってなんなの?」
僕はできるだけ情報が欲しくて彼に疑問に思ったことを聞いた。
「うーん…説明しにくいなぁ…簡単に言えば小説とかマンガで言う特殊能力かな?」
本人でもよく分かっていないらしい…でも彼の力は確かに魔法界の第一都市【紅玉都市】で使われている黒魔法だ。
「…そう、ところでここはどこかな?」
1度考えることをやめて僕は彼に疑問を投げかけた。
彼は1度面倒くさそうな顔をしたあとため息を吐いて質問に答えてくれた。
「はぁ…ここは俺の家、お前は俺の部屋の中で血濡れで倒れてたんだよ」
僕はその言葉に少しばかり考え込んだ。
確かに僕はここに来る前に色々あって重症でここに転移してきたけど…転移先が彼の部屋だったのか…あの時は意識も朦朧としてたし転移先を絞る余裕はなかったから…―
「考え事するのもいいけど…後にしてとりあえずお粥食えるか?」
僕の思考を遮り彼は呑気にもそう言った。
「ねぇ…ひとつ聞きたいんだけど君はどうして僕にそこまで優しくするの…僕は」
僕は彼が僕に優しくする理由がわからなくて聞こうとした余計なことを言いかけた僕を彼は止めるように言葉を発した。
「人に優しくするのに…理由なんているのかよ…」
ぶっきらぼうだけど優しい言葉だった。
「それに1度助けたのに助けてあとは勝手にしろってのは無責任だからな…お前の面倒事が片付くまで俺が手伝ってやる」
「…何も知らないのに自信満々だね、君が解決出来る問題かどうかも分からないのに―…」
彼の言葉は正直嬉しかった…でも…―
「初めて会ったけど…君のことは巻き込みたくないんだ」
僕が目を背けて言うと彼は呆れたように笑った。
「なっなんで笑うの!?」
「いや、だって…お前こっちの世界の常識とか価値観とか分かんのかよ?」
クスクスと笑いながら彼は僕に問うてきた。
図星を指された僕は黙り込むしかなくてその様子を見て彼はさらに笑いだした。
「あははっ俺は紅月 春夜、能力持ち!これから宜しくな!」
彼、紅月は僕に微笑みかけながら手を差し伸べた。
僕は無意識のうちに彼の手を取り顔を合わせた。
「僕は蒼月 冬夜、君で言う能力持ち…しばらくの間世話になるよ」
きっとその時は自然な笑顔で僕は笑えていたんだろう。
また笑える日が来るとは思わなかった。