落ちた方の負け
短編です
彼女が明日帰国する。
高校卒業と同時に単身フランスへ行ってしまった彼女が、世界的ピアニストの称号を携えて、明日、帰ってくると連絡を受けた。俺は心が弾む感覚を久しぶりに味わった。
高校生の時、お互い明言はしなかったけど、俺たちは惹かれあっていたんだと思う。だから彼女が出国するとき、一思いに告白をと思ったんだけど、友人の多かった彼女を見送りに来た、大勢の前での告白は、小心者の俺には無理だった。
それから10年、俺はずっと彼女のことを思い続けた。電話はできないけど、国際郵便で手紙を送り続けた。彼女も手紙を返してくれていた。ずっと、心は繋がっていたんだ。
彼女からの帰国の連絡を受けた俺は、その足で指輪を買いに行った。この日をどれだけ待っていたことか。もう彼女の取り巻きが居ようが居まいが関係ない。明日、帰国した彼女に突撃でプロポーズする。俺はそう心に誓っていた。
翌日、空港に着くと、規制線が貼られており、彼女は屈強そうなSPに守られながら帰国した。TVや新聞などの記者がたくフラッシュで彼女が煌々と照らされる。建物内なのにサングラスをしたまま微笑む彼女は、あまりに遠くの人の様で、俺の決意はガラガラと崩れ去っていった。
俺はそのまま、指輪と共に、行きつけの居酒屋に管を巻きに行った。
「うぅ・・・うぅぅぅ・・・」
「諦めろよ。あの子とお前じゃ、住む世界が違い過ぎるんだよ」
急な招集にも関わらず、来てくれた友人が、俺の手から酒を奪った。
「なんだよぉ・・・10年だぞ?10年ずっと彼女とは連絡を取り合ってたし・・・ずっと同じ気持ちでいてくれるものだと思ってたんだよ・・・」
一瞬しか顔を合わせてくれなかった彼女にもだけど、惨めな自分に泣けてくる。指輪まで買ったのに・・・。まぁ、サイズだってよくわからずに見切り発車で買ってしまったんだ。こんなもん渡されたって、彼女も嫌だよな・・・。
そう思うと余計に泣けてくる。
「ううぅぅぅぅ・・・・」
「もう飲むなよ・・・誰がお前送っていくと思ってんだよ・・・」
「良いじゃんかよぉ・・・飲ませてくれよぉ・・・」
面倒な絡み酒だと思われても構わない。俺は、今は酒におぼれていたいんだ。
あぁ、なんてかわいそうな俺。
「なに泣いてんの?」
彼女の声がする。幻聴でも聞こえて来たかな?
「やっと見つけた」
声に振り向くと、彼女がそこにいた。
「あー、もうお酒臭いなぁ・・・」
「なんで・・・」
なんで彼女がここに?夢か?夢かも。
「あんたの家に行ったら、お姉さまがここだって、で?」
彼女が俺の隣に座った。
「で・・・って?」
「何か言うことあるんじゃないの?」
頬杖をつきながら、彼女が俺に言う。
「おれぇ・・・お前にプロポーズしようとおもってぇぇ」
もう夢でも何でも良い。目の前にいる彼女に、俺の思いの丈をぶつけるんだ。
「10年ずっと好きだったんだよ・・・釣り合わないってわかってる。でもぉ、俺お前じゃなきゃ嫌なんだよぉ・・・。こんな情けない奴でごめんなぁ。これ・・・」
買ってきた指輪を彼女に渡した。
「俺の薄給三か月分・・・・ごめんな、こんなタイミングで・・・」
言いながら涙がこぼれてきた。
「・・・・ねぇ、サイズ合わないんだけど」
「うぅぅぅ・・・情けない俺でごめんなぁぁぁ」
——今さらだよ——
はぁ~、まったく情けないんだから。




