11th 「ロサの涙」 Aパート
マカンの町を出発して一週間。ついに、「自由都市国家群」は、ロサの町に到着した。したのだが、以前俺がいた頃とは様子が全く違っている。
なんというか、すごいことになっている。
「ロサ名物ドメーヌ饅頭、うまいよ」「ロサに来たら、これ買わなきゃ。銘菓ドメーヌの涙」
「ドメーヌせんべい」「ドメーヌ羊羹」「ドメーヌ栗最中」「ドメーヌお好み焼き」「ドメーヌ金時」
etc、etc。
あれ? たしか、半年ほど前に俺が来た時は、こんなことにはなっていなかった筈だ。
あの事件は一年前。たしか、ドメーヌ云々という話は、一般人相手にはオフレコだった筈で、俺が来た半年前の時点では、事件のことを知らない人の方が多かった。
それから半年でコレか。
これは、教会の差し金かな? 突っ込み所は山ほどあるが、いずれにせよ、俺たちは、冒険者ギルドへ寄り、迷宮入場の手続きをしなければいけない。とりあえず、スルーして先を急ぐ。
……すでに買い食いしてる奴がいた。
「アコ! 後にしてくれ」
冒険者ギルドは、重厚な建物を数種類の植物で飾った小洒落た雰囲気のままだった。ああ、おばちゃんも元気なんだなぁと、少しだけホッとして、扉を開けると、かつての俺を助けてくれた面々が、当時と変わらずに働いていた。
「いらっしゃいませ。って、ああら、あんた! フッカーちゃん。どうしたの? 一体!」
「相変わらずだな、おばちゃん。マスターと話がしたいんだが、居るかい?」
そう言って、カウンターの中を見渡すと、いたいた。坊主頭に顎鬚のおっさん。
十人中十人がギルドマスターしか職業が浮かばないと言いそうないかつい男だ。
「俺がどうしたって? うぉっ! おまえ、フッカーか! よく来てくれた。おおっ! シスターにひょろいのまで、一体どうした風のふきまわしだ?」
「依頼の途中で寄ったんだよ。そんで、ちょっと訳ありの連中を〝迷宮〟で鍛えてみたくってさ」
「訳ありの連中?」
俺の後ろに控えている嫁たちが目に入ったようだ。
「べっぴんさんばかりじゃないか。お前のヨメか?」
と、言われると冷や汗がだらだらだらだらと
「おいおい、冗談のつもりだったんだが、マジか?」
「んまぁ、お嫁さん連れてきてくれたの? うれしいわぁ。あの、フッカーちゃんがねぇ」
ここは、公式な用事ということにした方がいいかな?
「今、俺達はアルカン領主に雇われてる身で、この娘たちは、アルカン の幹部や幹部候補生だ!」
あえて、私的部分ははぐらかすと、後ろから嫁のプレッシャーが……
「アルカン ってことは、聖女様の秘蔵っ子かよ。おまえ、えらい仕事引き受けてんだなぁ」
「そうそう、その、聖女様の件だが、町の様子が変わっちまったのはどうした訳だ? いつの間に教会はあの事件を公にしたんだ?」
「三か月ほど前かな。聖女様が襲爵して、アルカン に行くことが決まった時から、情報が解禁されてなぁ。こんな事件があって、我々の生活が風前の灯火だったって、教会の神父たちがあること、ないこと市民に吹き込みだしてなぁ」
ふーん、つまりは、アコの時と一緒か。逆に安心したな。
「と、いうことは、商売してる連中は?」
「ああ、神父や司祭の家族や息がかかった商人たちだけだ」
生臭坊主共め。
「とりあえず、詳しい話は、奥に行ってからにしよう」
よく見るとカウンターが詰まってるな。人数も人数だし、お言葉に甘えるか。
「改めて、ようこそ、ロサの冒険者ギルドへ。俺がここのギルドマスターのゴルド=アリーニンだ」
「俺たち三人は知ってるからいいとして、こっちの娘が、一行のまとめ役で、アルカンの一等書記官で領主様の腹心だ」
「スカーレット=ディガー=コオリヤクでございます。どうぞ、お見知りおきを」
にぱぁっ、といつものステキな笑顔で自己紹介してくれた。嫁として。
「やっぱり嫁じゃないか、このヤロー! どこのモテモテ王国だ!」
「陰謀なんじゃよー!」
「で、他の娘さんたちは?」
それぞれ自己紹介する。もちろん、俺の嫁として。あ、アイナちゃんは、ヒロシの嫁としてだが。
「いったい、何人囲えば気が済むんだよお前は~」
頭ぐりぐりされてる。いたいいたい!
