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18th 「六人の官僚たち」

 朝、起きて窓の外を見たらドキッとした。

 なにしろ、角の生えた巨大な獅子が、窓の外から睨んでいたからな。

 すわ、迷宮が羽化したか!? と思ったが、どうも動かないようだ。

 結局の所、迷宮が死んだことは、事実らしい。ってか、俺達が殺したんだけどな。

 ただ、本当にギリギリの線だったらしく、最期の痙攣の最中に上半身の羽化が始まっていたというのが、外に居た人達から聞いた事実である。

 結果、上半身が、べヒモスの体になりながら、下半身が迷宮のままという、世にも珍しいオブジェが出来たという訳だ。

 町の観光事業のために、このまま残したいという人と、邪魔だから早く処分してくれ! という人に別れて既に言い争いになっているらしい。

 いずれにせよ、俺達からすれば、勝利の証を眺めながらの朝食は、格別だった。


 さて、ギルドでの話合いだったよな。行って話を着けねばならん事が幾つもあるんだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 と、いうわけで、ギルドでの話に戻る。



「とりかえしてこーーーい!」


 って、言われてもなあ。あいつら、どこに行ったんだか。少なくとも、俺たちとは逆方向へ行ったとしか思えんし、


「ふっふっふ。こういう時こそ、私たちゴーリガン ガールズの出番ですわ」

 なんか、ドヤ顔のスーさんがいる。レアではあるが、余り見たい顔ではないな。

「マスターさま。一室お借りして宜しいですか? 私たちが直接連れてくることは出来ませんが、〝罠〟を仕掛けるくらいなら、いくらでもできますわ」

「おおっ! そうか、助かる。こういう時、冒険者って人種は全然だめでな。エリート官僚様の力、期待して待ってるぜ」

「御期待くださいませ。おほほほほ。旦那様方は、昨日の顛末の報告をおねがいしますね」

 そういって、スーたち六人は、別室へと籠った。

 あっちは任せるしかないな。


 こっちは、こっちでやることをやらないと。

 実は、エルノスとテリーは、結局昨夜はギルドに泊まっている。

 俺たちが居なくなった後、他の連中に襲われたら拙いからな。

 おばちゃんに面倒を頼みこんで、申し訳なかったが、おばちゃんも、乗りかかった船とばかり、世話を引き受けてくれた。

「坊ちゃんたちを呼んできてくれ」

 と、マスターがギルドの職員に頼むと、程なくして二人がやってきた。

「待たせて悪かったな」

「いえ、皆さん良くしてくれましたから」

 テリーの方も、俺の前ではしおらしい。

「それで、フッカー卿、昨日の顛末だが、実は、僕はここ数日、町の大人たちに狙われていたらしい」

「そうなんだ。実は、数日前から下町の大人の間に手配書が回っていて、何度か誘拐されそうになっている。幸い、生かしたままという条件だから、下町の学の無い連中に捕まえられる道理もないけどね」

 ふーむ、すると、昨日の火事も、もしかしたらその辺の証拠隠滅の為だったかもな。

「そうして、追いかけてくる連中の中に、昨日になって、この町の神殿騎士が加わってきたんだ。多分、エルノスに掛かってる賞金に目が眩んだんだろうけどな」

「そうか、あいつらは、現地登用の人手の一部に過ぎなかったのか」

「ふむ、その件はギルドの方で当たってみよう」

 何か、出てくれば重畳だがな。手配書とか。

「ついでに、心当たりを調べてほしいんだが、その、神殿騎士たちを襲って口封じした奴らがいたんだ。ともに、目出し帽に黒ずくめの二人組だ。一人は細身で口数の多い男。仮名〝軽薄〟腕は確かで得物はチャクラム。もう一人は、仮名〝無言牛〟身長二メートル、体重二百キロ程度、このサイズで気配を殺す技術を持つ。あと、こいつは、俺達と同じ白堡流を使ってた」

「ちょっと待て。白堡流って、そんなに使い手が多いのか?」

「いや、生まれて直ぐに修行を開始しないと物にはできない難儀な武芸だよ。この世界では、俺とアコ、あとは、ヒロシくらいだな」

「あのひょろいのも使い手だったのか」

「とはいえ、怪我で引退して久しいがな」

「と、いうと、あの怪我が原因か?半年前の」

「いいや、ヒロシの怪我は、十年も前の話だ。俺がやった」

 当時、〝千糸〟の名を襲名していい気になってた俺は、通いの弟子にいい感情をもてなくて、片っ端から潰していた。その中の一人がヒロシだった。

 他の外弟子が、俺を恐れ、一人、二人と辞めていく中、あいつだけは、俺のことを気づかってよく話しかけてきたっけ。俺が東京から帰ってきた後も、連絡くれたときは、素直に嬉しかったなぁ。

