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#043 「教室のざわめき・再び」

 翌朝。特別クラスの教室の前には、いつも以上の人影があった。廊下を埋める制服の色。白いラインの内側で整列しているものの、視線の熱は隠せない。SPが前後に立ち、静かに通路を確保している。想太はその密度に、一瞬だけ足を止めた。


「……おはよう」

 教室に入る。中は、いつも通り六人だけ。けれど空気が違う。廊下側のガラス越しに、いくつもの顔が貼り付いている。


「見た? 昨日」

「相合い傘だったよね?」

「公式化!?」

「いや、まだ確定演出じゃない?」

 ひそひそ声が、扉越しに滲み込む。想太の背中に、じわりと汗がにじんだ。

 な、なんでそんなことに……。

 視線が自然と、はるなの方へ向く。彼女もまた、注目の中心にいる。背筋を伸ばして座っているが、指先が机の縁を強く握っている。耳まで赤い。


「……おはよう」

 はるなの声は、少しだけ硬い。


「お、おはよう」

 想太の返事もぎこちない。


 その瞬間。


「やっぱり距離近くない!?」

「目、合わせたよ今!」

 廊下がざわめく。ガラスがかすかに震える。


「ち、違うのよっ!」

 はるなが勢いよく立ち上がった。椅子が床を擦る音が響く。教室の中が一瞬、静まり返る。廊下も、わずかに息を飲む。

「相合い傘なんて、ただの偶然なんだから!」

 声は強い。けれど、頬は真っ赤だ。


 次の瞬間――


「ツンデレ発動きたぁ!」

「かわいい〜!」

「確定ルートじゃん!」

 歓声が爆発する。SPが一歩前へ出て、通路を押さえる。ざわめきはさらに熱を帯びる。はるなはぷいっと顔を逸らし、そのまま席に座り込んだ。その仕草が、また燃料になる。


 想太は頭を抱えた。

「……ほんとに、なんでこうなるんだよ」

 机に肘をつき、額を押さえる。廊下から声が飛ぶ。


「やっぱ相性いいよな〜」

「青春って感じ!」

「うらやましい……」

 その言葉が、妙に胸に残る。青春。うらやましい。想太はそっと横を見る。はるなは前を向いたまま、何も言わない。けれど。傘の下で触れた肩。雨音。昨日の距離。思い出した瞬間、心臓が速くなる。

 はるなも、ほんのわずかにこちらを見た。目が合う。すぐに逸らす。そのタイミングまで、揃っている。

 廊下のざわめきは止まらない。だが――


 四人は騒がない。


 隼人は腕を組んだまま、軽く肩をすくめる。

 要は静かにノートを閉じ、分析を口にしない。

 いちかはにやにやと笑っているが、追撃はしない。

 美弥ははるなを一瞬だけ見つめ、それ以上は何も言わない。


 やがて、四人は互いに目を合わせ、小さく笑った。わかっている側の、静かな合図。教室の中には奇妙な静けさがある。

 外は“確定”扱い。中はまだ、否定。

 その温度差が、余計に意識を濃くする。


 想太は小さく息を吐いた。否定すればするほど、自分の胸のざわめきが浮き彫りになる。雨はもう上がっている。

 それなのに――昨日の傘の下の距離が、まだ消えていなかった。

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