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ご当地ヒーローになった俺が異世界で無双してウハウハな件  作者: 拝 印篭
アルカン編 約束手形と七人の花嫁
1/42

1st 「愛の三人組」

OP主題歌

 青の鎧のスーパーヒーロー


 嵐の世界を守る為

 次元を超えてやってきた

 勇気と愛とを伝えよと

 スーパーヒーローいざここに


 敵は幾万ありとても

  俺は後ろを見せないぜ

   悪を滅ぼす風になる

    いつかの平和を夢に見て


 悲しみ 涙は昨日に捨てて

  いざ征け 出陣 おお

   ゴーリガン!


「ガッデム!」


 ルナマリア=ドメーヌ=ルティナス=サムシングロイヤル子爵夫人は、大層おかんむりであった。

 ブルネットのストレートヘアーも凛々しい彼女が、珍しく荒ぶっている。


「大盗賊集団〝ザンゲ公国〟に対して、一斉に反攻せよ!」


 と、近隣の各都市(マカン、ラカン、ウラカンの各姉妹都市)に派遣した「檄文」を持たせた使者が、軒並み手ぶらで帰ってきたのだ。

 曰く、


「これから収穫期に入るため、人手を割く余裕が無い」


 と、挙兵の誘いを断られたのだ。そんなこと、百も承知だ。収穫を横取りされない為、この時期に挙兵しようとしているのに、こいつら危機管理能力に問題があるんじゃないのか? それとも、黙っていれば誰かが解決してくれるから。とでも思ってるのか? いずれにしても、頼りにならないことは確定である。


「プランBに移行する必要があるわね」


「冒険者たちを集めるのでゴザルな」


 アヤメは優秀な間者である。自分のパーティーメンバーが不在の今、一番の手札かも知れない。

 今回も、きっと期待に応えてくれるであろう、頼もしい味方に尋ねてみた。


「候補者選びは進んでいるかしら?」


「まず、サムズアップ ジェラの四人は、いつでも動ける状態でゴザル。それから、シュガーレイ ワークスがこちらに向け出立しているそうでゴザル」


「この辺はいつものメンバーね。あなたのお父さま達は?」


「既に期待の新人候補を選出して交渉中だそうでゴザルよ」


「それと、あの連中とは、接触できたかしら?」


「スパイダーネストでござるな。エージェントを名乗る男と接触して、良い返事をもらっているでゴザル」


 大体の体裁は整いそうである。あとは、報酬の面で色がつくと思わせるだけで良い。


「スー。ギルドを介して今回の報酬は神聖帝国大金貨で支払われるかも、と噂を流してもらいましょう」


 スーと呼ばれた少女は、今年の文官のエースである。昔馴染みでもあるため、自分の傍仕えとして鍛えている最中であるが、最近では、こちらがしてやられる事もある位優秀である。

 そんな彼女は、やわらかふわふわの金髪をぷるぷるさせて、


「そんなことしたら、後で大変なことになりませんか? 支払の時にどうするんです?」


「手形!」


 間髪入れずルティナス子爵夫人は答えた。噂なのだから、守る道理も無いのだと、強弁することも出来る。が、支払いが汚いと噂が立つのも困ったものである。後々の事を考えると頭が痛くなることは避けてほしい。スーは言外にそういっているのだ。


