20th 「ふたりはぶち凶悪 MAXはーど」
町長どもを一発シメて貰いたい、とか、言われても、流石に、はい とは言いにくいなあ。
もしかして、クーデター?
「そもそも、一体なんで、そうなるんですか?」
「あ、いや、別に打倒町長とかって事じゃなくって、毎年やる町内会の祭の余興でな、今年は神社で奉納プロレスをやることになったんだが。その際に町長が、Bランクの冒険者パーティーを連れてくると言い出してな。で、相手を探してたんだけど、町長が、ああいう性格だろ? 格下のヤラレ役なんて、普通に嫌がるじゃないか」
なるほど。
たしか、町長って、相手の肩書で態度をあからさまに変えてくるタイプだったよな。だとすると、問題が一つ……
「あの、俺たちこの間ランクアップしたばかりで」
「おおっ! するってーと、今はCか?」
「いえ、〝抜群〟でAランクに上がっちゃったんですよ」
真新しいギルドカードを見せながら説明する。
「おおおっ! 本当だ! 初めて見たぜ!」
おやっさん、大興奮!! 喜んでくれるなら何よりだけど。
「でも、そうすると格下のパーティーじゃないんだよなぁ」
「一応、Cランクも居ることは居るけど」
「ん? どこだ?」
「それは、私たちですわ」
嫁ーずが、ギルドカードを提示して見せる。
「へー! このめんこい娘たちがねぇ、ところで、こちらはどちら様?」
「「「「「「「不可さまの妻で~す♡」」」」」」」
「どこのモテモテ王国だ! コノヤロ、コノヤロ!!」
おやっさん、ヘッドロックしてきた。なにげに、入ってるんだよー!
「うわーん! それ、ギルドでもやったんじゃよー!」
しばらくお待ち下さい。
「実際問題、この子たちに頼むのは無理だ! 流石に危な過ぎる」
「ですよねー」
しかし、そもそも、よくBランクに伝手があったな。前は、俺達を二流とか言いながらも使ってた位なのに。 と、思ってると、
「子飼いの取り巻き連中を鍛えさせてランクアップさせたんだ。いつもの、連中だよ」
ああ、居たな。町長と一緒になって蔑んでた連中か。あいつら、只のボディビルダーだよなぁ。
「なら、いっそ、ランクアップは内緒にして、最後にサプライズで公表するのは?」
「おおおっ! それは、面白いぞ!」
「なら、いっそのこと、リングネームも悪役っぽいのにしたらどうかねぃ」
ここで、ようやくヒロシが入ってきた。変なマスク持って。
「おおっ! 元気になったんだなぁ。よかった、よかった」
背中をバシバシ叩きながら喜んでくれた。おやっさんも、大概脳筋だよなぁ。
「ところで、そのマスクは?」
「ああ、アイナとアヤメに被せようと思って」
「うわ、絶対嫌でゴザル」
「……任務、嫌」
サメ口の凶悪なデザインのマスクを女の子に被せるのはちょっとなぁ。
と、いうか、アイナがヒロシの頼みを蹴ったのって初めてじゃ?
「流石にそのマスクはどうかと思うぞ」
「ふーむ。じゃあ、マイクロビキニならどうかねぃ」
と、言って出したのは、紐でふかぁぁぁぁっ!ヤバい。心の中で噛んだ。
「「!」」
二人とも、ドン引きを通り越して恐怖におののいている。
「そ、そんにゃにょきたりゃないちちがばりるでごぢゃるぅ~」
「……ぷろへっさー、きらい!」
うわ! とうとう言っちゃった! 大丈夫なのか?