「陰謀なんじゃよー! 領主様の陰謀なんじゃよー!」
うわーん! 誰かたすけてー。
「マスター! フッカーちゃんをいじめないの!」
お茶を持ってきたおばちゃんに助けられた。女神様はここにいたんだー。
「それで、本題なんだけど」
陰謀呼ばわりしたせいで不機嫌な嫁~ズをなだめながら、切り出そうとしたら、
「ちょっと、待ってくれ。その前に最近の迷宮の事情を説明させてほしい」
と、言われた。
「じつは、最近迷宮内の魔物が狂暴化している。数も段々増えてきているらしい」
「なんだと?」
「帰ってきた冒険者たちからいくつも同じ報告を受けている。ここ数日のことだが、明らかに通常の階層よりも強い魔物が出現しているらしい」
やべぇな。予定は中止した方がいいかな?
「そこで、プロジェクトG にギルドからの指名依頼だ。ロサの迷宮を〝討伐〟してほしい。この地に迷宮ができてから二十二年。そろそろ、羽化を遅らせる手段も限界に近づいてきているはずだ。幸いお前さんたちには、ビームキャリバーっていう迷宮内の魔物に滅法強い武器がある。既に何組かのチームを派遣しているが、国の連中が非協力的でな。どうか、助けてほしい。頼む」
そう言って頭を下げるマスターに
「それで、依頼料は?」
と聞くと、
「受けてもらった時点で、一人金貨五枚。成功報酬が金貨十枚。迷宮内で討伐した分は、別途支給する」
そいつは剛毅だな。
「問題は、コアの回収だが、国に掛け合ってはいるんだが、現時点では通常通り、あれを傷つけたら〝死刑〟だからなぁ」
「コアを持って帰って換金できるなら、いくらでも仕事したい奴はいるだろうに」
うーん、と唸る俺たち。
その時、外から子供の声が聞こえてきた。
「迷宮 に潜って仕事をする冒険者に依頼をしたい。私の頼みを聞いてくれる勇者はいないか?」
かなり、大声でがなっているので、ここまで聞こえるのだが、
「あのガキ! またかよ」
と、言ってマスターは外へ出ていった。
ややあって、一人の子供を吊り下げたマスターが戻ってきた。
「はーなーせーっ! 無礼者ぉー」
「頼むから、静かにしてくださいよ。坊ちゃん」
あのマスターが敬語? 余程身分の高い家の子か?
年の頃は、十歳くらいか?
「ぼく、お姉さんたちに、お話聞かせてくれないかしら」
これを言ったのは、なんと、アコである。ああ、神官モードね。
「ああっ! 貴女は、異界より来訪された神官さま!」
よく知ってんな。
「ああっ! 異界のプロフェッサーまで! すると、こちらにおわすのは」
ヤベ、俺のことも知ってるのか?
「やっぱり! ロサの迷宮を単独で制覇したフッカー卿! 〝黒の勇者 聖ゴーリガン〟まで!」
ええっ!? と、俺の顔をガン見する嫁一同。
あちゃー。
次回予告
ばれた。ぼっちだったのが、嫁にばれた。
いや、そこは本当はどうでもいいんだが。
それにしても、この坊ちゃん、何を依頼したいのか?
どうする、どうなる、迷宮探索
次回 「ロサの涙」 Bパート




