もう一人の勇者
今回の視点は一人目の勇者視点です。
「そこの人!」
宿を出てすぐに息の切れた青年に呼び止められた。
なんだろう、あいつイケメンの部類に入るからムカつくな。
「俺をかくまってくれ!」
「はぁ?」
「お願いします!」
突然女の子の声が聞こえてきた。
声だけで分かった、これ美少女だわ、イケメンだけなら助けないが美少女が一緒なら助けるしかないか。
「この宿の入ってすぐの通路の奥の1024号室、俺の部屋だからクローゼットにでも隠れとけ」
「ありがとうございます!」
青年はお礼を言うとどたどたと宿の奥へと消えていった。
そして歩き出そうとすると火縄銃をもったいかつい男等が俺を呼び止めた。
「ここにステータス詐称の男が来てないか!」
ステータス詐称? タイミング的にあの青年だろう。
俺は嘘をつくかつかないかを一秒ほど悩み嘘をつくことにした。
「あそこの小道に泥をまきながら逃げていきましたー(棒)」
「あの小道か行くぞー!」
「おおおおーー! ああああ! この泥深い!」
腰まで沈んで動けなくなっていった兵隊を横目に俺は宿の中に帰って行った。
俺は部屋の前に行き、二回ノックして声をかけて開けてもらった。
「で、隠れさせてやったんだから理由を聞いてもいいよな?」
「はい……魔力の度数を見るじゃないですか?」
あれか、変なガラス玉みたいな。
「異常な数字が出たとか言って何回測っても同じ数字が出てステータス詐称と言われました」
そうか、それは災難だな。
正直言ってガラス玉は相手が用意するんだから細工のしようがないと思うんだが。
「しかし俺に関係ない」
「なんていうことを言うんや! 勇者なんですから助けようや!」
イヴが俺に噛みついてくる、どうしてそこまで勇者の仕事に対して敏感なんだ。
救うか救わないかは俺は自由だ、魔王を倒すも倒さないも俺の自由だ。
それに勇者は勇敢な者と書いて勇者だってのに、俺は勇者じゃ何のに。
「それなら私からのお願いならどうですか!」
さっきの美少女らしそうな声が聞こえた。
声は聞こえるが姿が見えない本当にどこにいるんだい。
「あなたの肩ですよ」
確かに肩に砂袋を乗せたような感覚がある。
言われるまで気づかなかった。
「妖精、小人?」
「いい線いっているけどデフォルトではスモールエルフって言うんです」
「だから耳がとがっているのか」
「ちょ、触らないでくださいよ、くすぐったいですぅ」
ぷにぷにすべすべ、この上なくかわいい……個人的に三つ編みなのが残念だな。
「可愛いだなんて、三つ編みは嫌いなんですか?」
「ポニーテールとかいいねぇ」
髪の毛の長さはすべてバラバラなので三つ編みにするとどうしてもぼさぼさに見える、あれが嫌いなのだ。
「へー、じゃあこれならどうですか?」
といってスモールエルフはゴムを外し、束ねられた髪をほどいた。
小さいのに女の子らしい匂いはした。
ゴムの方は切れてどこかに飛んで行った。
俺は懐に入っていた縫い糸を使いポニーテールに結んだ。
「やっぱりいいねぇ、ポニテ」
「お上手なんですね」
「おばあちゃんの髪を毎日整えてたからね」
「ポニーテールに!?」
「ま、イヴとスモールエルフに免じて協力してやる」
「ありがとう! 恩に着る!」
あれ? なんか大事なことを忘れているような気がするんだよなぁ。
俺はアカに何か忘れてないか? という疑問の顔を向けた。
「はあ、そのくらい気づいてくれないとこの先が思いやられるわ、ハァ」
あきれ顔にため息を二回もつかれた。
仕方ないだろ推理小説とか読んでるだけで頭痛くなってくるんだから。
「仕方ないなあ、なんで勇者だと知って嫌がらないんだ! って話でしょ?」
アカがけだるそうに教えてくれた。
そう言われたとたんにスモールエルフは顔を歪めた。
「あー、それが違和感の正体かー」
肩を見ると親指をくわえるオロオロしているスモールエルフがいる。
恐らく怪しまれ協力してもらえないと思っているのだろう。
「そんな苦虫を噛み潰したような顔しないでよ、必ず協力はするからさ」
「でも勇者ならあなたの事情も説明してもいいんじゃない?」
事情? もしかして一国の王子だったり、獣人だったりするのか?
囚われの身で逃げ出してきたとか
「いいわけないだろ、転生者なんて言って信じてもらえるわけないだろ?」
「いや、俺召喚者だし」
「ほら、勇者だもん、勇者は異世界からくるのがセオリーでしょ」
絶対に違うからな。
勇者はもともと住み着いてる奴が世界の平和と称して復讐のために動くやつだからな。
「ね、言っていいでしょ?」
「確かに……」
「何の話をしているんでしょうね?」
イヴが俺に小さい声で俺も解けない難解な質問をぶつけてきた。
わからないと答えるとイヴはあのエルフとはどういう関係なんですか! と大きな声で騒いだ。
騒ぐなら小声じゃなくてもいいだろ。
「知らないさ今日初めて会ったんだから」
「本当ですね……」
イヴが涙目になりながら聞いてくる。
別にお前は俺の恋人じゃないんだからいいだろ。
「なら本人に聞いてみればいいだろ」
「どうなの」
天井近くを飛んでいるスモールエルフに上目遣いで聞いている。
上目遣いは天然なのか狙ってるのか?
俺はイヴに見えないように何でもいいから話を合してとジェスチャーをした。
「今日初めてあった人よ」
「なーんだ、よかった」
あっさり信じやがった、本当に食ってるのかこいつ。
「ちょろいですね」
「だろ」
イヴには聞こえないようにイヴのちょろさに同意した。
「分かった話そう」
部屋の隅で一人で悩んで答えを出したらしい。
さて聞いてあげるか。