「あの~、私達が着て差し上げましょうか?」
ミナミとアナが、何か乗り気なんだけど。
「頼むからやめてー!」
俺の魂がもたないよ! 似合うだろうけど。
「じゃあ、アコ、頼む」
「おっけ」
「いいのかよ! おまえ、闘う方だぞ!」
余りの軽いノリに戦慄が走る。
「お祭り、お祭り!」
ほんと、軽いわ。脳が。
「いや、流石に駄目だろう。ここは、一応文教地区だぞ!」
おやっさんの一言で今までの会話は無かったことに。
「もうちょっと可愛い系のマスクとか無いんか?ヒロシ」
「ほら、これは不可の前に予定してたプロレスラーの人の私物だからねぃ」
「その紐も!?」
その事実が戦慄だわ。
結局、お揃いの黒マントに、私服で出ることになりました。
「ほう! お前さんが最近調子に乗ってる若造か? 少々おしおきが必要か?」
いかついひげ面男が、俺に向かってにやにやしながら問いかけてくる。
「ふっ! 正にやられ役といった顔つきだな!」
俺も負けじと罵倒する。
俺達は、既にリングの上に立っている。結局、俺とアコ、そして忍者が受けるだろうと、アヤメの三人でトリオを組み、町長の腰巾着三人と対戦することとなった。
屋外リングの周りは、既に超満員札止めである。みんな、娯楽に飢えてるからなぁ。
リング下には、みんなや、ヒロシがセコンドに着いているし、リングサイド最前列には、町長も、陣取ってみている。
俺達の役目は、まず、リング上で、こいつらを叩きのめし、町長をリングに上げ、そこで拷問技をかけることだ。そうして、町長を笑いものにして町民の不満を緩和することが、今回の目玉らしい。
その辺のシナリオを描いたのも町長だというのだから、こいつも侮れないな。
カーン!
試合開始のゴングが鳴った。
先発は、アヤメと、ハゲたおっさんだ。体重差は優に三倍はありそうだ。
「「「おおおおおっ!!!」」」 お客さん驚愕!
アヤメは、ロープ最上段を綱渡りの要領で一周すると、そのままジャンプして、ハゲに向かってキック
……するかと思いきや、そのまま対角線上のロープに飛び移り、今度はバク宙しながらのクロスチョップで先制する。おっさんは、狼狽しながら味方にタッチ! こちらも、俺に交代する。
さあ、相手も大将格のひげ親父、ここは、真向勝負だ。
と、思わせといて、俺は相手の足をカニ挟みでひっかけグラウンドに持ち込む。STFの態勢に持ち込み、相手の顎を上げさせといて、アコを呼び込む。弁えたもので、アコは自らロープに飛ぶと、勢いをつけて、ひげ親父の顔面に低空ドロップキックを放つ。ばっちーん、とまともに喰らったひげ親父は、おどおどした三人目にタッチする。
三人目は魔術師だろうか? 貧弱な体格で、とても、ここに出てくるようなタイプではない。
もう、決めてしまおうかなと考えていると、突然、目の前に火の玉が現れた。慌てて避けるも、髪の毛がチリチリ焼けるにおいがする。
リング下でセコンド陣がレフェリーに抗議する。スーさん、怖いよ。
慌てて、アヤメにタッチすると、何かに火が点いたのか、アヤメも、陣をきり、なにやらむにむに言い出した。
「根来忍法火遁の術!」
ドーン! と、火柱が上がった。百メートル位。
「「「「「うぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
お客さん、大興奮!!
慌てて、魔術師風が逃げ出した。こけつ、まろびつ、お客さんの中を突っ切って逃げ出すと、他の二人も慌てて追いかける。
結局、試合放棄でおれたちの勝ちだ!
ヒロシからマイクをひったくり、マイクアピールの時間だ。
「よぉ、町長さんよー! お前さんの自慢のBランク冒険者ったって、こんなもんか? よえー! よえーよ! まるで、お前さんの支持基盤並の弱さだぜぇ!」
この一言に観客の心にも火がついた。
「「「「「ちょーちょー! ちょーちょー! ちょーちょー! ちょーちょー!」」」」」
さあ、どう出る。町長さん!