「あいつとは、一言じゃ語れない大事な縁があるのさ」

 それだけ答えてこの話は打ち切る。

「今は、〝無言牛〟の件が先だ。何か判れば教えて欲しい。アイナは、ロデム兵団が怪しいと言ってたが、それだけじゃない気がする」

「ロデム兵団か。了解した。そういわれれば、ありそうな気がするな」




「ところで、何でまた、〝三悪〟にコアを譲るようなことになっちまったんだ?」

「いつもの通りさ。あいつら、俺たちを待ち伏せしてたんだ」

 その後、アイナが剛力に呪いをかけたこと、アコの神託のことなど説明した。マスターも、神託経験者なので、半笑い状態ながら、事情は理解してくれた。

「神様のお墨付きかぁ。これ、勅命と、どっちが優先権あるかなぁ?」

「さあ? ところで、よく、討伐許可が下りたよな。今更だけど」

「そういうな。昨日聖王都と直通ダイヤルでずっと交渉してたんだぞ。決め手は、迷宮の痙攣だったんだ。あれの音が、凄い臨場感で、のっぴきならない状況を演出してくれたんだ。おかげで、向こうに居る官僚の方がビビっちまって、ほぼ、こっちの言い値で買い取ってくれることになっていたのになぁ」

 勿体ないことしちまったなぁ。何とか、〝三悪〟を捕まえて説得しないと。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おーい、差し入れだよー」

 と、嫁たちの大好物、プリンを持って彼女らの籠った部屋のドアを開け、

「!」

 一瞬で閉めた。

 嫌な幻覚が見えた。スーたちが、三つ編みに瓶底眼鏡かけて「うふふふふふふ」と笑いながら仕事してる姿だ。

「旦那様、どうしました?」

 スーが出てきて尋ねる。良かった、いつものスーだ。

「差し入れのプリンを持ってきた。みんなで一緒に食べよう」

「わぁっ、ありがとうございます。みんなーっ、休憩しましょう!」

「「「「「はーい」」」」」




「それで、どんな塩梅だ?」

 プリンを平らげた俺は、一口紅茶をすすってから尋ねる。

「ええ、全土に手配書をばら撒き、居場所を限定させます。そうしたら、そこに冒険者を派遣して捉えさせます。一週間もあれば、ここまで連行できますわ」

 にこにこ笑顔で語る君がこえー。

「ところで、スー。ここの所、こうすれば、あと二万ドロップ浮くわよ。そうしたら、賞金に加算できるんじゃないかしら?」

「んー、そうね。それでお願い」

 ブーケ、流石に財務官僚一家だな。スーも決断が早い。本当に優秀な娘たちなんだな。


「旦那様♡ ジュンが、そろそろ限界っぽいの。お外に連れてってクールダウンしないと」

「わかった、ジュン! ちょっと外へ出ないか?」

「は~い。お供しま~す」

 うん、この子はこっち側だ。




「う~ん。まだ頭がふにゃふにゃしますぅ」

 左右に揺れながら、ジュンがふにゃふにゃ歩いている。頭の上に数字が踊っていそうだ。

「ジュンは、どちらかというと、俺達寄りだよなぁ。どうして文官になろうとしたんだ?」

「それは、やっぱり仲良しのみんなとなるべく一緒に居たいからですね」

「でも、それなら、みんなの護衛でもいいだろうに。わざわざ苦手なことを仕事にしなくても」

「でも、おかげで旦那様とのご縁も結べました。それに、みんなと一緒の苦労も経験できます。そりゃあ、おミソ扱いになることもありますけど、わたしは、自分の選択が間違っているとは思いません」

 うん。本当に真っ直ぐないい子なんだよな。今日はふにゃふにゃしてるけど。おかげで今まで見られなかったジュンの可愛い所も見られたし、結果オーライかな。

「旦那様。わたしは、妻として、女として、魅力ありますか?」

 いきなり、そんな問いを仕掛けてきた。あらためて、彼女を見る。

 普段は長い髪を凛々しくもポニーに縛ってあるから気が付かないが、今日は、縛ってない。くるくるとカールした髪の毛は、とってもキュートで、歳よりも一つ、二つ若く見えるくらいだ。だが、大きく豊かなバストと、嫁の中では、一際長くて大人っぽい手足は、大人の女を感じさせる。はっきり言ってツボなのだ。流石に、俺は辛抱たまらん状態になってきた。

