なんとも器が小さい男ね
結婚するまで、互いに干渉せず自由でいましょうと言ったのは、君なのに、なぜ、僕を呼び出すんだ、ですか。
そうせざるを得ないからに決まっているでしょう。心当たりがないんですか?
はあ、その困惑した顔からして、心当たりないようね。
では、言うけど、結婚するまで、互いに干渉せず自由でいましょうと私が言ったのが気に入らないなら、その場ですぐ文句を言うか、後でも私に直接言えばいいのに、わざわざ親友の侯爵令息と王太子殿下の婚約者である公爵令嬢に愚痴ったのでしょう。
お二人がわざわざ私の教室まで来て、文句を言いに来たんですよ。
そんな事は初めて聞いた?
あなたが、あの二人にそうさせたのではないのは分かりました。
けれど、私に直接言わず、親友や姉に愚痴るとは、なんとも器が小さい男ね。
あら、器が小さい男だと言われるのは不快ですか?
でも、事実でしょう?
婚約者で将来妻になる相手に文句一つ言えず、親友と姉に愚痴るしかできないのですもの。
そもそも君が互いに干渉せず自由でいましょうと言ったのが悪い? 婚約者になったのだから、互いに歩み寄って仲良くすべきなのに?
あらあら、あなたがそれを言うの?
本当に、自分の都合の悪い事は、きれいさっぱり忘れられる便利な脳を持っているのね。
婚約が成立した当初は、互いの家を行き来して交流を深めようと、周囲に侍従や侍女に囲まれてですが、二人でお茶会をしましたが、あなたは全く私に話しかけず、つまらなそうで、そんなあなたを相手にするのに私も疲れたんです。
でも、この婚約は政略。
あなたの生家の公爵家は何代にもわたり、王妃を輩出してきた。これ以上、公爵家が権力を持たないように、我が王国のパワーバランスを保つために、可もなく不可もない伯爵家の跡取り娘である私と王太子殿下の婚約者の弟であるあなたを婚約させた。
互いに気に入らなくても、この婚約は破談にはできませんもの。
だから、結婚まで互いに干渉せず自由でいるのが、お互いのためにいいと思って提案したんです。
その時は、いつものように黙っていたから、てっきり了承したのだと思っていましたわ。
はっ! それがまさか、自分の親友と姉に愚痴って文句言わせるとはね。
文句など言わせてない? あの二人がそうするとは、思わなかった?
言わせる言わせないは、どうでもいい。
重要なのは、直接私に言わなかった事よ。
あなたの親友と姉は、こう言っていたわよ。
私が努力して、あなたと仲良くすべきだとね。
どうして、私だけが努力しなければいけないのかしら?
政略だろうと夫婦になるのよ。
私だけでなく、あなたもまた私とちゃんと向き合うべきだったでしょう? 言ってはなんだけど、あなたが我が家に婿入りするんだから、尚更そうすべきだったでしょう?
けれど、あなたは一度として、私と向き合わなかった。
ああ、理由は分かっていますわ。
あなたは、本当は私ではなく美しい私の妹と結婚したかった。そのために、私の両親に、こう言ったそうですね。
婚約者を姉から妹に替えてほしい。同じ伯爵家の娘ならいいだろうと。
まあ確かに、妹は美しいだけでなく能力も私よりずっと秀でている。人格的にも申し分ない。
普通なら、外見も能力も平々凡々な私より伯爵家当主に相応しいですわね。
でも、たった一つだけ、妹には欠点があった。そのせいで、貴族家の当主になれない。
家族になるし、何より、婚約者を姉から妹に替えろなどと、あなたが言い出したので、両親も教えるしかなかったのでしょう。
妹は子供ができない体だと。
貴族は何よりも血統を重んじる。どれだけ美しくても優秀でも子を生せないなら貴族家の当主にはなれない。
それでも、あなたは食い下がった。私をどこかに嫁がせて、私が生んだ子供の一人を世継ぎにすればいいだろうと。
はあ、馬鹿ですか?
王国のパワーバランスを保つための結婚ですよ。我が伯爵家の後継者は、あなたの公爵家と私の伯爵家の血を引く子供でないと。私が他家に嫁いで子を作っても意味ないでしょう。
当然、私の両親も、あなたの両親の公爵夫妻も、あなたの提案を一蹴し、そのまま私との婚約は継続された。
あなたは、それが不満で、私にあんな態度だったのでしょう?
婚約者に八つ当たりするとは、なんとも器が小さい男ね。
もういいでしょう?
結婚するまで、互いに干渉せず自由でいるのがいいと、その足りない頭でも理解できたかしら?
悪かった? これからは、ちゃんと君に向き合う?
はあ、今更別にいいですよ。
あなたが私を気に入らないように、私も、あなたに関心がないので。
次期伯爵となる私は平凡でも、幸い妹と代官は優秀ですもの。
あなたに望んでいるのは、私に子を産ませる事だけ。
それさえ済めば、後は、どうぞご自由に。
読んでくださり、ありがとうございました!




