10th 「六都物語」
「ゆうべはおたのしみでしたね」
くっそう! 俺は、この世で一番 〝言われたくない台詞〟 を言われてしまった。
別に、店主のバルカスさんが悪いわけじゃない。冷やかしのつもりで言ったわけでもなし、普通の挨拶程度の気持ちだろうことは、顔つきを見れば判る。
それでも、なんか、負けた気がするのはなぜだろうか。
「宿の裏手に大きな池があって、周りが庭園になっています。お散歩にはちょうど良いコースですよ」
昨日教えてくれてれば、こんな無茶しないで済んだのに。
「夜の間は、足元が悪いので、閉鎖しているのですよ」
! なぜ判る? しゃべってないのに、エスパーか?
「ホテルの支配人などしていれば、地の文を読む技術など、自ずと身に付くものでございます」
すげー。支配人すげー。
などと遊んでいると、嫁たちも、やってきた。
「本日の昼食は、池のほとりでバーベキューなどいかがでしょうか?」
「楽しみにしています」
そう言って、朝飯前に散歩しに行く。
池のほとりで、久しぶりにアコと組手をしてみる。
ここの所、別のことで負けが込んでいるし、鈍っている体に活をいれたかった。
「ふにゃーっ、不可には、まだまだかなわないよ」
じつは、まだ足がしびれてました、なんてオチじゃないよね。
「アヤメ、ジュン、二人同時にかかってこい!」
二人が同時にかかってくる。
実は、昨夜叱られついでに、さん付けで呼ぶのを止めるよう嫁たちに注意された。
ので、今日から呼び捨てでいくことにした。まだ、恥ずかしいが。
木刀とはいえ、それなりに実力者の剣である。訓練にはとても、いい刺激で、良い汗をかくことができた。昨夜の今日で何やっとるのかね。
「どうぞ、あなた♡」
「さんきゅ。スー」
冷たいタオルが心地よい。
「不可、後でちょっといいか?」
おお、ヒロシがアイナちゃんとやってきた。……やつれてないか?
「応。ベルトの微調整の件か?」
あの股間の違和感はパネェからな。
「それと、ビーム キャリバーの図面が出来た。アイナにも意見を出してもらってな。ん? なんか、やつれてないか?」
そこで、互いにやつれた理由を察して半笑いになる。
笑うしかないだろ。
朝食後、キャンパーの中にあるヒロシの研究室に入り、キャリバーを作っている様を見ている。
女性陣は、ショッピングに出かけた。つやつやして。残っているのは、アイナちゃんと、珍しく俺にひっついてきたブーケとチヨだけだ。
「不可の要求スペックを実現するためにレーザーを三点にして、出力を25%増しにした。有効射程は依然、20mだが、5m地点で三点のレーザーがクロスするように設定してある。三本にした分バッテリーは短くなる。と、いっても一時間撃ち続けられる銃なんて、これしかないからな。欠点にもならん」
ぎーこ、ぎーこ、と3Dプリンターが仕事をしてるのをブーケとチヨが珍しそうに見ている。
「何に使う機械かと思っていましたが、こんな機械があるのですね」
「異世界すごーい!」
「……ふふん。すごいのはぷろへっさー♡」
「「ゴチソウサマー」」
ふーん、アイナちゃんも女子なんだなぁ。いい傾向だとは思うけどな。
「それで、ベルトの方の件だが」
「うん、エラーが出っ放しでな」
あの時以来、何度実験しても転送失敗になるらしい。実際着けてやってみることになった。
「アポート」
「X.OK Y.OK Z.ERROR」
転送されてきた。俺の目の前に。
あの時みたいに装着できない。
「いじったのは、股の部分だけなんだよな?」
「ああ。他はいじってない」
「元に戻して股は自分で直すのは?」
チヨが提案してきたが。うーん。
「流石にヒーローが変身して最初にするのが股の調整って、どうよ」
ヒーローには様式美が大事なのだ。そこは、俺もヒロシも譲れない一線である。
「そもそも、あれ、どうなってんだ?」
「出立前にアイナが訪ねてきたとき、領主様からの餞別だと受け取ったものだ。夜中に敵に襲われた時、一瞬で身支度をするための魔道具だと。本来は、転送する武具や服一個につき一つ点けておくものらしいのだが、それが無理あったのかねぇ?」
「そっちの方法も試してみたらどうだ?」
「……それしかないか」
気は進まないようだ。何か異世界技術に負けたような気がするんだろうな。
とりあえず、改良の方針はそのようにして、ベルトの他にブレスレットとアンクレットを着けることにする。
そうこうしてるうちに昼時となり、帰ってきた嫁たちと一緒にバーベキューだ。
「肉、肉、野菜、肉、野菜」
「肉、肉、ケーキ、肉、ケーキ」
??? 変な喰い方の奴がいる。
「アコ! 野菜喰えっ!」
食後は、池のほとりでシェスタである。いい天気。風がきもちいい。
ちーん
3Dプリンターの仕事が終了したらしい。
ヒロシがラボに戻ると、アイナちゃんも付いていく。仲よくなったな。
