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17th 「敵の敵は敵」

 俺たちは、坊ちゃんの懇願に、取るものも取りあえず、下町方面へと向かった。道中、詳しい話を聞いてみると、坊ちゃんこと、エルノス少年を狙った大人たちのグループから襲われていたらしい。彼を守るため、テリーという少年をリーダーとするグループが、大人たちを翻弄していたそうだ。

 最初こそ、近所の与太者みたいな連中が追手だったようだが、その中に数名の見たことのない連中が混ざっていたらしい。そいつらは、見たこともない手練れだったそうで、下町を知り尽くした子供たちでも、囮になりながら、エルノスを単独で逃がすので精一杯だったそうだ。

 

 ようやく、下町に到着すると、町のあちこちから火災が出ていて、大混乱中であった。

「あああっ! 孤児院まで、火が出てる!」

 エルノスは、何とか火を消そうと地面の土を手で掬い火にかけようとするが、無論、そんなもので火は消えない。

「まかせろ! 少年!」

 俺はインパルスをアポートして、消火活動を始めた。

 バシュッ、バシュッ、と何発か撃つとようやく鎮火した。ここは、まだボヤのうちだろう。

「誰か、誰か居ないのか?」

 そう叫ぶエルノスは、台所の奥で固まって震えていた小さな女の子たちを見つけてようやくホッとする。

「テリーたちは、どこへ行ったんだ?」

 そう、尋ねると、

「お兄ちゃんたちは、へんな格好の大人たちに連れていかれたの……」

「なんだって?」

「町はずれの廃屋に居るっていってた」

「怖いひと、いっぱいいた」

「エルノスが来なかったら全員殺すって……私たち、怖くて隠れてたら、大人たちが火を点けて出て行って、もう、ダメだと思った、怖かったよぉー」

 そう言ってぶるぶると震えだした。

 俺は、スーたちにこの子たちを任せて、廃屋に行くことにした。

「フッカー卿、僕も一緒に行く。今更だが、僕が行かなければ収まりがつかないだろう」

「しかし、危険すぎる! これなら、迷宮の中の方が安全だったくらいだ」

「だが、テリーは、僕の友達だ。僕を助けるために捕まったんだ。僕が行くべきだ!」

「……わかった。だが、君も無事でなければ意味が無い。だから、絶対無事に返す。そのために」

 周囲を見渡し、

「アヤメ! アイナ! 悪いがまた、先行偵察たのむ」

「承知!」

「……任務、了解」

「アコと、ジュン、ミナミは、一緒に来てくれ。ヒロシは、ゴーリーヴォーグを持ってきて消火活動をたのむ」

「「「「了解」」」」

「嫌な予感がする。まだ、もう一波乱あるぞ」





「ここか」

 その廃屋は、木々の中に埋もれかけ、既に人の手が入らなくなってから幾年経ったか判別出来なく成る程捨て置かれた風情である。もっとも、俺達から見れば、何人もの人の出入りの痕跡が見て取れるが。

「ふん! ようやく来たか」

 悪態をつく男の登場に緊張が走る。この鎧、たしか迷宮で拾ったな……

「神殿の騎士殿が誘拐、放火か? 神の御許でどんな言い訳するつもりだ」

「知れたこと! 神敵の駆除は敬虔な信徒としての大事な役目ぞ!」

「神敵とは、僕のことかっ!」

 エルノスは、悲しそうに、そして怒りを湛えて抗議する。

「貴様だけではないぞ! この町に住む〝戸籍〟を持たぬ駄民共、神の財産たる迷宮を盗んだそこの盗賊ども、お前たちも纏めて粛清してくれる! 者ども! 出遭え! 征伐せよ!」

