picture2〜君の肩に〜
君の事をこんなに意識するようになったのは、もうずっとずっと前の事だ。それは同情だったのか。それでも伝えられなかったのは君が幼すぎたから?
「ね、洋さん。ちょっと相談したいことがあるんだけど後で良い?」
「良いよ。じゃあ、休憩の時に庭で良い?」
「うん。じゃあ、待ってるね!」
君に相談してなんて言った事は本当に後悔した。でも、接点がそれしか無かったから嬉しくもあったけど。そのせいで君にちゃんと学校生活ってものがあって、ちゃんと普通の女の子として恋をしてるんだって思ったら悔しかったんだ。
「本当にごめんね。私の恋の話なんて面白くないでしょう?」
「そんなこと無いよ。また何かあったら言って?」
「ありがと。」
時々君は本当に哀しい顔をする時がある。僕の前ではやっと笑ってくれるようになったけれど、いつもはどうなんだろう?僕はいつも君の周りの空気に嫉妬してた。
君と初めて会ったのが、君が10歳の時だったから、僕はずっと君が中学生になったらこの気持ちを伝えようと思っていた。あんまり溜めると溢れてしまう気さえして。
「広田くん、最近中原様と仲良いのね?」
「え?ああ、ちょっと話してるだけですけどね。」
「そっか。意外と本気なのかと思った。まあ、あの子と付き合うなんてなったらここで働いてなんていられないだろうけど。」
僕はいきなり現実をつきつけられた気がした。そうだ、あの子は『菅様』の婚約者だ。
「そんな訳無いですよ。まだ小学生なのに。」
どうも僕は人とは少しずれているらしい。僕の気持ちが知られたら、きっとここで働かせてもらえなくなる。それでも諦められないなんて、やっぱり少しずれているんだ。
君は今日、中学校の入学式だったらしい。一番にお祝いしてあげたいくらいだったのに、実際に会えたのは二週間後だった。その時聞いた言葉に、僕はショックを受けてしまった。 「聞いて、洋さん!気になる人が出来たの。同じクラスの子でさ、まだ好きってまではいかないけど。」 「あっ、そうなんだ。そりゃあ頑張んないとね!」
「うん!頑張るよ。」
中学生になったら気持ちを伝えようと思っていたのに、それはできなかった。僕は君が残酷な程、純粋だと知ってしまったから。
でも、君の純粋な恋も、今までの君の恋と同じ様に、叶わない恋だったのだろう。そして…僕の事に関してもそうなのだろうか・・・? 「私、この恋諦めるよ。」でも君は突然そう言い出した。
「それで部活もやめる。」
「なんで?テニス好きなんでしょ?」
「うん、好きだよ。でもさ、このまま続けても友達に迷惑かけちゃうし。好きな人の事も、菅さんの家に迷惑だから。」
「でも!…なんで急に?」
「転校の話が出てきてるんだ。もしそうなっちゃった時にすっきりできる方が良いじゃない?」
君はそう言いながら、少しだけ泣いた。僕にはそんな君をどうしてあげれば良いのかわからなくて、声をかける事しか出来なかった。
「無理しちゃ駄目だよ。自分のしたいようにしなきゃ。」
「ありがと。でも、大丈夫だよ。テニスはどこだって出来るし、恋だって。…でも、学校は離れたくなくてさ。未練がましいかなあ?」
君は無理して笑おうとして、見ていて痛々しかった。なんだか壊れそうで。
「僕と付き合ってくれませんか?」
その瞬間、自分でも驚いてしまうような言葉が口を切って出てしまった。
「えっ?何が!?」
当然君は僕なんかよりずっと驚いていた。
「僕と、菅様の家から逃げませんか?」
君は何かを考え込むようにうつ向いたままで、しばらく顔をあげなかった。
「少し、考えさせてほしいの。」
それは、まだ春の匂いの抜けない…優しい初夏の風が吹く日だった。