「いざとなれば、実家から取り寄せれば文句はないでしょう。切り札のアレもあることだし」


「ああ、アレですね。もう、最初からそっちを出すことを公表したらどうですか?」


「それでしょぼい戦果しかなかったら嫌じゃない。働かない奴に出す報酬はなるべく少なくしたいわよ」


 完全成果主義のドメーヌ様らしいなと、スーなどは思うのだが、


「ま、それを出す時は、ザンゲ公国が全滅した時の話よ。いくらなんでも一回で全滅させられるとも思わないわ」


 曲がりなりにも吸血鬼の集団である。きっと、ザンゲや四天王くらいは逃げおおせると思う。

 その時の為に追撃部隊も配備しなければならない。金はいくらあっても足りないのだ。


「そうそう、父上からの報告書にこういう連中がいるのでござるが」


 アヤメから手渡された報告書を見て、眉に唾つけた。ばっちい。スーが顔をしかめる。


「Dランク冒険者パーティー、〝プロジェクトG〟 ね。この装備、本当?」


「実際、竜の如く巨大な無生物馬車が街道沿いを移動していると報告があったでゴザル。なんでも、凄い音とスピードで農民たちが腰を抜かして困っているとか」


「これ、実戦で役に立つのかしら?」


「彼の者たちは、神聖帝国を騎士団の包囲網を突破して東上を続けているとか。十分役に立つのでは?」


「神聖帝国を敵に回しているという事は」


「お察しの通り、〝落ちもの様〟三人のパーティーでゴザル」


 そこで、報告書の二枚目に目を通す。そこには、以下の事が記されていた。



 フカ=コオリヤク(センジ=シラオキ)

 ロサの迷宮を史上初の単独制覇。黒一色の全身鎧を装備し、基本無手で闘うスタイル。時により、正体不明の武器を使用することもあり。天歴4312年5月7日、ロサの迷宮の詳細な報告書を提出し、聖人認定を受け、同時に騎士叙勲。準男爵となる。家名はフッカー。これは、詐欺師、ひっかける者、絞め殺す者という異世界の言葉らしい。


 アコ=ナグリ

 この世界に落ちてきた時に教会に囚われた少女。牢内で神託を授かり、聖女認定を受け、身柄を解放された。基本無手で闘うスタイル。同時に神から授かったギフトにより高位の神聖魔法を使用する。現状、死者蘇生の魔法は確認されていないが、四肢損壊の重傷を完全に復活させる魔法は、聖王都で確認済。


 ヒロシ=サナダ(プロフェッサー博士)

 前述、アコ=ナグリの高位神聖魔法により四肢損壊の重傷より生還した男。その後は精力的に活動しており、天歴4312年7月12日アサヒチョウで、協力者と共に魔水の燃料化に成功。安全で移送に向いた燃料を大量に製造出来るようになる。無論、インフラ整備はこれから百年の計が必要ではあるが。

 毒物、劇物の専門家にして、プロジェクトGの発案者。




「三人共方向性の違う人材なのね。プロジェクトGって何かしら?」


「それだけが皆目見当がつかないのでゴザル。或いは単に名称なのかも知れぬでゴザルが」


「面白いわ。彼らにしましょう」


「え? いきなりでゴザルか?」


「こんな面白い連中、有名になる前に抑えないと、いくら請求されるか分からないわ。また、サムズの時みたいに抱え込まないと先々高くつくわよ。そうだわ、スー!」


「はい?」


「あなた、この方と結婚なさいな」


「「ええええっ!」」


「準男爵家と騎士爵家、ちょうどいいじゃないの。なんなら、アヤメも付けてあげるわよ」


「「ええええっ!!」」


 こっちに飛び火させないで欲しいでゴザル~、となにか言い訳を考え、は!


「ドメーヌ様が結婚すれば宜しいでしょう!? なぜ拙者まで?」


「わたくしでは、家格が違い過ぎて無理ですわね。せめて辺境伯位にはなってもらわないと」


 流石にそれがほぼ不可能事である位は理解できる。貴族家を減らしている昨今、準男爵とはいえ、一人増えている事のほうが珍しいのだ。もっとも、こういう新参の輩が成り上がれない様に出来た爵位が、壱代貴族、準男爵である。つまり、飼い殺しの為の地位である。勝手に上級貴族と結婚など出来ないのだ。


「いずれにしても、彼らが戦果を上げられたら、の話よ。今の段階では絵にかいた餅ですわね」


 勿論餅など、ドメーヌは食べたことも無い幻の食材なのだが。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 収穫間際の黄金色の麦穂を横目に見ながら、車は一路東の辺境へと向かっている。


 ボア&ストロークアップして6500ccまで排気量アップしたレンジローバーは後ろに大荷物を抱えながらも快調に飛ばしている。


 俺達は、前に逗留したマカンという町で依頼を受け、アルカンという小都市国家に向かっている。

 この辺りの地名に~カンと付くのは、何でも、昔は遊牧民の大親分がこの地を治めていた名残りらしい。カンは、王の土地とかいう意味で、マカンは、中心の土地と言う意味。アルカンは最辺境の土地という意味らしい。その遊牧民を三百年程前に滅ぼして土地を奪ったのが、神聖帝国パーパスである。今走っているこの道路も当時の神征の為に作られた道路だそうだ。そうそう、関係ないが、マカンの更に前の地名が「エロトピア」らしい。どうでもいい話だがな。


