picture1―君の目―
運命ってものを、君は信じてくれるだろうか? 初めて見た時からずっと、君は哀しい目をしてた。 まだ幼いくせしてこの世の全てを背負ってしまったかの様な君の目は僕の胸の奥に焼き付いてしまった。
その時はまだ小学生だった君にこんな想いを抱いてしまうなんてやっぱりおかしいのかな?
「ちょっと…広田くん?今日は忙しいんだからシャキッとしてよ!」
「あっ、すいません。…あの、高橋さんあの子誰か知ってますか?」
高橋さんは手を休めることなく言った。
「知ってるもなにも、今日私たちあの子の為に働いてるのよ?」
「へっ?そんなすごい子なんですか?」
「うーん、すごいっていうか…あの『菅隆之』様の婚約者よ。まだ小学生なのにねえ。」
僕はその言葉をあまり信じられなかった。
「えっ、でも菅様付き合ってる方居ないって、言ってらっしゃいましたよ!?」
「うぅ…ん、私も詳しくは分からないけど…親に決められた結婚っていうの?あの子の親族がいろいろあるみたいだけど。」
「そーなんですか。…やっぱ無理かなぁ。」
「はっ?何が??」
「あ、いや何でもありません!」
16歳で菅家の使用人として働き出したのは父の影響だった。父は幼かった僕にとって、どんな人よりもすごい人なのだと確信していた。…今もそう思っている。
仕事を始めたばかりだった頃に君に会えたのは本当に幸運だったと思っている。仕事がまだ忙しくなる前だったから、君とたくさん話せるようになったんだ。
『中原菜穂』
君はいつも一人の時ノートになにかを書いていて、僕はそれがずっと気になっていた。今日もそう、そんなとき初めて声を掛けたのだった。
「あの、菜穂様。初めまして、広田洋と申します。座ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。…あなたは、使用人の方ですか?」
「はい、まだ入ったばかりで。それよりも…いつもそのノート書いてらっしゃいますよね?それってなんですか?」
君は少し困ったようだった。
「えっと…恥ずかしいんですけど、物語を書いてるんです…。」
「物語!そうなんですか、凄いですね!」
「そんなことないですよ!ただ…将来は、作家になるのが夢で。」
「なるほど。実は僕も作家になりたくて。もちろんこの家で使用人になれたんで良かったですけど。菜穂様、何かありましたら相談してくださいね。この家あまり歳の近い人いないですし。あっ、僕も若くはないですけど。」
君は初めて笑った。
その時の気持ちを恋と呼ぶのならそれでも良いと思った。
「ありがとうございます。じゃあ、様ってやめてもらえますか?“ちゃん”とかの方が嬉しいです。」
やっぱり君は笑顔が似合う子だ。
「はい。…ナホちゃん?」