学歴
なんで?
仕事が終わり、帰宅したら妻子がいなくなってた。
誰もいない部屋を見渡すと妻の化粧品がなく押し入れが開いていて、そこにあったはずのキャリーバッグがない。
来月でちょうど一才になる娘の哺乳瓶やお着替えもない。
明らかに出ていった。
しかし、ボクは会社に行く前の出来事を思い、やっぱりなぁと思った。
エピソード1「学歴」
ボクは冬季に大雪になる北海道北部の小さな町の出身。
小学校1年生ぐらいまでは農協直営の小さなスーパーしかない町だったけど某大手のコンビニができた時はすごく興奮した。
興奮のあまり、なけなしの全財産100円を握りしめコンビニに行き、たいして欲しくもない食玩を買おうとした。
「ボク、あと20円足りない」
店員さんの言ってることが理解できなかった。
「100円あればお菓子いっぱい買えるよ」
店員さんが優しく言ってくれた。
「茶色いお金は持ってない?それが二つあれば買えるんだよ」
「二つも必要なんだ」
「ママに言えば10円玉貰えると思うよ」
「10円玉?20円じゃないんだ」
「ボク、ママに言ったらわかるから聞いてみて」
10円と言われたり20円と言われたり訳がわからなかったけど、
「わかったママに聞くね」
この時が初めてお金を使った時だった。
お金を使うことで商品売買、お金の循環に貢献してたことになるのだけど、ボクが商品売買や経済というものについて知るのはこれから何十年も先だ。
ボクは子供の頃から無知だった。
小学校3年生から始めた野球は4年生を待たずに辞めてしまい、勉学に関しても4年生ぐらいで習う、分数で躓いてしまい、それから授業中はうわの空で成績は下から1番2番をウロウロ、家ではゲームばかりの生活だった。
中学生になっても大筋は変わらない。
ゲームばかりしていたせいで肥満体型でスポーツはダメ、勉学もさっぱりでモテるはずもなく、思春期であったから好きな人はいた、でも何もなかった。
本当に何もなかった。
高校には行けた。
面接だけで入れる学校だったから、高校ではさすがに何かしたいと思い、柔道部に入った。
小学校時代の野球以来スポーツはしてない。
1年続かなかった。
ボクが自分をダメ人間だと初めて思ったのはこの時だ。
高校生活は少し思い出がある。
気の合う友達ができたから、当坂と書いてあたりざかと読む珍しい名字の友達だ。
当坂がたまたま自転車で遠出しようと言い出し、札幌の方まで行ってみたら、すごく楽しかった。
休みの日は当坂と自転車でフラフラするのが日課となっていた。
高校2年生になってしばらくしてからボクは転校した。
理由はない。ただなんとなく学校が嫌になったから
転校先では友達はできなかった。
この時、ボクは履歴書の存在も知らなかった。
高校3年生になると、卒業後のことを考え始めた、なんとなくトラックの運転手か自衛隊に行こうと決めた。
今、思えばボクは世の中にどんな職業があってどんなことをやっているのかをまったく知らなかった。
本当にただの思いつきだった。
学校の先生に言ったら、トラックの運転は資格がないとダメだからまず自衛隊行って資格を取るといいと言われ、自衛隊の広報の人を紹介してくれ、淡々と色々な説明を受け、試験日を迎え、何故か受かった。
本当にだだの運、試験を終え会場を出て空を見たら親指を立てたように見える雲があった。
ボクはなんとなく受かるような気がして、本当に受かった。
でも今、思えばその雲はボクに対して親指を立てていた訳ではなかった。
そして卒業後、自衛隊に入隊した。