 そして、それこそどうでもいい話なのだが、俺達が通った後に、農民からクレームが付いているそうだ。音が五月蠅いだとか、スピードが危ないだとかが大半らしいが、安全マージンはきっちり確保している。いずれにしても、俺達が通った後に言われても対処法が無い。ここは居直って予定通りにアルカンに到着するしかないな。


「不可。そろそろ交代しようか?」


「ん、わかった」


 後席でなにやらごにょごにょ弄ってたヒロシが運転交代をしてくれるらしい。


「さっきから、何を作ってたんだ?」


「ゴーリガンスーツに仕込むLEDなんだけど、今回のはちょいワルだねぇ。威圧用だけど」


「最近、ネタばっかだな。鼻風船といい、自演BGMといい、こないだのコーヒーミルといい」


「ゴーリガンの役割を間違えてもらっちゃ困るにぃ。闘いだけやればいいなら、国に売り込んで量産すれば簡単だよ。でも、ゴーリガンは子供たちのヒーローなんだからねぃ。それより、仮眠取るかい。なんなら後ろに行くかねぃ?」


 おれは、助手席のアコを見て嘆息した。完全に熟睡してる。


「悪いけどそうさせてもらうよ。こいつもつれていくから」


 そう言って路肩に車を止め、寝ているアコを抱えて後ろのキャンピングトレーラーまで連れていく。

ボディ横面の GOLLY VOGUE と大きく書かれた部分の横に入り口がある。アコを抱えながらやや苦労して中に入る。


 エアストリーム社製の北米モデル、クラシック リミテッド。全長約10m全幅2.6mの巨体は、日本では牽引して走行できない。元のオーナーは輸入してから、そのことに気付いたらしく、固定式の屋台として改造しようとしていた所、転移災害で異世界に持っていかれたらしい。踏んだり蹴ったりであるが、おかげで俺達は異世界生活をしながらも、空調の効いた寝床を手に入れられた。後付けされたポップアップ式の二階を展開すると、全高4m近くになるが、最大で10人程度の大人が生活できる。しかも、キッチンは、既に改造済みで、高出力のコンロや、大型冷蔵庫も装備されているので、飯もうまいものが作れる。しかも、シャワー、トイレ付だ。しかも、カーゴルームだけでも1tトラック並にある。アルミ地むき出しの蒲鉾型の外観は、最高にクールな印象を見るものに与えるし、内装の豪華さも、高級ホテル並で、住む者には最高だぜ。おかげで、こっちの宿屋は使う気にならないがな。


 アコをベッドに寝かし、俺は、シャワーを浴びてから着替えて寝ることにした。何もなければあと五時間ほどで到着するだろう。しかし、大盗賊団相手の戦闘か。新装備のレーザーキャノンとか、どれくらい役に立つのかね? 確かに乾期に入って物は燃えやすいらしいが。


 それに報酬だ。こんな辺境まで出張ってきて、実際支払が滞ったら俺たちに復路の燃料代も無いんだよなぁ。せめて、金貨で十枚位は出ないと立ち往生だ。領主がどんな人かは知らないが、気前の良い金払いのいい人であることを願うばかりだ。

 ふにゃぁ~。眠くなってきた。流石に十二時間連続は堪える。アコと一緒に寝るのは、とても危険な為、二階に昇って寝る。このまま、無事に起きたらアルカンに着いていますように……zzz




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あれから、五時間、特に問題なくアルカンに到着。すぐに、ブリーフィングが始まるそうで、一足先にMXに乗って領主様の館へと入る。


 米国製 ゼロ社の電動オフロードバイク ZERO MX は、現在市販されているオフロード電動バイクの中で、最大のトルクを誇る。このトルクを武器に階段だろうが、クリーク(小川)だろうが、完全走破できるのだ。

