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勇者や魔王のアレやコレ

人気の魔王と涙目勇者

作者: 真川塁

深夜の変なテンションで書いたコメディ。書きあげた時は会心の出来だと思ったのだけれど、読み返してみたらそれほどじゃなかった。

けど、割と好きな作品。


 とうとうここまで来た。


 一人の少年が「ドラゴンアドベンチャー(略してドラアド)」というゲームの世界に閉じ込められて早半年。


 少年は多くの民を救い「勇者」と呼ばれるまでに成長した。

 幾多ものの困難を乗り越えて遂に辿り着いた最後の決戦場所。

 

 魔王の居城である「魔窟宮」――その最奥。

 

 扉の外では共に闘ってきた仲間たちが魔王の手下達をひきつけてくれている。

 勇者はこれまで数多くの死地を共に切り開いてきた相棒エクスカリバーを抜き、その切っ先を魔王に向けて、自分自身を奮いたたせるべく声をあげる。


「さぁ、これが最後の勝負だ!」


 勇者の怒号にも似た声にも魔王はほとんど反応を見せず、玉座に堂々と座っていた。

 まるで自分の言葉など気にも留めていない、という態度に腹がたった勇者がさらに言葉を続けようと一歩前に出たその瞬間、魔王がおもむろに右手を動かし、口を開く。

 魔法起動の呪文でも唱えるのかと勇者は身構えたが、そうではなかった。


「あの……ちょっとイイ?」


 魔王がしたのは控えめな挙手で、魔王の口から出てきた言葉も控えめだった。


「……なんだ?」


 つい勇者も聞き返す。


「……えっと、盛り上がってるところ悪いんだけど、今日これから番組収録が入ってるから、闘いはまた今度でイイかな?」


 その言葉に勇者は「は?」と、困惑の表情を浮かべる。


「……番組?」


「うん、レギュラーで出ている子供向け情報番組なんだけど収録が今日なんだ」


「情報番組……」


「いや、まさか今日来るとは思わなくてさ。これだから打ち合わせなしって怖いよねー」


「…………」


「本当は、コッチの闘いはそっくりさんに任せるはずだったんだけど、具合悪くなっちゃったみたいで……」


 そこでついに勇者がキレた。


「お前、ふざけんなよ!なに代役に人類の命運とか世界の行く先を決めるような大事な一戦を任せようとしてんだよっ!」


 しかし、魔王は飄々と言葉を返す。


「しょうがないじゃん、こう見えても僕は売れっ子なんだよ? CM出演だって決まったし」


「お前のどこに売れる要素があるんだよ! そしてその一人称はやめろ!」


 僕とか、魔王らしさが1ミクロンもねぇ! と妙なキレ方をする勇者。どうやら勇者の方もだいぶこの状況に参ってしまっているようだ。

 魔王は「ひどいなぁ」と口をとがらせる。

 その口調には魔王らしさが全くといっていいほどないが、その見た目は「魔王」そのもの。

 大きく主張する二本の角と四対の黒い翼。その瞳は肉食獣のように怪しげな光を放っていて、その巨躯を更に威圧感のあるものにさせている。そんなのが「僕」と自称するのは傍から見ていても違和感を感じる。


 ぶっちゃけ気持ち悪い。


「というか、CMの収録ってなんだよ!?」 


 つっこむべきはもっと他にもあると思うが、調子を狂わされている勇者はそれに気づかない。


「なにって、今度出る『ドラアド』の新作ゲームのプロモーション用だよ。発売はまだ先の話だけど、もう準備しなくちゃいけない時期になってきたからね」


「その発言は現時点で『ドラアド』を勇者としてプレイさせられている俺には絶対に教えちゃいけないことだろっ!?」


 確かに、ここで魔王を倒してもまだ勇者の旅は終わらないと言っているようなものだ。

 いままでの俺の苦労はなんだったんだ……と、膝をつく勇者。

 しかし、そんなのお構いなしに魔王は自慢を続ける。


「さっきも言ったけど僕は人気あるんだよ。今ではPSで3本、DSで5本レギュラーがあるし」


「ナニ、BS放送・CS放送みたいに言っちゃってんの!?」


「最近では、この運動神経の良さを買われてFCドラアドにも在籍してるし」


「サッカーチームみたいに言ってるけど、ソレ絶対にファミコンの略称の方だよね!?」 つーかファミコンとか古すぎだろっ!? と、ツッコミ過ぎてはぁはぁ、と肩で息をする勇者。


「まぁ、そういう訳だから今回の戦いはこのへんで終わりにしない?」


「終わりにするわけないだろがっ!」


 魔王の提案を一蹴する勇者。

 当たり前だった。


「ええ~」


「ええ~、じゃねぇよ! ……世界の行く末をかけたラストバトルより情報番組の収録を優先するお前が意味わかんねぇよ」


「それは、これが実はラストバトルじゃなくて来年にも『ドラアド』の新作が――」「聞こえなーい。新作とかラストじゃないとかなーんにも聞こえなーい」


 両耳をふさぐ勇者にはもう貫禄とか勇者らしさとか一切なかった。

 そんな勇者の様子を見て、魔王はハァ、とため息をつき、構えをとる。


「じゃあ、仕方ないか。さっさと始めよ」


「その始め方も釈然としないが……、まぁいい。決着をつけよう」


 そうして弛緩していた空気が張り詰めたものに変わろうかという瞬間にまたしても魔王が制止する。


「と、その前に」


「なんだ、まだなにかあるのか?」


 勇者の問いには答えず、魔王は虚空を見上げてただ一言、


「決着はCMの後で☆」


「これもテレビ中継かよ!?」


 勇者のツッコミは全世界に届いたとかそうじゃないとか。


久々の投稿なので緊張しました。

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