茶の町
外壁が見えてきた。
馬車主に聞いたところ徒歩なら十四日のところを馬車で六日間で来たのか。
「じゃあな、俺はこっちの商工用の関所だからな」
「はい、ありがとうございました」
俺は軽くお辞儀をし、お礼を言って馬車主のおっさんと別れた。
「イヴ、行こうか」
「うん!」
イヴは俺と旅ができることが嬉しいようだが正直不安だなぁ。
おっさんはさっき関所といった。
多分人にもあるんだろぉ、別種族ってばれたら殺されるだろぉ、それに俺の連れとかだったら俺も巻き添えくらうし。
「イヴ、耳かして」
俺はイヴに耳打ちで、もし正体がばれそうになった時の対策を話しておいた。
これで万に一つは助かるかもしれない。
「次だ、来い」
鎧を着たごついおっさんが俺を呼んだ。
肌は茶色でスキンヘッドで筋肉ムキムキで高身長である、映画なら真っ先に死にそうなオーラを出している。
「手を出せ」
怖い、それしかないだろぉ。
俺は震えながら手を出した。
「ステータスを測る、魔力を込めろ」
「え? 魔力?」
「そうだ、早くしろ」
なぜ、魔力なんだ? 魔力でステータスがわかるけないだろぉ?
でも、怖いし込めるしかないんだよなぁ。
「魔法を出す要領で……」
これで、魔力を込めれたと思う。
鎧の男も紙に記録を始めたのでこれでいいのだろう。
「通っていいぞ、次だ、手を出せ」
イヴの番だ。
俺の連れということで、邪魔にならないところで特別に待たせてもらっている。
「よし、良いだろう…だが本当にお前の連れか? 魔力量の差がとてつもないんだが」
「俺が行き倒れのところ救ったんだ、森の中だからな魔力量までは知らない」
「そうか、わかった」
俺はイヴと一緒に町の中心まできた。
中心部まで歩いて品を見ていたがこの町は茶葉をメインに売っているみたいだ。
「この町は嬉しいねぇ、茶葉の匂いが心地いいよぉ」
「私は無理、鼻があほなりそ」
確か狐はイヌ科だから鼻がよすぎるのだろう。
人間の千~一億倍くらいだったっけ?
「口で息してろ、多分おいしい空気だぞ」
「うー」
イヴは苦しそうに顔をしかめる。
しばらくこの街に滞在しようと思ってたんだが、仕方ない、少ししたらまた町を出ようか……
「聞き込みと、あるか知らないけど馬車の手配がこの街での課題だな」
「諦めてないんやな、魔王」
「そんな顔すんなっての、嫁さんだろ、子供にそんな顔見せるのか?」
「むー」
顔を赤くして隠す。
イヴは嫁という単語に弱い、こうして嫁と言っておけばめんどくさい会話はスキップできる。
「大体、聞き込みってのは酒場が一般的だろ? イヴは酒飲めるか?」
「バリバリいけるで」
「耳立たせるな」
「やばっ」
……こいつに酒はだめだ、絶対ばれる。
「酒場はやめだ、宿を探そう」
宿主に金出せば教えてもらえるものもあるだろう。
「イヴってさあ文字読み書きできる?」
「まあ、ロイとヴェリが少しくらいかなぁ、カンは無理」
ロイ、ヴェリ、カンがこの国の言語なのか?
話すのは日本語なのに書きが違うとはこれ如何に。
まあ、難易度的にはロイがひらがな、ヴェリがカタカナ、カンが漢字かな?
「あそこの看板は何で書いてある?」
「ロイとカンやね、うちじゃ読めへん」
そっか、じゃあ恐らく宿への案内の看板もカンで書いてあるんだろう。
絶体絶命かなぁ、せめてロゴみたいのがあれば助かるんだが。
「お兄ちゃん悩み事?」
俺が悩みながら歩いていると水色の髪色で若干イヴよりも背が高い女の子が抱きついてきた。何だか懐かしい感じがする多分着のせいなので気にせず質問の返事を返す。
「ん、ああ、宿を探しているんだけどいいとこ知らない?」
「そうなの? じゃあこっち!」
俺はその女の子に引っ張られながら、硬直するイヴを引きずって女の子の案内について行った。
「ここ」
少女に案内されてきたのは綺麗な白色の壁でできた宿屋とは思えない大きな屋敷だった。中は綺麗に清掃されており奥から急ぎ足でさっき外にいたはずの少女がいた。
「私が受付嬢です一泊飯付き屑銅20枚か銅貨2枚」
やばいな今屑銅持ってない。
大金貨で出しても迷惑なだけだろう。
あの王様嫌がらせにもほどがあるだろ。
二千円の買い物に百万円で払うのと同じだろう。
「ごめんなさい、今金貨しか持ってないんですよ」
「そうですか、私も余りを出せませんし……」
こんなにも悩んでいるのに硬直しているイヴが少しうざく感じてきた。
頭叩いたら再起動するかな?
「おい起きろ」
「ぎゃ!」
強めに頭を叩いてやった。
うまいこと再起動されたかな?
「あー、痛い」
「イヴ金持ってるか? 俺、金貨しか持ってなくて払えないんだ」
「あれ? お姉ちゃん何やっとんの?」
お姉ちゃん?
ああ、どこかで見たことある髪だと思った。
アカだったっけ? なんでここにいるんだ?
「ていうかわかってたんなら教えろよ」
「びっくりしたんや、人間嫌いお姉ちゃんが人間に抱きついたから」
「演技ってのは必要なもんでしょ」
「まあ、そこは興味ないから宿の件どうなるの?」
「ばれたもんはしょうがないからなタダよ、タダ!」
まあ、相手からしたら嫌なものに抱きついて正体ばれて大損だろうな。
イヴはお姉ちゃんと出会えて嬉しそうだがな。
「アカさん、馬車の手配とかできる?」
「無理、馬車は最近不足気味で借りられる人限られてるから」
まじか、勇者って言ったらロバでも貸してもらえないかな?
ロバの体力的に無理か。
「明日考えるか」
「寝るの? 今昼だけど?」
「夜に活動するためだよ、多分ギルドって24時間営業でしょ」
「24時間が何か知らないけど、いつもやってるはずだよ」
やはりな、じゃあ俺は寝るから部屋を案内してもらおうかな。
「ほんとにいいんですね? 部屋は廊下の奥の1024ですよ」
「じゃあ、寝るわ、イヴはお姉ちゃんとどうするか決めとけ、後でこの教えろよ」
「「おやすみ」なさい」
イヴと別れて、自分の部屋の中に入った。
ベット一つと小さな机が一つ一人用にしては異様に小さいクローゼットとなかなかシンプルな作りになっている。
ベットに横になり寝ようとしたら何やら外が騒がしくなっていた。
もしかして俺が勇者だってわかったのか!? ……なわけないか、野次馬みたいに何があったのかは見ておこう。