 今回来た辺境の都市アルカンは、擂鉢状の土地で、中心街に行くほど下がっている。大型車両のゴーリーヴォーグは周回コースを延々螺旋状に下がっていかねばならない。それも、道幅が街道と違い細い。ならば、階段を直接下って行かれるMXの出番である。ここを真っ直ぐなら中心部の領主の館まで五分とかからない。すぐに到着すると、門番に名乗りを上げる。


「マカンで依頼を受けたプロジェクトGのフカ=コオリヤクだ!」




 話は通っていたようで、すぐにブリーフィング会場へ通される。いるいる、腕っぷしの強そうなお兄さん、お姉さん。そして、黒髪の少女、と言って良いくらいの女の子が、りりしく発言する。


注目(アテンション)! 今回の作戦の指揮をとります、ルティナス子爵夫人 です」


驚いた。領主様が直々に指揮するというのか? それにしても、随分若い。


「今回の作戦の肝は、最大機動力を持ち、最大火力を持つパーティーに、敵陣深くまで先行してもらい、その途上で敵の混乱を作り上げる。その隙をついて後発組が、混乱状態の敵を殲滅する。先発組のパーティーには、危険が伴うが、これが、最も確実な戦術であると確信している。それでは、その、先発組と後発組の振り分けであるが」


 周囲を見渡し、


「先発組は、Dランク プロジェクトGの三人にお願いする。残りのものは、後発組だ」


 周囲がどよめく。


「何か質問事項はあるか?」


 そう問いかけられ、一人の女性が挙手した。


「それは、先発組を使い捨ての捨て駒として使用するということでしょうか?」


「いいや、違う。生還率が一番高くなる方法を考慮した結果である。彼らは、特殊な装備を所有しており、今回の作戦は、正にその装備の活躍の場となるであろうからだ。現に、私は今回の作戦にあたり、諸君らと一本釣りで契約を行ったが、まず一番最初に声をかけたのが彼らだ」


 そこで、俺を見やり、続ける。嘘も方便、黙ってろ、か。


「今回の作戦決行は、彼らが了承して初めて成立したものである。この決定に異議があるものは、今からでもかまわない。契約を取り消して退室していただいて結構だ。それで、異議のある者はいるか?」


 しーん、と室内は静まり返っている。ここまで言われてかえって俺らへの興味がわいたってとこか?


 「宜しい。それでは作戦の詳細について説明する。まずは……」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ブリーフィングが終わってすることが無くなった俺は、城内の修練場で、人型の的を借りてMXに載せていたインパルスで撃ってみることにした。消防団を兼ねていた伝手で、地元消防署で廃棄物として入手したのをヒロシが直して使っている。と、いっても実戦投入は初めてなので、場所を借りられたら撃ってみてくれ、とヒロシから言われていたのだ。騎士団の人がやたらとフレンドリーだったのが、印象的だ。


「こんな辺境だと、退屈しのぎを提供する奴にはいつもこんなもんさ」


 と、フォン ディガーと名乗った騎士は、自ら、チャージ練習用の人型をセットしてくれた。

 いつのまにか、ギャラリーが増えている。騎士連中はおろか、さっきのブリーフィングに来てた女の子たちや、男パーティー(なんと、Sランクとのこと。俺を試すような視線がいやん)、城づとめの女中たちまで集まってきた。


「いつでもいいぞーっ!」


 ディガー氏の合図で撃ってみる。全身がびしょびしょになる位なら実戦投入できるが、果たして?


『バシュッ!』


 思ってた以上の反動があった。ちと強いかも、と思ったら、人型は中央部分でぽっきんと折れた。直撃部分は粉々になっている。水は、後方二十mの所まで放射状に飛び散っている。ギャラリーも、ここまでは想定してなかったようで、口あんぐりだ。

