picture5〜終わらない未来〜
辛い訳じゃない。
泣きたい訳じゃない。
それでも君に会うと感情が止められなくなるんだ。
「僕が岩手に行くって言ったら、賛成してくれる?」
「もちろん!」
君がそう言って、とびきりの笑顔を見せてくれたから、やっぱり行きたいなぁ、なんて。僕はどうしてこんなにも身勝手なんだろう?
僕は結局岩手に行く事になった。使用人も辞めて、飛び立つ事になった日、君が送りに来てくれるなんて、正直思ってもいなかった。
飛行機が飛ぶ直前に、走って来る君が見えた事。それに加えて、君がくれたサプライズに僕は今でも支えられているよ。
「左手、出して?」
「えっ?」
君が突然そんな事言い出したから、訳が分からなかったけど。恐る恐る出した左手の薬指に、そっとはめたのは、僕が渡した指輪だった。
「どうしたの?これあげた指輪じゃない?」
「そーだけど…、そっちは、洋さんのでしょ?」
そう言いながら、君はもう一つの指輪を僕の手に持たせた。
それは君の指輪だった。
「これ…。」
少し震えながら、君は左手を出した。でも僕はどうしても君の左手に指輪をはめられなくて、君の右手の薬指に、そっとはめた。
「何で左手にはめてくれないの?」
「まだ僕は、君を幸せに出来ないから。」
「…そっか。」
そして君は、笑った。
そんな君に、そっと口づけをした時、君の唇から漏れる熱くて、優しい吐息が、僕の胸を締め付けた。 目を開けると、君は消えてしまいそうで。それでも、目を開けるとそこにあったのは、泣きそうな、でも凛とした笑顔だった。
君は、今でもまだ、そんな笑顔を誰かに見せているのだろうか? 空の上から見下ろした。君の住む街が遠退いて行く程、思い出にさえモヤがかかったように小さくなっていった。
初めから小さい君が余計小さくなって。
一生懸命、目に焼き付けようとして。どうにか最後くらい澄んだ目で見つめようとするのに。
どうしてこんな日に…。
涙で滲んで君が見えないんだろう?
馬鹿な僕。それでもそんな僕との思い出を、傷付けないように、無くさないように。包み込んだのは、君だった。君の瞳に映るものは、僕の見つめる君で。
優しい君の、甘い棘が、胸に刺さって抜けなくなった。出会ったあの日から、こんな運命だと気付いていた筈なのに。
それでも僕は、君に会えて良かった。
最後に僕の贈るものは、君に似たかえでの言葉だった。
「ねぇ、知ってる?かえでの花言葉って…約束なんだって。」
届け。
君に、君へ。