「ぐぐぐぐ、よくも、よくも、私の支持者をばかにしたなぁぁぁっ!」
怒りに任せてリングインする町長。よしよし、狙い通り。俺に対して怒りの鉄拳をお見舞せんと、拳を握るも、横合いからアコのくまキックを受け吹っ飛ばされる。(もちろん、素人相手ですので、手加減しております)
「ふふん。残念だったなぁ! もはや、お前に助けは来ねーよ!」
髪の毛を引っ張りながら、顔の前で悪態を突く。
ここで、助っ人のようせいさん達が町長を助ければ、俺達の役目も終了、
「さっきは、よくもやってくれたなぁぁぁぁっ!」 あれ?
さっき逃げて行った魔法使いが戻ってきた。後ろにデーモンを従えて。
「お前らを倒すために召喚の壺から魔人を召喚してやったぜ。げへへ」
げぇぇぇっ! アホかぁぁぁっ!
あんなもの、この人の多い場所で出してきたら駄目だろぉぉぉっ!!
「さぁ、行け! 魔人! 奴らを殺せ! あれ?」
ぶん! と、魔人のチョップを喰らい首がもげる魔法使いの男。
「「「きゃあぁぁぁぁっ」」」「「「「ひぇぇぇぇっ」」」」
その瞬間から会場は大パニックである。
「まずい! 客を外へ誘導しろ!」
俺の指示に我を取り戻したセコンドが、一斉に動き出し、客の避難を手助けする。
「町長も、早く逃げろ!」
「ああ、そんな、息子が死んだ!?」
息子なのかよ。まったく!
流石にあんなのと丸腰でやるのは御免だ!
「ヒロシ! ベルト持ってきてるか?」
「ああ、頼むよ! 僕らは町長を引き受けた!」
投げられたベルトを受け取り腰に巻き、スイッチを入れる。
「アポート」
「All X-Y-Z Clear 変身」
光が俺を包み込み、青の雄姿が姿を現す。
「天衣無縫!」ガキーン「攻略不可」シャキーン「自由の守護神 ゴーリガン!」
「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」
まだ、避難してない観客が足を踏み鳴らし重低音ストンピングで迎えられる。
馬頭の魔人、たしかアシュタロスだったか、たしか、こいつは遠距離攻撃はしてこない筈。
「アポート!」
俺は、ザンゲの砦で手に入れた魔剣の一振り、光の魔剣を引き寄せた。
「アコは攻撃要員全員に光のエンチャントだ!」
「OK。光よ!」
アコ、アヤメ、アイナ、ジュンに光の魔法を付加した。
「気を付けろ! 攻撃を受けると、体だけじゃなく、心もダメージが行くぞ!」
「当たらねば、どうということござらん!」
「……同意、あれは馬刺し」
いや、食べる気か?
「まあいい、いくぞ!」
片手に剣、片手にビームキャリバーを持ち、撃ちながら前進する。
「ブルルルッ ググググオォォォォォッ!」
咆哮する馬頭に熱光線を浴びせるも、ほとんど効いてる感じがしない。
迷宮の魔物とは違うか。
エンゲージして、最初の攻撃は、馬頭からだった。
ブオン! ただ振り回しただけの腕が、凶悪な攻撃となって襲い掛かってくる。
それを余裕を持って避けると、光の魔剣で一撃してみる。
スパッ と、奴の防御した左腕を斬り裂いた。いけるっ!
そう思った瞬間に、皮一枚残した腕が、単独で攻撃してきた。
筋肉がまだ繋がっているかのような重い攻撃に、吹っ飛ばされるや、右からのハンマーのような腕パンチだ。これを、体を乗せて衝撃を分散させると、後ろに回ったアイナとアヤメが、連撃で足裏の腱に傷をいれる。バランスを崩し、倒れる所をアコが、顔面を掴み後頭部を地面に叩きつける。
ドッシーン! とすごい音を立てて巨体が転倒するや、ジュンが、頭部を唐竹割りで真っ二つにする。勝負あった! と誰もが思ったが、分割された顔がにやりと笑ったかと思うと、元通りに再生する。
「人間にしては、ウマく闘うじゃないか、ヒヒン!」
「「「しゃ、しゃべったぁぁぁっ!」」」
それだけで、ジュンのSAN値が削れた。無理もない。
勝ったと思ったもんな、一瞬。
さて、どう攻めるか?
