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~秋~『はるぶすと』物語  作者: 縁ゆうこ
第2章 『はるぶすと』は本日よりしばらくお休みです。
13/28

2日目 京都その3


 食後の腹ごなし、とばかり厨房の見学をさせてもらう事にしたが、はっきり言って私は興味ないなーと思っていた。ごめんね夏樹。でも、料理に関しては全然ドシロウトの私がつまらなさそうにしていたら、鞍馬くんや夏樹だって気になるわよね。さて、どうしようかと思っていると、

「由利香はきっと料理なんかしないから、厨房見たってしょうがないよね」

 そんな失礼な言い方で伊織が言ったが、まあだいたい本当のことだから許す。

「よくわかるわね。そうなのよねーどうしよう」

「じゃあさ、女の子にぴったりの時間つぶし考えてあるんだ」

「なんか怖い…」

「そんなに警戒しなくても大丈夫。うちの従業員がね、この前ホテルのエステに行って、ものすごーくキレイになって帰って来たんだよね~。お・す・す・め」

 え、ホテルエステ!いくらオヤジみたいな女子とはいえ、わたしも女であることに変わりない。エステとかは行ってみたい!  

「行く!」

「早いね。じゃあ決まり。でも、僕はシュウたちを案内しなきゃならないから、送迎はうちの九条じいと運転手におまかせするね。いい?」

「いいわよ」


 そういう訳で、厨房方面へ行く鞍馬くんたちと別れて、エステで綺麗になったという仲居さんに色々話を聞きながら玄関先へ向かう。もともと顔立ちの良い人なんだけど、本当にお肌がツヤツヤしている。何度か通っているという事だったけど、初めてでもしばらく効果は持続するらしい、嬉しい限りよね。そして、ここへ来るときにタクシーを降りたあたりまで案内してもらって、送迎してくれる車を待っていた私は、現れた黒塗りのリムジンにあんぐりと口をあけていた。

「お待たせしました」

 運転手さんが降りてきて、ドアを開けてくれる。中に乗っていたのは和服姿がものすごく似合うおじいさま、もとい、おじさま。この人が伊織が言っていた〈九条じい〉かな。

「どうぞ」

 と言って手を差し伸べてくれる。

 うわ、中はテレビでしか見たようなことがないすごい車だ。座席が向かい合うようになっていて、椅子もソファーのよう。しばらくそわそわしていると、ちょっと心配そうに九条じいが聞いてくれた。

「どうされましたか」

「いえ!リムジンなんて乗るの初めてなもので。緊張しちゃって」

「まあ、お気を楽に」

「はい。あの、えーっと九条じい?って呼んで良いのかしら?」

「ははは。伊織さまがじいと呼ばれたんですな。私は、ながらく紫水院家の使用人をしております九条と申します」

「あ…ごめんなさい」


 はじめにちゃんと確認するべきだったわ。申し訳なさそうにする私の様子を見て、九条さんは緊張を解きほぐすべく京都の裏話などをしてくれていたのだが、私は突然思い出したことがあったのでそれを聞いてみた。

「あ!そう言えばさっきここへ来たとき、鞍馬くんが伊織…さんのことを、〈しすい とうり〉って呼んでいたんですけど。あれはどういう、」

「ああ、それは、伊織さまの本名です。紫水院 伊織というのは料亭を代々受け継ぐための名前で、本名はおっしゃられたように、紫水 冬里と言います。冬里はふゆにさとですね」

「ああ、そうだったんですか」

「でも、その名前を知っていると言うことは、その、なんとおっしゃいました?」

「鞍馬くんですか?」

「ええ、その方は伊織さまと相当親しいお方ですね。伊織さまは、めったなことではそのお名前で呼ぶことを許しませんから」

 私は料亭で部屋に案内してくれたときにとった伊織の行動を思い出していた。

「じゃあ鞍馬くんとは相当古いつきあいなのね、でも、九条さんは鞍馬くんの事はご存じないようですけど…」

「はい、私が紫水院の家へ来てからは一度もお見えになったことはありませんな。でも、おかしいですね?私がお仕えしているのはもう五十年近くになりますが」


 ええっ、それは変よね。じゃあ日本で知り合ったのじゃないのかしら、でも、日本に住んでいる時の友人だって言ってたわ。九条さんは「はて、私が忘れておるだけですかな?」

と、一生懸命考えてくれている。でも残念なことに、九条さんが思い出せないまま、車はどうやらホテルへ着いてしまったようだ。

「到着いたしました」

 ドアマンがリムジンのドアを開けてくれると、九条さんはうやうやしく手を取って降ろしてくれる。なんだか恥ずかしいわね。

 ロビーの椅子で待っているように言われ、カウンターへ行ってしまった九条さんを待つことしばし。エステ担当の方を伴って九条さんがやってきたので、その人にバトンタッチされてエステルームへ向かう。終わる頃にまたお迎えに来ますと言い残して、九条さんは帰っていった。

 ホテルのエステは…

 もう聞かないで~天国にいるようなひとときを過ごしたのは言うまでもなかった。


 自分で言うのもなんだけど、お肌がよみがえったような気がする。にやつく顔を抑えきれずにお迎えの車に乗ると、

「あー由利香、やっぱりお肌プルプル~」

と、いきなり両側の頬をキューっと持たれる。伊織!鞍馬くんと夏樹も!

「ほんとだ、由利香さんお顔の血色がバリバリ良いですわよ~。オホホー」

「いかがでしたか?少しは癒しになりましたか」

 三者三様の歓迎と感想にびっくりするやら、がっくりするやら。

「なんであんたたちがいるのよ。帰りも九条さんが来るんじゃなかったの?」

「九条じいに頼むつもりだったんだけど、まさか二時間もかかるとは思わなかったんだもん」

「そうっすよー、ホントに女の人ってのはなんでも時間がかるんすね。待ちくたびれて、伊織が、迎えに行こうって。だから、ねー」

「ねー」

 伊織と夏樹は顔を傾ける。なにが、ねー、よ。あ、でもこれって鞍馬くんがいつもため息ついてるシチュエーションにそっくり。そうかあ、こんな感じなのかー。ものすごい脱力感だわね、ちょっと反省しなくちゃ。それを察したのか、鞍馬くんがクスクス笑って、

「由利香さんもやっと私の苦労がわかりましたか。それでは行きましょうか、あとの予定もありますし」

 そうして、ただでさえ手を焼く夏樹と私に伊織が加わって、午後の行程がハチャメチャで、とっても楽しいものになったのは言うまでもない…。鞍馬くんのため息がふえたことも。





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