#064 「突然の招待状」
放課後の教室。学園祭と体育祭を終えたばかりの特別クラスには、まだ余韻のような笑い声が残っていた。窓の外では夕焼けが校庭を赤く染め、部活動へ向かう生徒たちの声が遠くから聞こえてくる。開け放たれた窓から吹き込む秋の風が、教室に残った熱気をゆっくりとさらっていった。
「ふぅ……ようやく一息つけるな」
要が机に腰掛けると、隼人がどかっと椅子に座り込む。椅子の脚が床をきしませ、小さな音が静かな教室に響いた。
「全力出しすぎて筋肉痛だ。明日歩けるか心配だぜ」
「でも楽しかった!」
美弥が机に頬を乗せながら笑う。夕焼けの光が窓から差し込み、彼女の髪をやわらかく照らしていた。
「まだちょっと足がだるいけどね」
そんなとき、教室のドアがノックされた。コン、コン――乾いた音が、のんびりとした空気を破る。姿を現したのは――黒服姿のSP君だった。
「……失礼します」
いつもの無表情。だが今日はどこかぎこちなく、視線も少し落ち着かない。
「うわっ、急に出てきた!」
隼人が椅子ごとひっくり返りそうになる。
「なんだよ、またトラブルか!?」
「違う。今日は、私事で……」
SP君は淡々と答えながらも、珍しく言い淀んだ。制服のポケットから一通の封筒を取り出し、少しだけためらうように差し出す。
「……これを」
差し出されたのは、一枚の封筒だった。厚手の紙に金の縁取り。教室という場所には少し不釣り合いなほど、華やかな招待状だった。
「これって……招待状?」
いちかが目を丸くする。
「……はい。私の、結婚式の」
教室が一瞬で静まり返った。さっきまで響いていた笑い声が嘘のように止まり、窓から吹き込む風の音だけが小さく聞こえる。
「け、結婚式ぃ!?」
全員の声が揃った。
「ちょ、ちょっと待って! あんた、結婚するの!?」
美弥が思わず立ち上がる。
「……そういうことになった」
SP君はわずかに咳払いをして視線を逸らした。普段どんな任務でも表情を変えない彼が、ほんの少しだけ照れているようにも見える。
「おおお……マジか。おめでとう、ってことでいいんだよな」
隼人がぽりぽり頭をかきながら笑う。
「もちろんだよ!」
はるなが目を輝かせる。
「すごい……結婚式って、本当にあるんだ……!」
「あるに決まってるだろ」
想太が苦笑すると、要も小さくうなずいた。
「社会人になれば、誰もが通る節目だ」
「で、俺たちを招待するってこと?」
隼人が尋ねると、SP君はこくりと頷いた。
「護衛任務で出会った仲間だから……ぜひ来てほしい。正式な参列者として、席も用意してある」
「えぇぇぇ……参列!?」
全員が再びざわついた。
「ドレスとかタキシードとか着るのかな……」
はるなが顔を赤らめ、いちかは「え、わたし似合うかな」と真剣に悩み始める。
「うおお、タキシード!? 俺似合うかなあ!」
隼人は胸を張るが、美弥に即座に
「似合うわけないでしょ」
と切り捨てられた。
笑いと驚きが入り混じる教室。夕焼けの光の中で、6人の声が賑やかに響く。けれど誰もが、心の底から祝福の気持ちを抱いていた。
「……ありがとう。じゃあ、当日を楽しみにしている」
SP君は一礼し、静かに教室を後にした。ドアが閉まると、再び教室は静かになる。さっきまでの賑やかさが、ふっと遠くに感じられた。
「……本当に結婚するんだな」
想太がぽつりとつぶやく。
はるなは夢見るように窓の外を見た。夕焼けの向こうで、部活帰りの生徒たちが笑いながら校門へ向かっている。
――突然の招待状。
それは、6人にとって“大人の世界”への第一歩を告げる知らせだった。




