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異世界ストッキング小話

作者: b2ox

最近王都ではストッキングなる薄手の靴下が流行している。

絹糸のような細い糸で作られているようなのだが、織り目や編み目と呼べるものがなく、まるで足型の繭といった代物である。

シンプルな物は一定の薄さであるのでほぼ繭であると思われるが、上級品では部分的に厚みを変えて模様が作られていたり、上級貴族からの注文のみの最高級品ではまるでレース編みのような複雑な模様もあり、ここまでくるととても繭とは思えない。

その装飾性や肌触りの良さから貴族からの引き合いも多く、利益もうなぎ登りで開発者はストッキング長者と呼ばれつつあった。


現在ストッキングを製造・販売しているのは開発者が立ち上げた商会のみである。

他の商会も作ろうと試行錯誤しているようだが、なかなかうまく行かなかったり、近いものは作れても採算が取れないなどでどこも売り出すには至っていない。

このため需要に製造が追いつかず、一番下のモデルですら数ヶ月の予約待ちという事態になっていた。

また一部の貴族や成り上がりの金持ちなどが無理やり予約に割り込もうとして脅しを行うなどの蛮行も出始めたため、苦渋の決断として他商会に製造法を販売し、供給量を増やすこととなったのである。


 ☆


えー、皆様、本日はストッキングの製造法のご購入まことにありがとうございます。

私が最近巷を騒がせておりますストッキング長者でございます。

先日より販売いたしております当商会のストッキングは王都の皆様から御好評いただきまして、

作る端から売れていくというのを越えて、早く作れとせっつかれる状況になっております。

今回皆様に製法を販売するのは、ある意味では製造・販売の御協力をお願いするということでもあります。

本日の講演に参加して頂いた商会の方々にはなるべく早く製法を習得してストッキングの供給量を増やしていただきたいと思っております。


さて、そもそも私がストッキングを開発するに至ったきっかけは、今を去ること二年前、ちょっとした息抜きで近くの森に散策に出かけた時に遭遇した出来事でした。

その日散策途中で少し森が開けた場所にいわゆるフェアリーリング、茸が輪っかになってる広場を見つけまして、ちょうどよい感じに陽の光が差し込んで、風もそよそよと心地良く吹いていたものですから、ここらでちょっと休憩と靴と靴下を脱いで、軽くおやつをつまみつつ横になりました。

そうしたらその心地よさにいつの間にやら寝入っておりまして、ふと目が覚めたらすでに夕方になっていたのです。

こりゃいかん、早く帰らなきゃと思って靴下を履こうとしたのですが、なにやら足に薄い膜が張った感じになっておりまして、近くに数匹の小さな蜘蛛が居たのです。

近くというか二匹ほどは足の上に乗って今まさに糸を噴いている最中だったわけですが。

ええ、この時閃いたわけです。これはイケると。


私、実は前世の記憶持ちでして、この足をすっぽり包む薄い蜘蛛の巣を見て前世の世界のストッキングを連想したのですよ。

前世の記憶持ちの人ってそこそこ居て、石鹸作って儲けた人とか、他にも缶詰やらリバーシやら、ええ、そちらの商会の初代様もそんな感じでしたよね、たしか。

私も常々そうなりたいなとは思っていましたけれど、すぐに思いつくのはとっくに商品化されていましたから、前世知識を活かす機会なんてないのかなと諦めておりました。

そこに来てこの蜘蛛、私はストッキング・スパイダーと名付けちゃいましたけどw、その発見でとうとう自分にもチャンスが巡ってきたと喜んだわけです。

幸いストッキングに類するものがまだ出回っていないことはすぐにわかったので、早速開発に取り掛かりました。

そうして試行錯誤すること一年ちょい、聞くも涙、語るも涙なあれやこれが…ってそんなこといいから早く作り方教えろって?

はいはい、お高い講演料も頂いたわけですし、お教えいたしましょう。


当商会のストッキングの製法は、大雑把に言えば石膏などで作った足型に巣を張らせて、それを薬液に付けてベタつきを取った後、型から外して干すというものです。

これから工程順に説明をします。

まず、足の形に巣を張らせたいわけですが、生足に蜘蛛を数匹とりつかせて数時間じっとして巣を張らせる、なんてのは新手の苦行か拷問です。

なので、生足の代わりに石膏とか木とか粘土で作った足型を使うわけですが、そのままでは蜘蛛は足型に巣を張りません。

色々試した結果、ラードに塩を少々混ぜたものを足型に塗ってやると巣を張りました。

おそらく脂分と塩分があることで足型を生足と勘違いするのではないかと思われます。

ちなみに、塩分は多すぎてもダメなようで、わざと塩を多めにした部分は巣を張りませんでした。

そしてちょうどよい量を探るために一定幅で塩の量を変えて塗ってみたら、ちょうどよい量から離れた部分の巣の厚みが薄くなることに気づいたのです。

ええ、そうです、中級品の模様は塩の量を調整して厚みを変えることで作っています。

え?上級品の複雑なのはどうやってるのかって?

それはですね…私ストッキング・スパイダーの世話をしているうちに蟲使いのスキルが発現しまして、

そうですそうです、スキルで直接、細かい指示を出して巣を張らせて細かい模様を作ってるんですよ、だから手間暇かかってしょうがない。

だからこそのあの価格なわけです。

それはそれとして、ちょうどよい具合に巣を張ったら濃い目の塩水を霧吹きで吹き掛けてやると、蜘蛛は巣作りをやめて足型から離れます。


さて、ここまででストッキングの形自体は出来上がっているわけですが、そのままではベタついてしまって型から外せないし、外す途中でくっついてぐちゃぐちゃになってしまいます。

そこで、薬液に漬けてベタつきを取るのですが、この薬液というのは実は酢水です。

ワイン酢とか穀物酢とかレモン汁とかを水で薄めたものに半日くらい漬けます。

濃ゆ目の酢に漬けて時間短縮も出来ますが、酢の臭いが付いたり、若干柔軟性が落ちるようなのであまりおすすめできません。

次に型から外すわけですが、これは重曹を混ぜた人肌よりちょい高めのお湯の中で行います。

これは酢の中和とラードを取り除くという意味合いがあります。

型から外したら後は軽く絞って陰干しすれば完成です。


以上が当商会のストッキングの製法の概要です。長時間のご清聴ありがとうございます。

なお、塩や酢水の濃度などの詳細情報やストッキング・スパイダーの育成方法、ストッキング・スパイダーそのものについては別料金で応相談となっておりますので、こちらもよろしければご購入を検討願います。


 ☆


この講演会からしばらくして、いくつかの商会からもストッキングが製造・販売されはじめ、予約待ちは解消された。

そして、ストッキング長者はストッキングの次の商品として同様の手法でブラジャーを開発し、貴族の御令嬢方のおっぱい型を合法的に集めてニヨニヨしてたとかしないとか。


以前twitterで「ファンタジー世界なんだから、化学繊維と同じ性質の繊維が採れる植物があってもいい。つまりファンタジー世界でも謎スパッツや極薄レオタードは存在してもいいんだ」ってのを見て、その時は「蜘蛛が獲物をぐるぐる巻きにする性質を使って作るピッチリスーツ」とか面白くね?とかツイートしたんだけど、しばらく経ってふとこの話が湧いて出てきて一気に書き上げてしまいましたw

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