 その言葉に隠れていた神殿騎士がおよそ20人、うぉぉぉぉぉぉぉぉっ! と、雄叫びあげ突進してくる。

「なんと! 僕はまだしも、教会が認定した聖者様たちを捕まえて神敵扱いとは……」

「ぼっとするな! 後ろに隠れてろ!」

 俺は、坊ちゃんを後ろへ引き下げると、ドッヅランサーを回転させて奴らのランスをへし折りにかかる。アコは、騎士の懐まで入り鎧通しの打撃を与える。どすん! と鈍い音が此処まで聞こえる。

 ミナミは、金属鎧を念頭に、火魔法で何人かの騎士を一度に巻き込むと、その隙を突こうとした騎士に狙われる。拙いか? いや、さに非ず、ジュンが、姑息な騎士共に横薙ぎの一閃! 一撃で吹っ飛ばされた騎士は、後ろの騎士達を巻き込んで転倒する。

「ミナミに手出しはさせん!」

 どうやら、任せて大丈夫そうだ。

 一瞬で戦力を半減された騎士団長は、

「くそっ! 大人しく投降しろ! 人質がどうなってもいいのか!?」

「そういう台詞は、実際人質を手元に置いて言うべきでござるよ」

 団長の耳元でアヤメの声が聞こえ、ビクッと仰け反る。

「主様、人質救出しゅうりょーのお知らせでゴザル」

「……既に安全な場所へ避難済み」

 と、いうか、団長の首筋に刀押し付けてんじゃん。ゲームセットだな。

 そう、思った瞬間、団長の首が、ポトリと落ちた。

「にゃ! にょぉぉぉぉっ! 拙者、まだ何もしてないですぞぉぉぉぉぉっ!」

 アヤメが気配を察知出来ないだと? 

「……あそこ!」

 アイナの指さす方向に、黒ずくめの男が立っていた。


「何者だ?」

 少なくとも、味方が発している殺気ではない。

「んー 私共は、そこの少年の身柄が欲しかったんですが、教会の脳筋騎士たちが、彼と彼の友達を殺そうとしたものですから。まったく嫌ですねぇー、宗教ってやつは」

 軽薄なセリフと殺気が一致してない。こいつ、出来る!

「……」

 もう一人いたのか!? 〝軽薄〟の後ろに立ち、肩に手を置いた一際巨体の男。二メートル近い大男で横幅もでかい。二百キロ近くあるんじゃないか? こんな奴が、俺達から気配を隠していただと!?

「ああ、申し訳ない。余計なことしゃべるなと、いや、ごもっとも。それじゃあ、本来の目的を果たしてきましょ」

 〝軽薄〟が、何かを飛ばしてきた。 黒い、チャクラム!? 辛うじてドッヅランサーで受け止めると、回転するドリルに意外な程抵抗していたが、流石にはじき返され地面にカランと落ちる。

 なるほど、団長の首はこいつで取ったのか。

「おやおや、この程度の魔力では抜けませんでしたか」

「……」

 〝無言〟の方がそれこそ、無言で突進してくる。アコ、アヤメ、アイナの三人が躱すのが精一杯とか、なんだよ? その突進力! 暴れ牛か!?

 〝無言牛〟が、俺の方へ向き直ると、腕を振り回し俺の側頭部を狙って両腕の腹で攻撃してきた。

 この、攻撃はハンマーか…… そして、この間合いは……

 一旦離脱し、〝無言牛〟から離れる。

「てめぇ! 白堡流をどこで齧った!?」

「「「「「「え!?」」」」」」

 全員が、俺の方を向いていた。いや、〝軽薄〟までかよ!

 根拠は間合いだ。こいつは確実に白堡流の間合いを知って更に短い間合いに誘ってきた。

 そして、白堡流の最短間合いの打撃の切り札が「ハンマー」だ。俺と対峙して、一、二回攻撃しただけでその対策まで出来るものではない。やはり、只者じゃないな。

「ふん。どうやら、聞いていた程ぼんくらでもないようだ」

 そんなことを言いながら距離をとっていく。


 一方、〝軽薄〟は、アコの方へ。チャクラム二つを剣の代わりに二刀流で攻撃する。

「ぐ」

 こういう相手は、無手のアコでは分が悪い。アイナが助けに入るが、身長差で押されている。

「あ、ヤバ、神様……」

 しまった! 神様再降臨か? 