考えていると、会場の方に異変があった。
「「「まち、まもるぅぅぅぅっ!」」」
「「「わるいこ、でてけーーーっ」」」
「「「ちょーちょーたすけるーー」」」
ようせいさんが、集まってきた。
その数、百や二百じゃ効かない。
「な、なんだ? これ、わぁぁぁっ!」
馬頭が面喰ってる。チャンス! と、思いきや、俺の方にも群がってきた。
うそ? 俺も敵認定!? と、泡喰っていると、反物質化して、おれの中に入ってきた!?
(だいじょぶ。おてつだいするー)
(ちからをあわせるー)(ゆうきひゃくばーい)
何匹ものようせいさんの力がゴーリガンの中に入ってきた。
うぉぉぉぉぉぉぉぉっ! すっげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
なんか、一気にパワーゲージが数十倍に跳ね上がった気がする。
それと、同時に、持ってる剣の真名が頭の中に入ってきた。
「いくぞぉぉぉぉっ! アフレイムスゥオーーーード!!」
これまでと比較にならない光と熱を放ちながら、剣は、さっくりと馬頭を真っ二つに裂いた。割れたふたつの馬頭は、光の粒子に還元され、消えていく。
「完全勝利! 御粗末!」
見栄を切ると、完全に避難しそびれた人たちが、
「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ !!!!!! 」」」」」」」
凄い勢いで祝福してくれる。
ついに、俺達の勝利が確定した。
「事件の顛末は、こうだ」
翌日、おやっさんから聞いた話は、町長の息子が誰かから貰った魔人の壺から、俺達を倒すために魔人を召喚した。ところが、契約も何も関係なく呼び出したせいで、魔人は暴走し、自分は首を吹っ飛ばされ、魔人の報復に命を落とした。と、いうことらしい。取り巻きの二人も魔人の壺のそばで惨殺されていたそうだ。ふつうの精神状態なら、その時点で異常を感じるのだろうが、そもそも、町長の息子は、後継者としてプレッシャーを常日頃から過剰にかけられて、病んでいたそうな。
悪いことに、まぐれでBランクの冒険者として昇格してしまったことも、父親からのプレッシャーを助長する結果になってしまったらしい。
日頃から少しでも、父親のプレッシャーに応えたいと、無茶をしていたらしい。
今回も、強い自分を見せるため、何日も眠れぬ日を過ごしていたとか。
自縄自縛ではあるが、気の毒な事だ。それで命を狙われる方はたまらんが。
「できたー」「せいびおわたー」
ようせいさん達が整備完了を告げてくれた。
「じゃあ、もう出発するのか?」
「ええ、今回は、急ぎの旅でもあるんで。でも、必ずまた来ますから」
「ああ、楽しみにしてる。気をつけてな」
そういって、おやっさんとようせいさん達にさよならを告げる。
そうそう、俺の中に入ったようせいさんが、抜け出した時に一人新しく生まれたらしい。そいつは、一人だけついてくるそうだ。
「あんたはおやー。めんどうみてねー」
と、言われれば仕方ないか。結局、アフレイムソードからとって、〝アフ〟と名付けた。
「よーし、準備終わったよ。出発といこうかねぃ」
「じゃあ、全員いるな? よし、出発!」
こうして、聖王都まで、あと四日の道のりを出発した。
次回予告
「ようせいでーす」
「ようせいでーす」
「ようせいでーす」
「じかいからなかまのひとりがだいかつやくするー」
「けんのようせいー」
「ぱわーうぷー」
次回 「せいおーととうちゃくー」
「おたのしみにー」 「おたのしみにー」 「おたのしみにー」