一眠りしてると、ヒロシが起こしにきた。
「キャリバーの実射テストしてくれ」
了解して、頭を起こす。15秒で戦闘態勢に移行する。
20mのシューティングで、満足のいく出来なのを確認すると、次は二挺拳銃での格闘戦だ。
これの相手は、アコでも出来ない。ヒロシの薫陶で、最近様になってきたアイナちゃんにお願いする。
相手の腕を取りながら、こめかみに銃を突きつけた方が勝ちというルールだ。
バッ、バッ、バシュ、バッ、バッバッバシュ、バババババババババッ、ババババババシュ、
互いに決め手を欠きながら、ドローとなる。ただ、銃の仕様は、これでOK だ。
ヒロシをねぎらい、アイナちゃんにも礼を言うと、夕食の時間が迫っているとのことだった。
本日の夕食は、昨日と一転、近くのレストランでフルコースだそうだ。
全員で食卓を囲む。思えば人が増えたものだ。アルカンに来た時は三人だったのに。
その前、こっちに転移して直ぐの時は、俺一人だった。いや、楽しい食事時にテンション下げることもないな。
食事をしながらみんなに、これから向かう「自由都市国家群」の話をする。
ここに行ったことがあるのは、俺とスーだけらしい。
「自由都市国家群」は、六つの都市国家<ポリス>の集合体である。
オルキス(蘭)
ウィーティス(豌豆)
ロサ(薔薇)
ユーグランス(くるみ)
マルス(林檎)
オリーワ(オリーブ)
の、各都市は、神聖帝国の中に位置しながら、政治的には独立した国家となっている。
各都市は、それぞれの特産品の名がついており、それぞれ、神聖帝国への自国産品の供与を条件に、通商と、通行の自由と、ある程度の自治権を認めさせている。
中でも、重要な施設が、〝ロサ〟 にある 〝帝立通貨精錬所〟 である。これは、超大型の〝迷宮〟から湧いてくる魔物の核が、均一の重量であることを利用して、その核に刻印を押して、通貨として再利用している。
冒険者は、入場料一人100ドロップを支払い〝迷宮〟へ潜る。そこで討伐された魔物の核は、退出時に即時現金で精算され、敷地内にある別棟で刻印を押され通貨として発行される。という仕組みだ。
現在、ここで作成している通貨は、次の通りである。
1ドロップ 銅貨 討伐対象 4種
10ドロップ 白銅貨 討伐対象 8種
100ドロップ 銀貨 討伐対象 12種
1000ドロップ 大銀貨 討伐対象 7種
10000ドロップ 金貨 討伐対象 キマイラ・グリフィンモドキ・マンティコアモドキ
尚、大金貨に関しては、別途聖王都より許可が降りるごとに金貨を潰して発行される。
また、この迷宮に関しては、迷宮のコアを討伐してはならない規定になっている。
そのための護衛まで就いている位なので、不届き者がいた場合、即時逮捕され、死刑が宣告される。
昨年の〝ウィノク=サバランの変〟は、この施設を、というよりも、通貨発行権を抑える為、無実の〝ロサ〟に対し叛意ありと決めつけ、侵攻しようとしたものであった。
それを、阻止したのが、俺達も、良く知る(笑)〝ドメーヌ クリフォード〟と、言うわけだ。
「と、いうことで、みんなには、〝迷宮〟に潜ってもらいます。そこで、二日だけですが、荒事に対する訓練をしてもらうので、そのつもりでいて下さい」
と、宣言する。
「「「「「エエエッ!」」」」」
と、戦闘未経験組から嵐のようなブーイングがくるが、これは、旅に出る条件として、領主様にも許可してもらっている。彼女らには、最低限の自衛を出来るようになって貰いたいのだ。
翌日
八つ当たりのような夜の営みの結果、それなりにつやつやを取り戻した女性陣の武器を見つくろうため、俺達は、ストックヤードを開き、武器を見てもらった。
結果、
スー ビームキャリバー(旧型)
ブーケ 短剣
アナ ビームキャリバー(旧型)
ジュン 自前の長剣
チヨ 手裏剣(アヤメから供与)
ミナミ 鉄扇
と、決まり、〝ロサ〟に着くまでの間、それぞれの武器を練習してもらうことになった。
講師は、俺、アコ、アヤメ、アイナちゃんの四人で勤める。
こうして俺達は、「自由都市国家群」への旅を再開した。
次回予告
こうして、一週間の間に戦闘未経験者に武器を持たせる訓練をするわけだが、普通この手の物語なら、「サー、イエッサー!」な話を一話挟むものだが、生憎、この話では、それはやらないそうだ。裏の努力は極力見せない。エンタメの基本だな。
しかし、やたら似合いそうな武器を選んだ人もいることだし、これからの活躍に期待だ。
一方、進んだ先にまたしてもあの女の影が。
どうする、どうなる、俺たちの旅路。
次回 「ロサの涙」
ゴーリガンからのお願いだ。
俺やアコの技は、かなり特殊な訓練を受けて出来るようになったものだ。
間違っても、絶対に真似しないように。
ゴーリガンとの約束だぞ。




