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30th 「戦争経済」

 モーゼの十戒宜しく二手に別れた人波を正面から威風堂々行進していったエルノスを見送り、さて、みんなと合流しようと思ってたら、後ろから、次の入場者がやってきていた。


「これは、もしかして、フッカー卿ですか? はじめまして。フランケル=ゴーディシュ。ゴーディシュ商会の会頭をしております。先日は、当商会に多数の神聖帝国大金貨をお持込いただき、誠にありがとうございました。いやぁ、実際、今年の需要見込みに足りない分をどう工面するか、頭の痛い所でして、従業員一同、感謝しておりましたのですよ」


 がはは、と笑いながら気さくに話しかけてくる彼からは、先日感じた威圧感は特に感じない。


「はじめまして。フカ=コオリヤク=フッカー準男爵です。こちらこそ、高額で買い取っていただけて、非常に助かりました」


 そういって握手する。互いにガードが固く悪戯の余地はそもそも無かった。仕方ないか。


「それにしても、一介の商人とは思えない位お強いですね。以前は何かなさっていたので?」


「お恥ずかしながら、冒険者をしておりました。最終的にはSランクを頂きましたが、そこで無理をして体を壊しましてね。そのときまでに貯めこんだ資本で商会を始めたのですよ」


 そこで、選管から早く入場するように促されたため、会話は終わりを告げた。


「一度、機会を持ってお話の続きをしたいものですな。宜しければ、また店に遊びにいらして下さい」


 そう言って、ゴーディシュは控室へと入って行った。


「どう見ました? あの御仁」


 隣に来ていたドメーヌに問われ、


「アコなどは相当警戒していたが、俺自身は、そこまで危険な男なのか? という印象なんだよなぁ。冒険者あがりの商人なぞいくらでもいるだろうし、商売の仕方も王道的な金融業だ。知る限りで目くじらを立てるような行いをしていないんだよなぁ」


「……そうですか」


「あ、そういえば、奴の店の前で声かけられたことあるぞ。金を借りたら大変な事になるって」


「ああ、ゴンザレス卿ですね。彼の元仲間で、両親の介護の為に金を借りて、返済出来なかった人です。あの界隈では有名人ですよ。司法に何度も持ち込んで裁判をしているのですが、何度かは返済割引の判決も出ているのに、控訴して支払ったものを全部返せと主張している、もはや、恨みつらみだけで動いている人物ですね」


「成程。色眼鏡のついた人物か。なら、そちらは考慮する必要はないかな?」


 と、この時点では、特に先々の波乱を気にする必然性を感じなかった。そこが、俺の甘さだとは思うが、いかんせん、情報が不足していた。そして、そのことを後悔する機会は思ったよりも早く訪れることになる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それでは、これより所信表明演説を行います。一次投票の獲得票数順に演説を行い、去就を決断して頂きます。まず、獲得票数第一位〝アルテウス=マリス=ミェスク殿〟」


「私は、昨今のギルドとの血で血を洗うかのような関係を常々憂慮しておりました。降臨者を巡って我々は、常に排除の方針を打ち立てて事情すら理解していない外来の客を殺害または、強制的な恭順を求めて教育してきましたが、そういった関係性も、そろそろ終止符を打つべき時代となってきたと考えております。

 先日も、ある降臨者の若者たちと、交流する機会がありましたが、彼らはとても気持ちの良い、優しい青年たちでした。彼らは、この世界に今迄無かったものを作り上げ、今後も数百年に渡り発展を続ける程の礎をわずか半年で築き上げたのです。その様な素晴らしい人々を慣習の二文字だけで追いやり、あまつさえ、傷つけるということが、本当に正しいのか? 今迄も、これからも、私は問うて行きたい。