 とりあえず、的の後片付を始めたディガー氏の所まで行って謝罪する。


「すまん、まさかこんな壊れ方するとは」


「ああ、洒落で 俺に向かって撃て! とか、やらなくて良かった」


 そんな事を言いながら片付けていると、後方から、なんか美人がやってきた。


「素晴らしい威力だな。成程、只のDランクでは無いと思っていたが」


 俺は、ポカンと一瞬していたが、ああ、さっきの領主に食って掛かった人か? と思い出した。


「さっき、ブリーフィングで俺達の心配してくれた人だな。俺は、フカ=コオリヤク。プロジェクトGのリーダーをしている」


 と、握手を求めてみた。


「ダニエラ=シュガーレイ。シュガーレイ ワークスのリーダーだ。ところで」


 と、そこで一旦区切り、後ろで「リーダー狡い」とか「抜駆け」とか言ってる仲間を睨み付けると、本題を切り出した。


「確かに良い武器で、今回の作戦にも向いてるとは思うが、それだけで大軍の中を突破できるものでもあるまい。君達の自信の根拠を教えてくれたら、私達も安心できるのだがね」


 ああ、これだけ見ればこれが俺たちの切り札だと思うよな。


「別に隠してるわけでもないがね、ああ、丁度迎えがきた」


 と、言って後ろを指さした。すると、


「にゃにゃにゃんだありはぁぁぁぁっ!?」


 噛んだ。かわいい♡ 他の人たちも目が点だ。

 ようやく、ヒロシたちが追いついたようだ。道幅が狭いせいでひときわ大きく見えるんだよな。

 それが、馬並の速さで迫ってくる。なじみのない人が見れば、怪物である。その圧迫感たるや。こわー。


「あれが、俺らの移動基地『ゴーリーヴォーグ』だ。あれで奴らの砦をぶち破る!」


 しーん。

 言葉もない。とはこういうことか……。


 「成程、よく判った」


 それだけいうと、絶句してしまった。


「おおい、インパルスの試射はどうだったねぃ?」


「いま、お前のせいで全部吹っ飛んだよ!」


「さて、お世話になりました。俺たちはこれで。また、作戦のときに。アディオス アミーゴ」


 と、言いながらUターンしたゴーリーヴォーグに乗って遁走した。何とか、的の代金は請求されなかったな。


 そして、翌日の夕刻、作戦は実行された。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 露払いは、アコとヒロシに任せた」


 言われた二人はそれぞれ外へ、ヒロシは、椅子ごと屋根へ移動する。アコは、窓からするっと逆上がりのように出ていくと、俺は、バッテリー残量のチェックをする。


 広角に設定したレーザー砲を群がる賊にぶっ放す。目に入った者は「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ」と蹲る。恐らく失明だろう。服にあたった者は、発火して、転げまわる。


「な、なんだ! おめぇら?」


 と、誰何する男。


「アコ! そいつヒルツだ!」


 と、叫ぶヒロシ。

 アコは、車上からジャンプし、一気にヒルツの顔を太腿で挟み込むと、後方一回転し、ヒルツの顔面を地面に叩きつける。ルチャ リブレの高等テクニック、ウルトラ ウラカン ラナだ。そのままマウントを取ったアコは、にこりと笑みながら、マウントパンチを放つ。

 どぐしゃっ! と、一撃でヒルツは頭蓋骨陥没で絶命した。あっけに取られる手下たちに向かって追撃したのは、白衣の男、ヒロシだった。

 液体入りの試験管を六本、敵の密集地点に投げつけると後ろを向いて破片が目に入らないようにする。すかさずアコが防御魔法を唱えると、六個の爆発が連鎖して起こる。爆炎が晴れるとそこには、動けなくなった手下たち約五十人と、無傷のヒロシ、そしてアコだけだった。


 しかし、後方から新手が迫る。今度は人間ではない。トロルだ。ヒロシは試しに手持ちの爆薬を投げてみる。しかし、爆炎が晴れると巨体の鬼どもは、ほぼ無傷である。


「仕方ないねぇ。出番だよ」


「応! 任せろヒロシ!」

 

「アポート」と、叫ぶと虚無の空間から槍のようなものを出現させる。引き寄せの魔法だ。それを右手に持つと、ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃん! と回転する。あれは、ドリル、ドリルだ! 男の夢が詰まった武器、それが〝ドリル〟だ! 全長二メートル、直径が四、五十センチもあろうかというドリルを使い、迫りくるトロルに向かって叫ぶ!


