4th 「三匹集結」
「さて、何から話したものかな……」
と、逡巡していると、
「ここは、わたしたちが集結したところからでしょ」
アコがそういうので、その辺りから話すことにした。周囲は、だんだん人が集まってきて、トークショー状態である。さっき「もげろ」とか言ってた連中までこっちを興味深々で見ている。
「マイクつかうか?」と、ヒロシに聞かれたが、断ると、腹も座ってきたので話始めた。
「俺達が集まったのは、高校の卒業式を終えて地元に帰ってきて一週間経った頃だった」
高校の説明をこっちの人達に話してから、話を続ける。
「俺は卒業後起業する友達の一緒にやろうという誘いを断り、一人帰郷したものの、仕事にありつけず、最終手段である実家の道場での師範役になるつもりでいた。しかし、マイナーな実家の流派では、俺一人の雇用すら危なかった。そんな時、幼馴染のヒロシから地元の自警団兼広報担当の仕事をしないか?という連絡を受けた」
「あの時は、予定していたプロレスラーの人が大怪我で入院してしまってねぇ。どうしたものかと考えていたら、キミが地元に戻っているというのでね。昔馴染みのよしみで話くらいは聞いてもらえるかなと思って、誘ってみたんだよ」
と、ヒロシが補足する。
「しかし、実際行ってみると半分は、こいつの作る新兵器の実験台だ。何度制御不能で痛い目に合ったことか」
「科学の発展に犠牲は付きものだよ。不可。それに、ことごとく君は無事生還したじゃないか」
「だからって、町中で危ない実験するなぁー」
うがーっ、と俺。マッドだとばれても全然気にしないヒロシ。
あ、女の子達がちょっと引いてる。
こほん、と軌道修正して
「最初は二人だけだったんだが、クライアントの要望で、女の子がいたほうがいいということになってねぇ、荒事に首を突っ込む危険もあったので、それなりに自分の身を守れて、なおかつそれなりの容姿を備えた人物となると、不可の実家で門下生やってるの位しか当てが無くってとりあえず頼んでみたのがアコだったというわけでねぇ」
「よりによって一番危ないの連れてきちまったよな。熊殺しだぜ。ま、異世界まで来ちまった以上は、一番適切だったとも言えなくもないが」
「二人とも、ひどいよ。一緒に来てくれたらおいしいもの食べ放題だっていうからついてきたのにさ」
「「「「幼女誘拐の手口だ!」」」」
周囲の人たちドン引き。あ、あれ? 好感度ダダ下がり?
「そそそ、そうじゃなくって、あ、あの話しないと、わたしたちが集まってしばらく経った頃、迷子の女の子を見つけて」
「「「「やっぱり、誘拐!?」」」」
「ちがいますって!街中を必死にその子の両親を探したんですよ」
「そうそう、ゴーリガンが肩車してあげたんだよね。そんで、鼻から風船膨らませて女の子にプレゼントしたら、近くにいた子供たちが集まってきて、即席の風船プレゼント大会になって」
「ゴーリガン二十六の秘密の一つ、鼻風船だねぇ」
「「「「「「メルヘンチックで素敵♡」」」」」」
あれ? 好感度戻った? こんなんでいいの? チョロすぎだろ、君たち!
「子供たちが集まってるからと探しに来た両親とすぐに会えたんだよねぇ。いやぁよかった」
「そんな、ちょっといい話ばかりじゃなかったけど、地道に地元の平和の為に活動していたんだ。地域のパトロールや、幼稚園を回って交通安全を訴えてまわったり、お年寄りの家事手伝いをしてまわったり」
「それでも、地域公認はなかなか取れなくって、予算面は苦労したよねぇ」
そして、そんな時、あの事件が起こった。
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その日は、雨がしとしと降る肌寒い一日だった。市内パトロールを続けていた俺たちの目の前で一台の現金輸送車が、複数の男に襲撃されているのを目撃したんだ。
後で判ったことだが、犯人は全員外国人のマフィアで、最初からこの輸送車に目をつけて襲撃した計画的犯行だったらしい。車には、約二億円、こっちの金額で換算すると、二百万ドロップ、今回俺たちが貰った報酬額位を輸送していた。
犯人は、警察などのパトロール地域まで調べているプロの犯行だったが、流石に俺たちのパトロール地域までは把握していなかったらしい。
丁度、ゴーリガン スーツを着用していた俺は、すぐさま襲撃者へ割って入った。相手は五人。制圧までは一分とかからなかったが、一人が、仲間を置いて逃亡を図った。俺は逃亡する車に発信器を付けて追跡、やつらのアジトを突き止めた。港沿いの倉庫に逃げ込んだ男は、仲間たちに口止めのため殺された。
そこへ、俺が現れたのだから、何が何でも俺の口封じをしなければならない。本格的な対人戦になると思ってなかったが、そこは、銃弾も跳ね返すゴーリガン スーツだ。実際戦ってみると、圧倒的だった。
こうして、二十名余りの盗賊団は壊滅。おれたちは、駆け付けた警察に、協力への感謝と、危険への介入に対するお叱りを同時に受けることとなった。
そうして、数日のうちに、警察から感謝状がでることになる。それと同時に名古屋市公認ヒーローとして、契約したいとのオファーもきた。
俺たち三人は、その日、名古屋市役所に向かう道程の途中で光に包み込まれ、気が付いたら車ごとこの世界に転移していたということだ。
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「それではみなさんの世界では、きっと大変な騒ぎになっているのではないですか?」
薄紅色のドレスの君が心配そうに言う。
「残念ながら、そうでもないと思うよ。我々の国では、毎年五万人近い人間が行方不明になるような社会だからねぇ」
この発言に周囲はどよめく。この都市の2.5倍の人間が毎年居なくなる社会だからな。想像すらできないんだろう。
「なるほど、皆様のお力は、元々の世界で培われたものでしたか。こちらで、いくら調べても判らない訳ですわね」
領主様だ。いつの間に来ていたんだろう。
「そんな皆様を見込んでお願いしたいお仕事が、もう一つございますの。ぜひ、明日にでも、私の執務室にお越しいただけませんでしょうか?」
そんな事言われても、報酬払えなくて手形なんて話になったんじゃないか?と、思っていると領主様が近づいてきて、
「その件に対するささやかなお詫びの意味も含めていろいろ用意してありますの」
と、耳元でささやかれた。こしょばい。
そうして、宴会はこの辺でお開きとなった。
残った料理をアコが折詰にしてもらって帰る。うん、もう少し食い足りないからな。
最後に今日の記念にゴーリガンバッチをみんなにあげると、
「「「「「「勇者さま方、本日は本当にありがとうございました」」」」」」
と、お嬢さん方に挨拶されて、帰路についた。
他の冒険者たちは、宿を取っているが、俺たちは車の中で寝泊まりするので途中で彼らとも別れる。
馬車置き場になっている城門前の広場に着くと、すでに折詰は、半分くらいなくなっていた。
「もぐもぐ、うまいよ」
「モグモグ、君は要領が悪いねぇ」
「俺にもよこせぇぇぇぇっ!」
次回予告
素敵でしたわ、勇者様♡ 白馬の王子様って、ホントにいるのね。
しかし、そんな王子様に領主様からの特命が。
どうする、どうなる、私の初恋。
ここで行かなきゃ女がすたるっ! あ、私の名前は次回ね。
次回 「新たなる旅立ち」
犯人さんにお願いします。
誘拐は、ダメ! ゼッタイ!
イエス ロリータ ノータッチ!
聞いてくれなきゃ 勇者さまに言いつけちゃうからね。