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16th 「勝利の価値はプライスレス」

「「「ギャース、ギャース」」」


 俺は今、ヘルメットを外して、とても穏やかな気持ちで三バカの最期を看取る気になっている。


「「「ギャース、ギャース」」」


 確かに奴らには、色々と迷惑をかけられ通しだった。

 だが、それも最期と思えば、何もかもみな、懐かしい思い出だ。


「「「ギャース、ギャース」」」


 俺の心の中に、奴らに対してこんなにも優しくなれる感情があったこと、

 自分でも驚いている。

 あんな奴らでも、俺は大事におもっていたんだなぁ。

 

「「「ギャース、ギャース」」」


「どやかましぃぃぃわっ! 人がせっかくお前たちの最期を綺麗に締めくくってやろうと考えてる最中に!」


「「「さいごの文字が不穏当すぎる!」」」


「しかたないだろう? 最期は最期なんだから」


「「「勝手に殺すなぁぁぁぁっ!」」」


 やれやれ、最期まで我儘な奴らだ。



「いっそ、旦那様が優しくて、かっこいい旦那様に戻ってくださるなら、彼らに犠牲になってもらうのが最善かしら?」

「うんうん、だんだんありな気がしてきたよー」

「私が剣を捧げたのは旦那様だけだし、もう、必要な情報はもらったからね」

「あらあら、敵は最期の最期までみっちり利用しなくては」

「え~っ、ひどいよ~。最期くらい優しくしてあげようよ~」

「そうですわ。まだ、ヒュドラが残っています。それまでは優しくしてあげましょう」


「「「ひどいよっ!」」」

 うちの嫁にまで噛みつくとか、どんだけだ!

 よし、ここは心を鬼にして、一発ガツンと……


『ど~れ、控えるだべぇ~』

「「「! ははーーっ」」」

 ん? アコ? 三バカに何言うつもりだ?

『吾輩がドロボーの神様だというのを忘れてるべぇ~』

「「「いえいえ、めっそうもない」」」

『お前たちの使命は、この先で迷宮のコアを盗んで逃げることだけだべぇ~』

「「「! ! !」」」

『そうして逃げ切ればどうなるべぇ~?』

「「「俺たちゃ大金持ち!」」」

『どうだべぇ、やる気起きたべぇ~か?』

「「「ははーーっ」」」

『ではこれにて吾輩は風のように去っていくべぇ~』


 くるくる回転しながらスーたちの方へ戻ってきたアコは、それまでの憑き物が完全に落ちたように通常運転に戻っていた。今回は早いな。

「おかえりー」

「んぁ、不可? ただいまー」

「今日はまた、随分はやかったねぃ」

「あー、ここだけの話、まだ完全にお帰りじゃないの。○平ちゃん」

「え!? ドクちゃんじゃないの?」

「最初から言ってるよ。滝□順ぺ、って」

 衰弱したアコは、スーたちに支えられて世話を受けながらそんな話をする。


 この世界、俺達の世界で偉業を成した人が、転生したり、神格を得て神様になったりということがままあるらしい。とは、今回神様から聞かされた秘密だとか。とはいえ、数自体はとても希少なので、落ちもの様でもなかなか気が付かないらしいが。


「それよりも、ヒュドラだっけ。どんな魔物なの?」


「説明しよう。ヒュドラとは、簡単に言えば頭に沢山の龍の首が付いたドラゴンの亜種だねぇ。全長は大体15m 体重は10t にもなるというねぇ。ブレスこそ吐かないが、それぞれの首がスタンドアローンで動くので、手数が多くて厄介な敵だねぃ。特に問題は、治癒能力が高く、首なんか、斬ったそばから復活してくるというキリのなさだろうねぃ」


「と、いってもここに居るのは偽物だけどな」


「ところが、そうも言ってられない事情があるでゴザル。どうやら、ヒュドラもどきは、コアと直結しているらしく、コアのエネルギーを使用して再生するようでゴザル」


「……肯定。軽く一戦してみたが、ほぼノータイムで斬り落とした首が再生した。その際、後ろのコアが輝きを増してエネルギーを使用したようだった」


「「「勝手に闘うとか、危ないことしちゃダメじゃないかっ!」」」

 流石にこれは注意しなくちゃな。

「「……ごめんなさい」」

 項垂れて謝ってくる二人を前に、どうしてこれ以上叱れるだろうか?