「ドッヅランサー!」


 そしてトロルを、穿つ! 、穿つ! 、穿つ! 、穿つ! 、穿つ! 、穿つ!

 一撃で撃破されたトロルを見て、後ろから来た大型のトロル、ボストロルが目を剥き威嚇する。


「ミノモンタ! ガオガグレイ」(何もんだ! 名を名乗れぃ)


「天衣無縫!」かきぃーん「攻略不可!」しゃきーん「ご当地ヒーロー ゴーリガン!」


 すっげーっ! 言葉通じたよ! 漢二人の間にある種の尊敬が芽生えた。


「うん、あれ言わないと電動サポートが効かない設定にしてあるんだけどねぇ」


 とは、白衣の男ヒロシの談。


 閑話休題


 がっぷり四つにファンダメンタルポジションで組んだ二体の化け物は、力で二回りは小さなゴーリガンが圧倒した。

 その生涯で一度も力負けしたことの無いはずのボストロルは、思った。


 (今日は死ぬにはいい日だ)


 そして、


「ドッヅ バスター!」


 ボストロルの巨体をなんと、持ち上げ逆さまに吊り上げるとそのまま地面に叩きつける! 巨体の鬼は、いや、巨体であるからこそ、一撃の元、葬られた。

 漢らしい、晴れやかな死に顔だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 一息ついた俺たち一行は、後部トレーラーからバイクを運びだす。

 米国製 ゼロ社のオフロードバイク ZERO MXである。

  日本の城のように通路が狭いということもなく、城内でひと暴れするなら、丁度いいアイテムである。


「あとは、これだな」


 と言ってヒロシが渡した銀色の鉄筒。消防で使用している例の「インパルス」なる消火用アイテムである。強力な水圧で水の塊を一気に飛ばして消火するため、人に直接当てると骨折くらいはするという、日本では一般への販売は禁止されている代物だ。


「中にはアコに頼んで聖水を詰めてもらった。アンデット相手だと無敵のアイテムだ」


「アコの聖水……おしっこか?」


 と、茶化すと、討伐部位の剥ぎ取りをしていたアコがトロルの首を投げつけてくる。


「顔が怖いからやめて!」


 はたして、怖いのは、トロルか、アコか?

 ともあれ、予備の聖水タンクをバイクに取り付けると、再度ヘルメットを被り、


「ちょっと行ってくる」


 と、俺は、城内へと爆走(はし)って行った。


 道中、所々にレッサーバンパイアが居て邪魔だったが、俺のライディングに翻弄され、タイヤの跡をつけて跳ね飛ばされた後、聖水を被って昇天する。

 小学校の頃に取った杵柄で、今もオフローダーの扱いはお手の物だ。階段だろうが、溝だろうが、お構いなしに飛び越えられる。


 やがて、大広間のような場所に出ると、


「「「「ようこそ、愚かなる侵入者よ」」」」


 と、四人の貴族風の姿をした男達と、その僕のレッサーバンパイアが俺を迎えた。


「「「「我ら、四天王の前に姿を現すとは、運のない小僧よの」」」」


 一々ユニゾンしないとしゃべれないんだろうか?


「「「「せめて、貴様の名くらい聞いてやるとしよう」」」」


「これは、ご丁寧に。では」


 一度会話を切って見栄を切る。


「天衣無縫!」ジャキーン「攻略不可!」ジャキーン 「ご当地ヒーロー! ゴーリガン!」ドドーン!


「「「「ふっふっふ、我ら四つ子の四天王、今までのレッサー共とは些か違うぞ」」」」


 そう,言いながら、下手な歌を歌いだした


「ほげぇ~♪」「ほげぇ~♪」「ほげぇ~♪」「ほげぇ~♪」


 うわ! 下手! と、いうか、キモイ。

 いや、まて、なんだ、これ、本当に、吐き気が、する。


「ふっふっふ、貴様の三半規管を狂わせてやったぞ!」

「ふっふっふ、我らの四連呪歌、とくと味わえ!」

「ふっふっふ、最早逃げ道はないぞ!」

「ふっふっふ、兄者共、我の台詞がないのである!」


 なんだろう、こいつらに負けるとか、死んでも嫌だ。ん、音? そうだ!

