いんたーみっしょん 「ダニエラという女」 Aパート
親ゆずりの糞真面目さで、いつも損ばかりしている。
小さいころから、近所のもっと小さい子の面倒をみていたり、近所の人の手伝いを、何故か一緒にしていたり、誰かを助けている姿があたりまえだと思われていた。
冒険者なんて、ヤクザな商売を始めても、助けて欲しいと言ってくる人が後を絶たない。
むしろ、子供のころよりもっと深刻なお願いをされていた。
それでも、えいやーっ、とやってやれば、感謝もされる。尊敬もされる。
でも、なんか幸せになった気がしない。
これは、そんなこじらせてしまった女(22)の物語。
故郷のサムシングロイヤル領の貿易港にある、砂糖桟橋で仕事をしていたら、気がつくと、そこで働いてる女六人でいつの間にかつるむようになっていた。みんな、揃いも揃って乙女だった。男よりも膂力があっても、女は女。男社会の砂糖桟橋では肩身が狭くなったころ、誰かが冒険者になろうって言い出した。
冒険者になっても、やること自体は、そうそう変わらない。手伝い、炊き出し、ごみ掃除。女手仕事に貴賎なし。そしてついでに報酬なし。
ある日町の外近く、迷宮が入口を出してきた。ついでに魔物も顔を出す。
大の男が逃げ帰り、扉を閉めてガタブルと、今日も明日も閉店す。
仕方なしやとお鉢が回り、仕方なしやと毎日潜る。朝来て夜出て、朝来て夜出て、朝来て夜出て、
五日、十日、二十日、三十日、朝来て夜出て、朝来て夜出て、朝来て夜出て、繰り返し。
遂には三百五十と五日、とうとうぽきんと迷宮折れた。死んで、枯れて、腐って消えた。
討伐証明、きらきら光る。巌のような宝玉。
結果、いくつか判ったことが、ギルドに報告されました。
一つ、迷宮はべヒモスの蛹。十年程度で成長し、成体化したら、一巻の終わり。
一つ、迷宮のモンスターは、全部偽物。本物喰らって姿をまねる。
一つ、喰らった本物全部えさ。迷宮えさ喰い成長してる。ここは入るのうちらだけ。だから簡単。
あっさり折れた。地道に潰してまわっていたら、一年たったら向こうが折れた。
そう、言っていたはずなのに、迷宮殺しの英雄にされた。迷宮殺しの英雄にされた。
……そして、残念、婚期が逃げた。そろいもそろって全員逃げた。結果今でも乙女のまんま。
英雄様では嫁にはできぬ。そう言い男は全員逃げた。婚期と一緒に全員逃げた。
そうして、五年が経ちました。間にも一度迷宮殺し、お金の量だけ倍に増え、一人が死んで一人増え
「シュガーレイ ワークス」は、押しも押されぬ Aランク。
もう、やだ、迷宮もう嫌だ。そうして選んだ次の仕事。盗賊兵団「ザンゲ 公国」潰して殺して討伐しよう。
集合場所にいってみた。A級S級A級S級うちらよりも上がいた。その上D級なったばかり、なのに勝てる気全くしない。そんな化け物までおりました。
「注目! 今回の作戦の指揮をとります、ルティナス子爵夫人 です」
驚いた。領主様が直々に指揮するというのか? 一般には「ドメーヌ クリフォード」の方が通りがいいかもしれない。昨年の「ウイノク=サバランの変」を未然に防いで「聖女様」になられた方だ。私たちの地元の英雄様が、襲爵して新たな領地へ行かれたとは聞いていたが、まさかここだったとは。
「今回の作戦の肝は、最大機動力を持ち、最大火力を持つパーティーに、敵陣深くまで先行してもらい、その途上で敵の混乱を作り上げる。その隙をついて後発組が、混乱状態の敵を殲滅する。先発組のパーティーには、危険が伴うが、これが、最も確実な戦術であると確信している。それでは、その、先発組と後発組の振り分けであるが」
そんな、危険な仕事を引き受けられる凄腕がこの中にいるのか?どきどきした。そんな強者なら、私のことも、受け入れられるだろうか?
「先発組は、Dランク プロジェクトGの三人にお願いする。残りのものは、後発組だ」
周囲がどよめく。え? D? 三人!?