「いずれにせよ、作戦を決めねばならない」

 全員召集して、作戦会議を始める。

 俺はアヤメを、ヒロシはアイナを、それぞれ膝の上に座らせ、頭を撫でながら、まず一戦した感触から何か有効な策が無いか聞いてみた。

「……やはり、一つはヒュドラをコアと引き剥がすのが定石」

 真っ赤な顔で俯きながら意見してくれるアイナたん。萌える。

「然り。エネルギーの供給を遮断しなくては、いくら闘っても無駄でごちゃる」

 噛んだ。こちらも負けじと、真っ赤な顔で羞恥に耐えるアヤメ様が萌える。

 嫁共と、喜死朗が羨ましそうに見ているが、これは「罰」なのだ。容赦はしない。

「と、なると俺っちの出番か?」

 未練がましくチラ見しながら喜死朗が言ってくるが、

「……エネルギー供給のパイプはとても太く堅い。また、刃こぼれしかねない」

 と、言われ、二刀を見ながらすごすご引っ込む。

「さっきの焼夷弾は?」

「虎の子の一発だったし、第一うちらの逃げ場が無いよ」

「と、なると、アレの出番かにぃ、ミスト○ティン先生」

「ああ、あれか。ヒート チェーンソー」

「何ですか? その、ちぇーんそー って?」

 スーに問われたので答えてみる。

「まあ、動力のついたのこぎりだと思えば間違いではないかな。これの場合は迷宮の魔物用に高熱を発しながら斬ることに特化した武器になるんだけど」

「今回は単体の強敵に攻撃することは余り想定してたなかったからねぃ。一応用意だけはしていたけど」

 アイナの頭をかいぐりしながら、ヒロシは続ける。

「いずれにせよ、今回はゴーリガンに敵の後ろを取って、ケーブル切断をやってもらうことが肝になるねぇ。他のメンツは、その為の陽動係だ。とはいえ、この人数でのフルボッコだから、そんなに危険でもないかねぇ。どう思う? アイナ」

「……肯定。ぷろへっさーの言う通り、中 長距離主体のこのメンツなら、極端な危険は想定されない」

 真っ赤な顔でささやくような小さな声で答える。

 もう一度、脳内でシミュレーションしてみて、大丈夫かと判断して、Goを出す。

「よし、この作戦でいこう。ケーブル切断は、俺と、一応護衛としてアコと喜死朗の三人でやる。二人には、前衛で苦労かけるが、宜しく頼む」

「けっ! しゃあねーな。金持ちへの道のためだ」

「まあ、途中で神様に掛かりきりだったからね」

「アコは、消耗してるんだから、無理はするなよ」

「わーってる」


「よし、じゃあ最後の仕上げだ、いくぞ!」

「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」」




 こうして、コアのある部屋に辿り着いた。途中で、恐らくコアの護衛をしていた兵士のものであろう鎧と槍が転がっていた。中身の人間は既に迷宮に吸収されたのであろう。合掌すると共に、遺品を持ち帰るため、回収する。いよいよ、ヒュドラとの戦闘だ。




 コアの間には、体高15m程の龍の首を大量に纏った怪物が鎮座して待っていた。

 なんか、縺れたまんま、解けなくなっても不思議ではない感じなんだが、戦闘になれば、それぞれが凶悪な攻撃を仕掛けてくるだろう。

 改めてメットをかぶり直すと

「アポート!」

 ヒート チェーンソーを手に取り、いよいよ、攻撃開始だ。


「ググゥゥゥォォォォォッ!」

 と咆哮するヒュドラに、嫁たちは威嚇されたものの、すぐに持ち直して、戦意を高揚させる。


 まず、俺達前衛組が突撃すると、ヒュドラが無数の龍の首を伸ばして攻撃してくる。

 それを、喜死朗と、拳にエンチャントしたアコが次々と潰していく。ある程度距離が稼げた時点で後衛の陽動が始まる。ミナミの魔法と共に、以外な活躍をしたのが、チヨの大手裏剣である。ハンマー投げの要領で投擲されたこの大手裏剣は、ヒュドラの胴体に深々とつき刺さり、回復不可能なダメージを与えた。

「すごいですわ。チヨ! でも、回収、どうやりますの?」

「あ!」

 ……片手落ちとはいえ、序盤でのこのダメージは大きい。

 後は、キャノン砲を撃ってくれればいうことはない。


 しかし、首の方はなかなか、数が減らない。

 嫁たち、俺の分も貸し与えたビームキャリバー組の攻撃は、次々首を落としていくのだが、回復が早い。落とすそばから復活してきて、あまり意味がない。


 これは、やっぱり俺がやらねば。チェーンソーのエンジンをスタートさせる。

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ

 物凄い音と共にチェーンソーが回転を始める。


 その合間に喜死朗が、ケーブル切断を試みるも、流石に魔法刀とはいえ、用途が違いすぎる。傷こそ付けど表面だけだ。

「任せろ!」

 グレートソードを扱うように、俺自身を支点にチェーンソーを回転させると、力任せにケーブルを切断にかかる。物凄い火花と共にケーブルに深い切れ込みを入れた。


 切断には至らなかったものの、断面から光が漏れ、ヒュドラの動きに異変があった。

 上手くいったか? と、思いきや、ヒュドラの尻尾が俺を狙って鞭のように撓って飛んでくる。バッシーン! と直撃!