 俺は、バイクのクラクションを鳴らす。

<パラリラパラリラパラリラパラリラ♪>

<チャラチャチャラチャララ~♪> 

<ぱらぱぱっぱっぱっぱ~♪>


 昔、暴走族が使用していたというメロディホーンという奴だ。最大120dbの騒音が、奴ら如きのメロディ吹き飛ばしてくれる。(※勿論違法品です)


「そ、そパラリラんパラリラにゃパラリラー」

「ほ、ほチャララげラぇラ~」

「ほパラパげラッパえ~ッパー」

「やパラリラかパラリラまパラリラしパラリラい!」


 最早、何言ってるか分からん。奴ら自身大混乱だ。

 あとは一匹ずつ確実に仕留める。

 バシュン! まったく


「リフレェェェッシュ!」パラリラパラリラパラリラパラリラ♪


 バシュン! 簡単な


「クレンジングゥゥゥゥッ!」パパパパパラッパッパ♪


 バシュン! 安っぽい


「ラァブリィィィィ!」チャラチャチャラチャララ~♪


 バシュン! 最期だな。


「ラァブラブリィィィィ!」パラリラパラリラパラリラパラリラ♪


 こうして、戦闘開始からニ分少々で戦闘は終わった。これで、大金貨四枚ゲット!

 討伐部位の灰に聖水をかけて、よし、OK。

 更に奥へと進む。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 謁見の間、であろうか。玉座に座ったその男からは、生気を全く感じなかった。

しかし、その威圧感は並ではない。


「くくくっ、よくぞここまで辿り着いた。だがそれも、これまでだ」


 玉座の男が呵呵大笑する。


「わはははははは、見よ! 見よ! この、公王ザンゲ様の、妙技をぉぉぉ」


 部屋中に飾ってあった剣が一斉に浮かび上がり、俺の方へ向けられる。

 成程、下っ端とは少々違うようだ。

 それにしても、中々良い武器をお持ちじゃないか。

 俺はバイザーの下でうひひと笑う。これは、全部頂かないとなぁ。


「死ねぇぇぇっ!」


 一斉に向かってくる剣を躱しつつ聖水をかけてやる。いや、効果あれば、もうけものだったが、流石に超能力に効果なしか。ならば、


「アポート」


 俺は投網を引き寄せ、ザンゲごと文字通り一網打尽にしようと試みた。


「! なんとぉぉぉっ」


 霧と化して投網から逃れるザンゲ。武器は、全て網の中。


「おのれ! ならば肉弾戦だぁぁ!」


 潔い奴め。カモなんだが。突進してきたザンゲをカニばさみで転倒させる。

 ! 違和感があった。さすが、首領という所か。触れただけで生気を吸い取ってくる。慌てて飛び起き、距離を取る。


「ふはははは、触れらば魂、吸い尽くしてくれようぞ!」


 勝ち誇ったドヤ顔がウザい。魂を吸い尽くす、か。

 ならば、こっちは、魂に刻み付けてやる。恐怖を。

 俺は、インパルスを真上に向け撃つ。バシュンと聖水を体で受け止め全身を濡らす。

 全身を聖水で浸したまま、肉弾戦を受けて立つ。

 白堡流のパンチは、間合いが短い。その分、軌道を長く保つことで、威力に嵩上げされる。総合格闘技の打撃に近い。そして、他の格闘術に、ここまで短い間合いの者はいない。俺の間合いなら、相手はむしろ攻撃が不可となる。