 彼らと共存する未来が、私は欲しい。そして、それは他の多くの人の願いでもある。そう信じて我が所信表明演説に代えさせて頂きます。御静聴ありがとうございます」



 ワーッ、と凄い拍手である。今の〝若者たち〟って俺らのことだよな。こしょばい。




「続いて、獲得票数第二位 〝ラトワンヌ=トロイエンヌ殿〟」


「私、ラトワンヌ=トロイエンヌは、この場をお借りして、是非にも皆様に伝えなければならないことがございます。それは、今、この国が未知の集団から、かつてない方法で攻撃を加えられているという事実であります。直近でいえば、皆様の記憶にも新しい、そして本日の選挙の原因となりました、〝ウィノク=サバランの変〟この事件の裏で未曾有の陰謀が行われておりました。実の所、首謀者と言われている前教皇、ウィノク=サバランは、当時既に危険領域に達していたロサの迷宮討伐をこそ目的とした出兵であった事、複数の筋からの情報でほぼ間違いないものと断定できます。しかし、その事実を捻じ曲げ国家転覆の陰謀に利用しようとしていた第三勢力が存在します。当時、彼らは、ウィノク率いる下級兵士達数百名に如何なる方法でか、ロサの都市内で略奪行為をさせていたのですが、皆様ご存じの通り我が従妹ドメーヌと、彼女の率いる冒険者達によってその蛮行は食い止められました。ここからは、その裏事情の説明となります。

 かの反乱の首謀者と目される人物の一人が、ロデム兵団を指揮するベンワー=ロデム。彼は他にも、

スパイダーネストなる冒険者パーティーを指揮して、再三に渡り我が国の軍事行動や通商活動に被害を加えてきております。彼奴らは、この後登壇するエルノス=サバランJrに対しても、この聖王都に来るまでの間、幾たびも暗殺を企て、あまつさえ、その実行犯として、我等神聖騎士団の者を誑かし、自らの凶器として使用せんと企んでいたこと、究めて悪質。直ちに討伐の任に就きたく、今回の教皇選挙に出馬した次第であります。皆様のご支持をどうか私に、宜しくお願い申し上げます」


 ……何というか、初めて知る驚愕の事実。俺達がアルカンに行く所から、ロサでエルノスと出会うことまで、全てこの人の采配だったんじゃないのか? 今頃、ロサのマスターが舌出してる絵が浮かんでくるぜ。それにしても、隣のドメーヌを睨み付けると、彼女も初耳だったらしく、首をふるふるしていた。


「そういえば、以前アルカンに居た時はシリーニ様達とは会わなかったよなぁ」


「ええ、あの時は、ラトワンヌ様の指示でそれぞれ単独行動をしていたので。わたくし達パーティーは、元々はラトワンヌ様の私兵としてスタートしたんですの」


「それに、シリーニ様は、元筆頭教皇だったんだってな」


「! どこで、それをお知りになったの!?」


「朝の井戸の件、教皇全員から依頼されたんだ。その時ドーゼンのジジイが言ってた。シリーニ様は、申し訳無さそうに何度も謝ってたよ」


「と、いうことは、呼び出されて鼻の下伸ばして、のこのことシリーニの部屋へ行ったのですねぇ~」


 俺はピーピーと口笛吹いてごまかした。




「続きましては、獲得票数第三位 〝フランケル=ゴーディシュ殿〟」


 壇上に上がったゴーディシュは、ぐるりと会場を一瞥すると、演説を始めた。


「Weicome to the Bloody Land」(ようこそ、血塗られた大地へ)


 会場全体が、ビクッ! となった。


「はっはっは、失敬。昨夜の悪戯で皆さん気が休まらないでしょう。そこで、今朝の例のカードに便乗して少々場を温めようと思ったのですが、スベッてしまいましたかな? がっはっは」


 そこで、ようやく洒落だと知って半笑いを浮かべかけた聴衆。だが、真の恐怖はこれからだった。


「まあ、私のマニフェストは、簡単に説明しますと、この国の経済規模を上昇させるために、まずは、全世界に対して宣戦布告を出し、戦争による経済循環をもって、この国の未来を明るいものにしようと、いう訳ですが。そのために、兵士を育成し、兵器を開発する。ロジスティック網を構築し、世界のどこにでも、何でも届けられるようにする。飛空船をどんどん作り、兵士をどんどん戦場に送る。それこそ、飛空戦艦なんて、男のロマンですなぁ」


 会場は蜂の巣を突いたような大騒ぎである。

 無理もない。百年以上大規模な戦争の起こっていない国で戦争しましょ♡ とぶち上げたのだ。

 異論反論が無いわけがないのだ。たとえ、この国が全大陸の八割を占める超大国であってもだ。


「良く考えてください。世界を相手に戦争をする以上、内憂外患ではいけません。必然的にギルドとは、恒久的な手打ちをする必要があるでしょう。これで、ミェスク卿とは、利害が一致しました。

 戦争の相手としては、先ずラトワンヌ嬢のおっしゃってたロデム兵団というのは、格好の相手ではないですか。これで、彼女との利害も一致しました。お二方の公約を内包する公約こそが、私のマニフェストであります。勿論、この後登場されるお三方の公約も内包していると確信しておりますぞ。がっはっは」


 場は、恐ろしいほど静まり返っている。ここ、八千人以上の人がいる場所だよなぁ!?