「ぐぅおっ!」

 まともに受けちまった俺に、なおも追撃が来たとき、

「二刀連撃 浦斬り改!!」

 喜死朗の大技がヒュドラの尻尾を絶ち斬った。

「今だ! さっさと仕事をかたずけろ!」

「おおおおっ!」


 最初の一撃のダメージはあるが、流石はゴーリガンスーツ。これがなければ、アバラの一、二本持っていかれてた。俺は再度ケーブルにチェーンソーを入れると、またも火花が飛んでどんどん深く刺さっていく。そして、遂にケーブルの切断に成功した。

「「「「「「やったー」」」」」」

「やったでゴザル」

「……やった」拳ぎゅ。

「「「やったー、やったー、ヤッター○ン」」」

 いや、お前らがこれ言っちゃ駄目だろ。


「まだだ! ヒュドラに止めを刺すぞ!」

 ビームキャリバーと、ビームキャノンでどんどんヒュドラの表面を削り取り、遂にヒュドラの核が露出する。龍の首はもう再生しない。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 アコがヒュドラの胴体に飛びつくと、核を無理やり引きはがそうと目一杯の力で引っこ抜く。遂にぶちぶちぶちと、引きはがして、勢い余って地面に落下すると、ブリッジの状態で西瓜大の大きさの核を取り出した。

「いぇーい! スイカップ、ゲットだぜ!」

 なんか、アナがすっごい痛そうな顔してたのは内緒だ。


 さて、ここで終わりではない。

 迷宮のコアを同じように引っこ抜かねば依頼完了ではないのだ。

 しかし、改めてコアを見てみると、でかい。

 直径二メートル位の大きさである。

 考えた末、地道に器官を引きはがして、取り出すしかないとの結論に達した。


 まず、俺がチェーンソーを使って粗方の組織を斬り取る。

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ

 しかし、その間、器官にダメージを与える度に迷宮が揺れる。下から上へ突き上げるような動きに、何度も中断させられた。正に、断末魔の痙攣である。


 そうして、二十数回の中断を経て、遂にコアは、迷宮から分離され、ここに、ロサの迷宮は天に召されたのであった。合掌。




「さて、あとは、このコア、どうやって持ち出すかな?」

「それなんだけど、あんたのアポートで外まで出しておくれでないかい?」

「? それはもちろん構わないが、その後はどうするんだ?」

「ふふん。自動車持ってんのがあんたらだけじゃないってことさ」

 そういう事か。出口に向かいがてら聞いてみたが、ウニモグの出物を見つけたらしい。積み込みは達磨がいるし、特に困ることはないか。


 と、なると後は、逃げる場所か。

「お前ら、一応教会からの依頼で生活してたんだろ? その辺どうすんだ?」

 こいつらは、教会の依頼で落ちもの様を狩るのが本職である。俺達との出会いも、転移直後にこいつらに攻撃されたことが縁の始まりである。

「ま、そっちの仕事は依願退職ってとこかね。追っ手といっても、あたしらを捕まえられる程優秀な人材がいるなら、うちらが請け負う訳もないさね」

「いよいよ、本格的に困ったら、アルカンの領主様を頼っていけよ。多分、腕の立つ奴らはいくらでも欲しがるさ」

「ああ、そうさせてもらうとするよ」


 そして、ようやく35時間ぶりに地上へでてみると、お誂え向きに夕闇の時間である。約束通りコアをアポートしてやると、近くに止めてあったウニモグに積み込み、いずこかへ去っていった。

 折角戒名まで考えてやったのに。

 こうして、流石に疲れた俺たちも、ゴーリーヴォーグを置いてある宿まで帰ることにする。

 

 途中、ギルドに寄って依頼達成の報告だけはしてきた。

 おばちゃんは、嫁たちを見て、みんなにハグして無事を喜んでくれた。

 俺たちにも、損な役回りを讃えてくれて、達成証明を発行して、後金を支払ってくれた。

 マスターは、どうやら所用があって、先に帰ったらしい。

 おばちゃんに礼を言って、さあ、帰ろうという時に、坊ちゃんことエルノス少年が飛び込んできた。


「ああ、フッカー卿。助けて、助けてください。僕の友達が、大変なんです!」


 なんだと!?





 次回予告


 坊ちゃんの友達が危ないと、取るものも取り敢えず下町までやってきた。

 しかし、そこには予想以上に手ごわい敵がいた。

 奴らの正体はなにものか?

 そして、その目的は?


 次回 「敵の敵は敵」

 チョー眠いんですけど。

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