『ど~れ、おしおきだべぇ!』

 え?

『ミュージック!』

 ええ?

 <ジャ、ジャ、ジャ、ジャ~ン♪>

 えええっ! どこからともなく、運命の調べが響いてくる。

「ええええっ! コールゴッドとか、聞いてないっすよー!」

 狼狽えて下がる〝軽薄〟だが、バナナの皮で滑って転んだ。さらに、転んだ先にあった作りかけの堆肥に突っ込んだ。

「うわ、ぺっぺっ、くっせーっ」

 慌てて立ち上がろうとした所、何かの紐を足にひっかけ、また転倒。その上に、

 がん!

 たらいが落ちてきた。昭和のコントか!?

『お前の幸運値をマイナスにおとしただべぇ~。最早、何をしようとも、全てギャグにしかならないべぇ~』

「えええええっ! そんなぁーっ」

 なんというか、残念無双。


「……撤収」

「ええっ! まだなにも達成してないのに?」

「!」

「! 了解……」

 そうして、二人の正体不明の敵は、去っていった。正直、本格的に闘わず済んで助かった。

 しかし、奴ら何者だろうか?


「エルノス! 無事だったか」

「テリー! よかった。君も……」

「こっちはみんな無事だ。そこの姉ちゃんたちのおかげだ」

「なに、拙者たちは、たまたま居た見張りを倒しただけでゴザル」

「……みんな、がんばった」

 どうやら、人質救出は無事成功したようだ。

 アヤメとアイナに奴らの正体に心当たりが無いか聞いてみたが、

「……もしかしたら、だが、〝ロデム兵団〟かも知れない」

「! あの、世界最強の傭兵軍団でゴザルか!?」

 少しだけ聞いたことがある。だが、解せないのは、ロデム兵団は、教会の公敵だったはず。

 敵同士が結び合った? しかし、結局教会側とは喧嘩別れだし? 

 わかんねー。


 取り敢えず、スーたちと合流して、帰ろう。流石に眠い。


「フッカー卿、本当に、ありがとう。そして、彼が僕の親友、テリーだ」

「テテて、テリー、です、フッカー卿、良かったら握手してください」

「お安い御用だ。良く頑張ってくれたな。おかげでエルノスも、他の子たちも無事だった。君は強いんだな」

 握手しながら、そう語りかける。

「! 恐縮です。俺にとって、フッカー卿は英雄ですから」

 うわ、きらきら目玉だぁ。勘弁。と、内心思いながら、

「一応、明日、ギルドへ二人で来てくれ。そこで詳しい話を聞きたい」

「「わかりました」」


 そうして、下町まで戻ってきた。火事の方も、大過なく消火できたらしい。

 本当に眠い。丸二日近く寝ていない。スーたちは、居残った子供たちと、既にお休みだった。

 彼女らをゴーリーヴォーグのベッドへ寝かし俺達も撤収する。そして、翌日は昼近くまで寝ていた。




 ~翌日~

 ギルドに行くと、マスターが、

「喜べ! 迷宮討伐の許可が下りた。コアを皇帝に献上することが条件だが、代わりに御褒美がでることになった。それで、コアはどこにあるんだ?」

 間のわりー。


「すまん、迷宮で逢った〝三悪〟(トライ イービル)にあげちゃった。てへっ!」

 青くなるマスター。

「とりかえしてこーーーーい!」

 次回予告

 

 まさか、こんなことになるとは。

 いろいろあったせいで、事後処理に時間を取られた俺達は、

 まだロサから出られない。

 ここで、スーたちの本当の実力を見せつけられる。

 

 どうする、どうなる、脳筋たち(オレたち)のコンプレックス


 次回 「六人の官僚たち」

 正直、スマン。

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