1日目
侑弥が目を開けると、その視界に飛び込んできたのは寂れた様子の村の風景であった。
いや、そこを村というには少しおかしな場所である。
村の周りは覆い繁った樹々で囲われており、必ずあるはずの村の出入口はなぜか見当たらない……ここはそんな閉塞的な空間であった。
逆に村の中に目を向けてみると、そこにあるのは円を描くように建てられた16の家屋とその中心にある井戸、それだけである。
訳もわからずこのような状況に放り出されたとしたら普通パニックになることだろう。
しかし侑弥にとって少しおかしなこの場所は、何度も来たことのある場所だった。
「まだ誰も来てないみたいだな」
侑弥はそうつぶやくと、井戸の淵に腰を掛けた。
ーー人狼オンラインーー
それは『いつでもどこでも誰とでも』をコンセプトに開発された、仮想空間における人狼ゲームのことである。
侑弥の今いるこの場所はその仮想空間内であり、何度もこれで遊んでいる侑弥にとっては見慣れたものだったのだ。
「さてさて、今日はどんな村になることかね」
楽しみだ、と内心思いながら他の参加者を待つ。
そして5分も経たないうちにGMを含めた17人全員がそろった。
「ではルールの説明をさせていただきますね」
井戸を囲むようにして、16人がGMの言葉に耳を傾ける。
ちなみに基本的にはGMのアバターや説明は変わらないのだが……このGM、腹立たしいくらいにイケメンである。
「以上で説明は終わりですが、何か質問はございますか?」
その場にいた全員にその意志がないことを確認したGMは、満足そうにうなづいた。
「ではこれより夜時間に入りたいと思います。おやすみなさい」
GMの言葉とともに空は赤くなり、やがて真っ暗になった。
それを確認した各プレイヤーはそれぞれ名前のつけられた家へと入っていく。
プレイヤー:ユウヤも例にもれず、自分の家に戻っていった。
「さて、まずはプレイヤー名の確認からだな」
ユウヤはパソコンに表示されたプレイヤー名を、各家に配置されたメモ帳へと写していく。
家にあるものはそれだけだ。
占い師はパソコンで名前を選び、クリックすればその人物が○か●かわかる。
霊能者にはパソコンにその日の処刑者が○か●かがメールで送られてくる。
狩人は占い師と同様、クリックすればその人物を護衛できる。
共有者と人狼はパソコンのSkypeを通じて会話ができる。
ここでは寝ることも食べることもないので、パソコンと昼議論をメモるためのメモ帳があれば十分なのだ。
「まぁ今回はパソコンも、名前確認のためにしか使わないけどな」
今回ユウヤが希望した役職は『村人』であった。
何の力も持たない役職。
しかしユウヤはこの役職が好きだった。
「吊られることを恐れず、意見を言えるのは楽しいからな」
例えその意見が村の総意と食い違い、ユウヤ自身が吊られてしまったとしても。
学べることが多い役職だ、とユウヤは感じている。
「さて。今回の参加者のプレイヤー名は俺ことユウヤ♂、アリス♀、ソウジ♂、ツバキ♀、トミー♂、ヌー♀、ヒイラギ♀、ガイ♂、ゴール♂、ザキ♂、ジュリー♀、ズン♂、ゾノ♀、パックン♀、ピンク♀、プリン♀、そしてGMの計17人だな」
ユウヤ自身、まだ他の参加者のアバターと名前は一致していないが、この仮想空間ではアバターの上に名前が表記されるようになっており、途中で名前がわからなくなるといったこともない。
メモ帳に名前を写し終えたユウヤは、夜が明けるのを今か今かと心待ちにしていた。