#046 「学園祭準備」
放課後の特別クラス。窓から差し込む西日が、六つの机を斜めに照らしている。空気には少しだけ浮ついた期待が混じっていた。
「で、学園祭で何をやるか、だよな」
隼人が腕を組み、机を軽く叩く。乾いた音が教室に響く。
「普通に喫茶店とかでいいんじゃない?」
美弥がペンを回しながら提案する。
「無難だな」
要が淡々と頷く。一瞬、沈黙。
その空気を割るように、隼人が身を乗り出した。
「いやいや、それじゃ面白くないだろ!」
目がきらりと光る。
「どうせやるなら――メイド喫茶だ!」
「……は?」
六人の声が揃う。
はるなの眉がぴくりと上がる。
「何言ってんのよ、バカじゃないの」
「いや、絶対盛り上がるって! 特別クラスに一般生徒が入れる日なんだからさ!」
勢いだけはある。隼人は両手を広げ、未来図を語り始める。制服姿の生徒が押し寄せる光景。売上記録更新。盛り上がる教室。想太は苦笑しながら聞いていた。学園祭という言葉だけで、どこか胸がそわそわする。やがて議論は流れ、笑いに押されるように結論へと向かった。
「……しょうがないわね」
はるなが肩を落とす。観念した声。
「よし、決定!」
隼人がガッツポーズを決める。
窓の外で風が木を揺らした。役割分担が始まる。
「じゃあ、飾りつけとメニュー決めは――想太とはるな、頼む」
一瞬。空気が止まる。
「えっ」
想太とはるなの声が重なる。視線がぶつかる。すぐに逸らす。
「な、なんで私と……」
はるなが机の上を睨む。
「他に誰も文句言ってないから決まり」
要の声は冷静だ。反論の余地がない。
想太は後頭部をかいた。
「……よろしくね」
言った瞬間、胸がわずかに跳ねる。
はるなは顔を逸らしたまま答える。
「べ、別にいいけど!」
声が少し高い。耳が赤い。
四人は何も言わない。ただ、目を合わせ、小さく笑った。
放課後。二人は教室を出る。廊下にはまだ人の気配が残っている。その前に、黒い影が立ちはだかった。
「今回の担当SPは私です」
サングラスを光らせ、新人SP君が直立不動で敬礼する。その真面目さが、どこか危なっかしい。
「あ、また君か」
想太が苦笑する。
「はい。学園祭は人が多く集まりますので、特に警戒を」
声は硬い。
はるなが小さく呟く。
「……別に私たち、要人じゃないんだけど」
「そういうわけにも参りません」
きっぱり。次の瞬間。サングラスがずり落ちる。慌てて直す。
その仕草に、廊下の女子たちが一斉に笑う。
「きゃー! SP君、かっこいい〜!」
「似合う〜!」
黄色い声が弾む。
はるながぴくりと反応する。
「……なんでそっちが人気になるのよ!」
思わず声を上げる。
想太は吹き出した。はるなの頬がふくらむ。その横顔を見て、想太の胸の奥がまたくすぐったくなる。
学園祭準備。メイド喫茶。二人で決める飾りつけ。二人で考えるメニュー。確実に何かに向かって進んでいる。廊下のざわめきの中で、二人の距離は、また少しだけ近づいた。