「何か質問事項はあるか?」
凛とした聖女様の言葉に、我を取り戻すと、私は挙手した。
「それは、先発組を使い捨ての捨て駒として使用するということでしょうか?」
「いいや、違う。生還率が一番高くなる方法を考慮した結果である。彼らは、特殊な装備を所有しており、今回の作戦は、正にその装備の活躍の場となるであろうからだ。現に、私は今回の作戦にあたり、諸君らと一本釣りで契約を行ったが、まず一番最初に声をかけたのが彼らだ」
そこで、一旦言葉を切り、
「今回の作戦決行は、彼らが了承して初めて成立したものである。この決定に異議があるものは、今からでもかまわない。契約を取り消して退室していただいて結構だ。それで、異儀のある者はいるか?」
しーん、と室内は静まり返っている。ここまで言われてかえって彼らへの興味がわいた。
他のチームも同じだろうか?誰も出ていかない。
「宜しい。それでは作戦の詳細について説明する。まずは……」
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ブリーフィングが終わって外へ出たところで、
「ダニエラお姉様!?」
と、声をかけられた。あれは……。
「スー、 スカーレット ディガーじゃないか! 久しぶりだな!」
「ご無沙汰しております。お姉様がこちらにいらしたのは、もしかして?」
「ああ、領主様に直々にお声掛けいただいた」
「まぁ、迷宮殺しの英雄、ダニエラ シュガーレイ様がいらっしゃれば何も怖いものなどありませんわね」
「そうでもないのだ。我々は今回おまけみたいなものらしい」
「!? どういうことですの?」
先程の、室内での顛末をつつみ隠さず話す。
「そんな、凄まじい能力をお持ちの方がいらっしゃるのですか?」
「ああ、まるで、御伽噺の勇者様のようだな」
「……勇者様♡ ……」ほわん。
な、なんだ? この可愛い生き物は? ここまで女子力に差があるというのか?
なんか、悔しいので、話題を変える。
「ところで、スーは、今なにをしているのだ?」
「わたしは、先日登用試験に合格して、一等書記官になりました」
いっと、何だって? 領主様の腹心じゃないか!
凄まじいのは君だ! スー。天は、二物を与えたか。どんだけ愛されキャラなのだ。なんか、敗北感ばかり増えていく。
近いうちの再会を約束し、逃げるように外へと出る。射撃訓練場の前で噂の主が変なものをもって立っている。興味が湧いて見ていると、仲間たちが、そばで話しているのが見えた。
「ラナ! みんなも、何やってんだ?」
「ダニエラ! プロジェクトGが、秘密兵器の試射をするんだって!」
「何でも、水鉄砲のすごいのらしいよ」
なるほど、水鉄砲に聖水でも詰めて使うつもりか。
しかし、十メートル以上離れているぞ。そもそも届くのか?
という疑問は、一瞬にして消えた。的もろとも。
ばしゅん!
という音とともに。
ややあって、私の目の前に持ってこられた的だったものは、粉々に砕けちっていた。
「いやー、すまんすまん。まさか壊れるとは」
訓練場の管理者に向け、そういいながら、男は、的をつなぎあわせようとしていた。いや、無理だろ。それにしても、あの質量の水を一気に叩きつけられては、首の骨でも折れそうな勢いである。成程、確かに特殊な武器ではあるが……。
まだるっこしいことは止めだ! 私は、もう直接聞くことにした。
「素晴らしい威力だな。成程、只のDランクでは無いと思っていたが」
男は、ポカンと一瞬していたが、ああ、と思い出したような顔をして、
「さっき、ブリーフィングで俺達の心配してくれた人だな。俺は、フカ=コオリヤク。プロジェクトGのリーダーをしている」
と、握手を求めてきた。応えながら挨拶する。
「ダニエラ=シュガーレイ。シュガーレイ ワークスのリーダーだ。ところで」
と、そこで一旦区切り、後ろで「リーダー狡い」とか「抜駆け」とか言ってる仲間を睨み付けると、本題を切り出した。
「確かに良い武器で、今回の作戦にも向いてるとは思うが、それだけで大軍の中を突破できるものでもあるまい。君達の自信の根拠を教えてくれたら、私達も安心できるのだがね」
フカと言う青年は、特に気分を害した様子もなく、
「別に隠してるわけでもないがね、ああ、丁度迎えがきた」
と、言って後ろを指さした。すると、
「にゃにゃにゃんだありはぁぁぁぁっ!?」
噛んだ。仲間たちも目が点だ。
その物体は、幅自体は馬車の倍まではないだろうが、長さが尋常ではない。
二度目の迷宮のボスだったドラゴンもどきと同じ位の大きさではないか?
背の高さも民家の屋根よりも高い位だ。
それが、馬並の速さで迫ってくる。その圧迫感たるや。こわー。
「あれが、俺らの移動基地『ゴーリーヴォーグ』だ。あれで奴らの砦をぶち破る!」
言葉もない。とはこういうことか……。
成程、聖女様の自信も頷ける。
「成程、よく判った」
そう言うしかないだろ。これ。
そうして、作戦がはじまった。
次回予告
「ラナで~す」「マルシェで~す」「マリーで~す」「ルージュで~す」
「追加要員の魔法使い、サニーで~す」
「五人揃ってぇ」「初体験すませましたぁ♡」「まさか、リーダーが最後になるとはねぇ」「あんなかわいい生き物滅多にいないのにねぇ」「「「「ねぇ」」」」
「男共見る目ないよねぇ。うちがもらっちゃおうかな」「「「「!」」」」
「冗談だから、ひくなぁっ!」
次回 「ダニエラという女」Bパート
「ちょんぎるぞぉぉぉっ」