表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/67

#064 「突然の招待状」

 放課後の教室。学園祭と体育祭を終えたばかりの特別クラスには、まだ余韻のような笑い声が残っていた。窓の外では夕焼けが校庭を赤く染め、部活動へ向かう生徒たちの声が遠くから聞こえてくる。開け放たれた窓から吹き込む秋の風が、教室に残った熱気をゆっくりとさらっていった。


「ふぅ……ようやく一息つけるな」

 要が机に腰掛けると、隼人がどかっと椅子に座り込む。椅子の脚が床をきしませ、小さな音が静かな教室に響いた。

「全力出しすぎて筋肉痛だ。明日歩けるか心配だぜ」


「でも楽しかった!」

 美弥が机に頬を乗せながら笑う。夕焼けの光が窓から差し込み、彼女の髪をやわらかく照らしていた。

「まだちょっと足がだるいけどね」


 そんなとき、教室のドアがノックされた。コン、コン――乾いた音が、のんびりとした空気を破る。姿を現したのは――黒服姿のSP君だった。


「……失礼します」

 いつもの無表情。だが今日はどこかぎこちなく、視線も少し落ち着かない。


「うわっ、急に出てきた!」

 隼人が椅子ごとひっくり返りそうになる。

「なんだよ、またトラブルか!?」


「違う。今日は、私事で……」

 SP君は淡々と答えながらも、珍しく言い淀んだ。制服のポケットから一通の封筒を取り出し、少しだけためらうように差し出す。

「……これを」


 差し出されたのは、一枚の封筒だった。厚手の紙に金の縁取り。教室という場所には少し不釣り合いなほど、華やかな招待状だった。


「これって……招待状?」

 いちかが目を丸くする。


「……はい。私の、結婚式の」

 教室が一瞬で静まり返った。さっきまで響いていた笑い声が嘘のように止まり、窓から吹き込む風の音だけが小さく聞こえる。


「け、結婚式ぃ!?」

 全員の声が揃った。

「ちょ、ちょっと待って! あんた、結婚するの!?」

 美弥が思わず立ち上がる。


「……そういうことになった」

 SP君はわずかに咳払いをして視線を逸らした。普段どんな任務でも表情を変えない彼が、ほんの少しだけ照れているようにも見える。


「おおお……マジか。おめでとう、ってことでいいんだよな」

 隼人がぽりぽり頭をかきながら笑う。


「もちろんだよ!」

 はるなが目を輝かせる。


「すごい……結婚式って、本当にあるんだ……!」

「あるに決まってるだろ」

 想太が苦笑すると、要も小さくうなずいた。

「社会人になれば、誰もが通る節目だ」


「で、俺たちを招待するってこと?」

 隼人が尋ねると、SP君はこくりと頷いた。

「護衛任務で出会った仲間だから……ぜひ来てほしい。正式な参列者として、席も用意してある」


「えぇぇぇ……参列!?」

 全員が再びざわついた。


「ドレスとかタキシードとか着るのかな……」

 はるなが顔を赤らめ、いちかは「え、わたし似合うかな」と真剣に悩み始める。


「うおお、タキシード!? 俺似合うかなあ!」

 隼人は胸を張るが、美弥に即座に

「似合うわけないでしょ」

 と切り捨てられた。


 笑いと驚きが入り混じる教室。夕焼けの光の中で、6人の声が賑やかに響く。けれど誰もが、心の底から祝福の気持ちを抱いていた。


「……ありがとう。じゃあ、当日を楽しみにしている」

 SP君は一礼し、静かに教室を後にした。ドアが閉まると、再び教室は静かになる。さっきまでの賑やかさが、ふっと遠くに感じられた。


「……本当に結婚するんだな」

 想太がぽつりとつぶやく。

 はるなは夢見るように窓の外を見た。夕焼けの向こうで、部活帰りの生徒たちが笑いながら校門へ向かっている。


  ――突然の招待状。


 それは、6人にとって“大人の世界”への第一歩を告げる知らせだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