3rd 「三人祭」
「皆様、本日は、ささやかではありますが、飲み物も料理も用意してあります。しばし、ご歓談と食事をお楽しみ下さい。それではみなさん、ここに集いし勇者たちの戦果に、乾杯!」
黒いイブニングドレスに身を包んだルティナス子爵夫人の乾杯の音頭で、宴がはじまった。
早速料理に突撃したアコはともかくとして、俺やヒロシはこういった雰囲気はどうも落ち着かない。
コミュ障の俺たちからすれば、向こうから話しかけてくれればともかく、こちらから話に行くなんて、とても無理だ。
開始五分で、飲み物をもらっただけで、俺たちは壁の花になった。こちらの宴会では、ダンスを踊るようなことは少ないみたいで、今回も、音楽を奏でる演奏家は数名いるものの、ダンスをするわけではないらしい。
「正直、当てが外れた部分があるねぇ。やっぱり聖王都に行った方が稼げるかねぇ」
「うん、それも、検討しといたほうがいいかもな。オークションだって、金を持ってる人が多い所の方がいいに決まってるし。しかし、せっかく領主様の体面を保つのに協力したのに、この話題はここじゃヤバくないか?」
「違いない」
そういって、半笑いになる俺たち。パーティー会場で何やってんだか。
「そういえばアコが戻ってこないな」
「ああ、あれじゃないかな? あの人だかり」
見やると、アコが男たちに囲まれていた。料理に手を付けられないようだ。結果的にアコから料理を守っているように見える。
「……、あれは、モテモテと言っていいのだろうか?」
「……、さぁ?」
半笑いが止まらない。だが、他人事なのもここまでだった。
「よっ! 本日の主役様が何やってんだ?」
そういって声をかけてきたのは、一緒に参戦した女パーティーの一人だった。
「ええっと、確か、ダニエラさんだっけ?」
たしか、女戦士だったか、流石にドレスコードを守っているせいで一瞬判らなかった。
「女の名前をちゃんと憶えているのはポイント高いよ」
女だけのパーティーで高レベルってすげー目立つからな。
「他の方々は?」
とヒロシが聞いてみると、
「向うで男あさりしてるよ」
と、貴族男子の集団の方を指さす。
「で、貴女のターゲットは我々ですかな?」
「半分正解だが、もう半分はあんたらを紹介してくれって頼まれたのさ。おおい! おいで」
すると、遠くの方からこちらに近づいてきた集団が来る。パステルカラーのドレスを着こなしたいい所のお嬢さんたちが、五、六人。まだ幼い。精々十四、五歳くらいか?
「「「「「「御機嫌よう、勇者さま方」」」」」」
にぱぁっ、と太陽のような笑顔で挨拶される。まぶしっ! こーゆーの、駄目。
「この子らは、都市の騎士様や、お役人様の御息女だ。粗相したらこの町にいられなくなるぞ」
と、ダニエラさんが脅してくる。いやん! 隣でヒロシも、青くなっているようだ。
「は、初めまして美しいお嬢さん方。私は、パーティー プロジェクトG のリーダーを務めています、フカ=コオリヤクと言います。こちらは、仲間のヒロシ=サナダです」
「私のことは、プロフェッサーと呼んでください」
まだ、青い顔ながら、ここは譲れないのか、そう告げた。
「「「「「「きゃあぁぁっ」」」」」」
と、姦しい声が俺たちの脳髄を直撃する。あの戦場で散っていった盗賊団の痛みがちょっと判った気がした。ふと、横を見ると、一緒に参加した他のパーティーの男連中が怨嗟の声をあげていた。
「くたばれ!」「爆発しろ!」「もげろっ!」「掘るぞっ!」
聞かなきゃよかった。
一方で、目の前のご令嬢方も
「素敵♡」「逞しい♡」「それでいて紳士で♡」「きゅんきゅんするの♡」「初めてを捧げたい♡」「抱いて♡」「お嫁さんにしてっ♡」
後半なんかおかしくなってきた? 一人多い?
ちら見すると、ダニエラさんが後ろでぴーぴー口笛を吹いてた。
「あらあら、花満開ですね。フッカー殿」
そう言いながら領主様がこちらに来た。
「「「「「「御機嫌よう、ドメーヌさま」」」」」」
「ドメーヌ?」
すると、笑顔で
「近しいものたちは、そう呼んでくれているの。あなた方も、そう呼んでくれると嬉しいのだけど」
「ありがとうございます。ドメーヌ様。ぜひ私のことも、フカと呼んでください」
「勇者さまをそのように、恐れ多いことですわ」
よく言う。フッカーなんて普通は知らない隠語を使ってきた時点で俺のことを相当しらべてるよな。怖い女だ。
今の今まで恋愛脳スペースだったのを一瞬で自分色に染めやがった。
「そんな怖い顔をされたら……」
「怖いですか?」
「濡れてきちゃいますわ。それではみなさん、また後ほど」
ふう、こっちが濡れちゃうよ。冷や汗で。ま、釘を刺せただけで良しとしよう。刺されたとも思ってないかもしれないけど。
「ああぁ、やっと解放されたよ」
と、アコが疲れて帰ってきたところ、
「うぉっ! 不可もヒロシもモテモテさんだねぇ」
と、前後の経緯を知らずに言ってくれたおかげで、ようやく空気が弛緩した。
アコをみんなに紹介すると、
「神官様」「神官様」とこちらも人気だった。
結局、壁の花だったのは、最初の五分だけだった。最初の六人以外にも入れ替わり立ち代わりで人がやってくる。
最初のあの子たちは、なかなか出来た子たちで、俺たちが何も食べられないでいると、自ら料理を運んできて食べさせてくれたり、町の中のうまい店を紹介してくれたり、みんな甲斐甲斐しくしてくれた。
両親に会って欲しいと言われたのには、さすがに困ってしまったが。
ともあれ、適当にめし食って帰るかと思って来たはずが、望外に楽しい思いをして満足だった。
やはり、男たちには、恨めしい視線を送られ続けていたが。
宴もたけなわ、というところで、薄紅色のドレスを着た少女が言い出した。
「勇者様方は、〝落ちもの様〟 なのでしょう? あちらの世界のお話聞かせていただきたいですわ」
と、きらきらした瞳でお願いされてしまった。
すると、当然他の子たちも、同調しだして、お願いされてしまった。
すこし考えて
「わかりました。もう、お時間も余りないですけど、それでも宜しければ、今日の御礼に少しだけお話させていただきます」
と、言うとみんな目を輝かせて見てきた。ダニエラさんは兎も角、なんでアコまでそんな期待してるのかな?
次回予告
遂にきました。過去話大会。
しかし問題は、ギャラリーの多さか。
どうする、どうなる、会場使用時間。追加料金払うのか?
次回 「三匹集結」
よいこのみんな。会場使用は時間を守ってね。
ドメーヌおねえさんとの約束よ。