 ドガッ、バコッ、バシッ、と俺の打撃に青息吐息となるザンゲ。拳部分は、レザーのグローブになっているため、聖水を含みやすい、というのも影響している。


「ぐぇっ、ぎゃっ、ぶみゃっ! ちょ、ちょっとまってぇぇぐぇっ!」


 転倒したザンゲの胸に膝を押し付け動けなくする。ニー オン ブレスの体制だ。


「……何か、言い残すことは?」


「い、嫌だぁぁ! 死にたくないぃっ!」


 ふふんと笑むと、ゴーグル内の目が光る。口元もにやりと笑ったかのような演出的に開く。ゴーリガン26の秘密のうちの一つ

「アルカイックスマイル ライトアップ」だ。

 生まれて初めて見るメタルヒーローの勇姿は、これから殺られる者にとっては恐怖だろう。


「だが、断る!」


「ひぇぇぇぇぇっ!」 


 その後は、もう、一方的である。ザンゲは、恐怖という恐怖に支配されたまま殴られ続け、


「もゔ、成仏ざぜでぐだぢぃ……」


 と言ってくるまで二分とかからなかった。最早、自分が吸血鬼であることも、霧化できることなどどうでもよく、忘れさっている。

「はい、良くいえました」 

 俺は、アポートしたインパルスを構えると、口に咥えさせ引き金をひく。

 バシュン!と音がするとともに、辺り一面肉片ならぬ、聖水が飛び散る。


「ステェェェェジ アウトォォォォォッ!!」


 とも、言えずにザンゲは昇天した。

 ちぇっ、片手落ちな奴め。


 そして、謁見の間は、清浄な空気に支配された。





 虚しい。

 結論からいうと、完勝である。

 結局のところ、数に怯えて何もしなかった前領主が全部悪いような気がする。

 そこで楽を覚えてしまった結果、バンパイア連中を含めて、盗賊団にあるまじきハングリー精神の欠落が、こいつらの運命を決めたな。

 あんだけの軍勢が、訓練もせずに燻って使い物にならなくなって……

 もし、俺が率いていれば……いや、止そう。益体も無い。


 あの後、アコとヒロシの二人も合流してきて、今は戦利品を剥いでいる。あいつらは、逞しい。

 結局、俺たちだけで高額賞金を独占してしまった。引け目を感じる必要も無いのだろうが、他の冒険者が、後から因縁吹っかけてこなければいいが。


「ああ、それなら、大丈夫じゃないかな? 盗賊団とか、結構メジャーどころが揃ってたらしいし、うちらが撥ねて放置してた連中捕縛するだけで万単位の収入にはなるみたいよ」


「うちらは、鉄砲玉もやった訳だし危険手当だねぇ。あとは、無人になったこの城の探索もするだろうし」


 うん、逞しい。漢だわ。


「それに、ここに落ちてる剣や槍だけでも一財産だよ。なんなら、四天王の分は寄付してもいいくらい」

 

 ザンゲの遺して逝った剣をいい笑顔で拾いながら言う。うん、漢くさい。それにしても、本当に聖職者か? アコ。


 結局、今回の収支は、こんな感じになった。


 賞金首分が

 850,000ドロップ

 剣など、戦利品が

 1,200,000ドロップ

 計 

 2,050,000 ドロップ

 必要経費

 魔水[燃料]、

 聖水などに使用した 

 -90,000 ドロップ

 計

 1,960,000 ドロップ


 現状、収支は大幅に黒字ではあるが、目標の三百万には達しなかったか。あとは、大金貨次第だな。


「結構、他の冒険者の分け前も多かったんだな」


「みんなで分け合おうよ。愛だよ。あい、あい」


「おさ~るさんかよ!」


 うん。心に愛がなけりゃ、スーパーヒーローじゃないよなぁ。

 それにしてもアコめ。みんなで分け合おう、か。金額のことばかり気にしてる場合じゃねえよ。 


 そう思いながら凱旋した翌日、真のボスキャラは、その正体を現した。

 次回予告

 

 意気揚々と凱旋を果たした俺たちに、

 いよいよ、その正体を露わにした大ボスが。

 俺たちに魔の手が伸びてくる。

 どうする、どうなる、俺たちの報酬。


 次回 「三匹が斬る」





 EDテーマ曲

 天衣無縫だ!ゴーリガン!


 ババババルンバルンバルン

 唸るエンジンが

 奴の来たのを知らせてくれた

 生まれついてのタフな奴

 青のヒーローだゴゴゴGo! 

 ゴーリガン


 みんなの命は世界の未来

 それを守るは俺の、俺の願い


 未来科学と古代の武芸が

 ひとつになって無敵の力になる


 争いに溺れた与太者たちよ

 恐れとともに消えて去れ!

 闇に挑みし青き仇花 

 それが勇者だゴゴ ゴゴ Go!

 ゴーリガン


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