「もちろん。俺の大好きな人だもの」

 そう言って、手を引き無人のゴーリーヴォーグまで連れ込み、一戦、いや、正直いうと、三回もしてしまった。

「二人だけの秘密な」

「はいっ! でも、多分スーにはすぐバレますよ♡」

 なんてことを話しながら、ギルドに戻ると、




 結論から言うと、一発でばれました。

「仕掛けは完璧です。あ・な・た♡ 一週間であの人たちは狩られる運命ですわ。ええ、あ・な・た♡ のように♡」

 バレてーら。スーは、普段は、旦那様と呼ぶのに俺に不満があるときや、意見するときは、あ・な・た♡ と、呼ぶ。その時の笑顔がほんと、怖いんだ。そして、狩る気なんだ。今夜。




 翌朝。

 すっかり狩りつくされた俺は、つやつやな嫁たちを従え、ギルドに最後の確認に行く。

 そこで、マスターから、ある依頼をされた。

「坊ちゃんが誘拐されそうになった理由の一つかも知れない事情がわかった。それで、こんなものを預かってるんだが……」

 そこには、俺とアコ宛の手紙が二通あった。

「どうやら、空位になった教皇を決める選挙を行うらしい。坊ちゃん宛てにも同じ手紙が来ていた。そこで、依頼なんだが、坊ちゃんを聖王都まで一緒に連れてってくれないか? もちろん、ギルドから依頼料は支払う」

 なるほど、票固めか。

「うちの車は、六人用を十一人で使ってるんだが……」

「え!? じゃあ、無理か?」

「えー、大丈夫だよ。あと一人や二人」

 すっかり通常運転に戻ったアコが、太鼓判を押した。

「そうですわ。いざとなったら、テントは、またアレを出せばいいですし、子育ての予行練習のつもりで引き受けましょう」

 子育てって、スーと坊ちゃん、三つしか歳違わないんだが。

 他にのみんなも特に反対意見は無かったので、この依頼を引き受けた。また人数が増えた。

 既に、坊ちゃんの旅立ちの準備はできてるそうで、後は、俺達を待ってギルドに滞在している。

「では、フッカー卿、世話になる」

「俺も一緒に連れてってくれ!」

 と、テリーまで言い出したのには驚いたが。

「わかりました。私たちが面倒見ます」

 と、スーたちが、テリーを連れて行こうとしたので、

「大丈夫か?」

 と、尋ねたら、今日最大の爆弾が投下された。

「勿論です。私たちが、テリーちゃんを立派な淑女に育ててみせます」

「淑女にねぇ。って! っえ? ええええっ!?」

「えええええっ!?」

 え、

「エルノス、知ってたのか?」

「いや、初耳だぁぁぁっ! てっきり、男だと、男同志の友情はどこー? どこー?」

 混乱しすぎだろ。逆に冷静になれたわ。

「エルノス君も旦那様も、ひどいですよ。こ~んなに可愛い娘、男だなんて!」

「ま、絶対間違えてると思ったけどね」

 アコまで知ってたのか! 負けた気分でくやちー。

 どうやら、女性陣は一見で見抜いていたらしい。俺、節穴? 


「俺、一生懸命、エルノスのお嫁さんに相応しい女になってみせるよ」

「その意気ですわ。私達があなたをサポートします!」

 と、どや顔のスーたちが、ふんす! と、決意も新たに意気込む。生命保険のCMかっ!

 俺は、そして、ヒロシも、慰めの言葉も無いが、肩にぽん、と手を置くと、

「さらば、少年の日々。そして、ようこそ。終了した人生のその先へ!」

「う、うわーん!」

 さめざめと泣く少年を生暖かく見守るしかなかった。




 そして、滞在五日目の昼すぎ。

 ようやく、俺達はロサを後にした。

 次回予告


 こうして、ようやく出発の日を迎えることが出来たが、問題はあの二人だ。

 まだ、子供なんだから、一緒の部屋でもいいのだが、エルノスの方が精神的に参っている。ま、親友だと思ってた男の子が、実は女の子でしたなんて、

「ラノベかぁぁぁぁっ!」

 って叫びたくなる気持ちもよくわかる。

 どうする、どうなる、男の子っ!


 次回、特別編 「三悪 逃亡記」

 しかし、スーに狙われたらお終いだな。

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