#065 「準備のざわめき」
結婚式まであと数日。特別クラスの教室は、ふだんの授業とはまるで違う空気に包まれていた。窓から差し込む午後の光の中で、机の上には雑誌やスマートフォン、メモ帳が広がっている。まるで作戦会議でもしているかのような賑やかさだった。
「ねえねえ、ドレスってどんなのがいいと思う?」
美弥が机の上に雑誌を広げ、はるなといちかに見せる。ページいっぱいに広がるのは、色とりどりのドレス姿のモデルたちだった。柔らかな布の重なりや宝石の輝きが、紙面の中で華やかに光っている。
「すごく綺麗……」
はるなは思わず見入ってしまった。ページをめくるたび、まるで別世界を覗き込んでいるような気持ちになる。
「こういうのって、夢みたいだよね」
「私は青がいいかな。花嫁さんじゃないけど、式場で映えると思うし」
いちかは真剣な顔でページをめくりながら呟く。指先でドレスの写真をなぞり、色や形を比べていた。
「はるなは?」
美弥が意地悪そうに笑う。
「白、着てみたら? ……ほら、将来の予行演習」
「ええっ!? そ、そんなの無理だよ!」
はるなの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ただの参列なのに……」
「でも、きっと似合うよ」
いちかが無邪気に言うと、はるなはさらに俯いた。雑誌のページを見つめながら、耳まで赤く染まっている。
その頃、男子チームは教室の後ろの机を囲んでいた。
「タキシードって……どう着るんだ?」
想太は説明書きを見ながら青ざめている。慣れないネクタイの図解を、まるで難しい問題のように睨んでいた。
「おいおい、自信持てって! 俺なんか絶対似合うからな!」
隼人は胸を張り、すでにタキシードを着たつもりでポーズを決めている。
「自分で言うなよ……」
想太が呆れると、要が静かに口を挟んだ。
「大切なのは姿勢と態度だ。服に着られないこと」
その言葉は妙に説得力があり、隼人も一瞬だけ真顔になる。
「要はそういうの慣れてそうだな……」
隼人がぼやくと、要は肩をすくめるだけだった。
「想太はネクタイ結べる?」
いちかが机の間を歩いて近づき、そう尋ねた。
「え、あ……あんまり自信ない……」
想太は困ったように笑う。
「じゃあ練習しよう。私、教えてあげる」
にっこり笑ういちかに、想太は助けられたように頷いた。
「はるなはどんな色にするの?」
美弥が再び話題を戻すと、はるなは少し考えてから答えた。
「えっと……落ち着いた色かな。あんまり派手じゃなくて……」
「ふーん。まあ、ドレスって結局は誰の隣に立つかで印象変わるしね」
美弥が意味深に笑う。
「な、なにそれ!」
はるなは慌てて両手を振った。そのやり取りを聞きながら、教室の後ろでは男子たちがまだ騒いでいる。
「こっちも準備完了だ!」
隼人が大声で宣言すると、要がすぐに突っ込んだ。
「まだ何もしてないだろ」
教室に笑い声が広がる。机を叩く音や椅子のきしむ音が重なり、賑やかな空気が満ちていく。
けれど、その笑い声の奥には――誰もがまだ経験したことのない世界への、ほんの少しの緊張が混ざっていた。
――SP君の結婚式。
それは6人にとって、背伸びと期待の始まりでもあった。