「さて、皆様には、本当にこの国にとって利益と繁栄をもたらすものが誰か、真剣に検討して頂きたく存じます。これをもって、我がプレゼンに代えさせていただきます」


 最後までがっはっは、と呵呵大笑しつつ、ゴーディシュは、壇上を後にした。残された聴衆は、なにか、嫌なものを飲み込まされたような顔つきで放置である。なんだ! あの救いの無い演説は!?




 もしかして、この空気の中でエルノスが演説しなければいけないのか?

 なんと、えらいハンデを貰ってしまったものだ。 いや,待て。

 しかし、臆することなく参上したエルノスの姿は、その小さな姿にみなぎる自信を纏い威風堂々入場。 いつの間に、こんなにも逞しくなったのだろうか。       




「続きましては、同獲得票数第三位 〝エルノス=サバランJr殿〟」


 壇上に上がったエルノスは、あろうことか、演説の台本を自らひきちぎった!?

 流石にこれは、予想の斜め上をいっている。大丈夫かいな。


「先程、ゴーディシュ卿が言っていた〝全てを内包するマニフェスト〟とは、成程、的を射た表現である。実際、今破いた原稿には、正に彼が主張した事が書いてあったからな。

 なればこそ、彼の主張する〝戦争経済〟など、絶対に実現させてはいけない! なぜなら、戦争経済を欲した超大国は、過去の歴史上、只一つの例外も無くそれを契機に滅亡へと走り出してしまうからだ。過去の落ちもの様の国、ローマ帝国の興亡の話など、我等は御伽噺として認識していたが、フッカー卿に聞いた話では、実際彼の世界に実在した国家で、正に我々のように世界の八割を占める超大国であったにも関わらず、戦争経済に対する依存が激しすぎたため内部から崩壊してあっさりと滅亡したそうだ。もちろん、同様の例は、こちらの世界でも枚挙に暇がない。

 我々には、過去の歴史より学び、より良い未来を選択する義務がある。それを、言うに事かいて、戦争によって経済を上昇させ、豊かな国を作るだと!? どのような甘い観測から、その様な未来が描けたのかは、知らないが、戦争したければ、自分だけでやってくれ。他人を巻き込むな!! 

 そうそう、先ほどの社会インフラの話は、一応僕も賛成だ。ただし、戦争目的で作る必要は全く無い。

社会を発展させるには、どの道、必要となる事業である。それを、戦争のためなら早く作れるなんてのは、役人に横着をさせ過ぎであろう。これらは、どのみちやる事業だと認識している。

 以上、簡単ではあるが、僕のマニフェストを披露させていただいた。

 どうだ! これで、ゴーディシュ卿のマニフェストは僕が逆に内包してやったぞ!」


 そう、ゴーディシュの方を向いてドヤ顔で指さしてやると、会場からは、一気に大歓声! 

 この場は、70:30でエルノスの判定勝ちだな。


「続いて、第五位ヴァナ=サンマルチノ、並びに第六位ダニー=フォッグ両名は、棄権する旨、本人より意向が示されたので、第二回投票は明日未明よりこの四名で決戦投票とさせていただく。皆の者準備は滞りなくお願いされたい。では、解散!」


 未明ってことは、夜中かよ! つくづく楽の出来ない選挙だな。


 それにしても、エルノスは、良く頑張ってくれたな。あの、ゴーディシュ相手に一本取ったと言っていい内容だろう。奴も悔しがっているはず、と思って見たら、笑ってやがるよ。まだ、何か飛び道具でも持ってるのかねぇ。


 いずれにしても、二次投票か。ここが天王山かな?




 次回予告


 二次投票が夜中とのことで、俺達は眠れない。

 一方、外に居るスーたちは、シュガーレイのみんなを招待して

「パジャマパーティー」をしているらしい。

 そこには、男達の知らない恐ろしい秘密があるそうで。

 次回 「げすがーるず とーく」


 童貞必見! 女の秘密、大暴露!

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