表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/67

#041 「要といちかの視点」

 中庭のベンチ。午後の陽射しが石畳を温め、噴水の水音が静かに響いている。要といちかは並んで座り、同じ銘柄のジュースを飲んでいた。ストローが、同じ角度で傾いている。偶然ではない。


「ねぇねぇ、要くん」

 いちかがストローをくわえたまま、にやっと笑う。足がベンチの下でぶらぶらと揺れている。

「想太くんとはるなお姉ちゃん、もうバレバレだよね?」


 要は一度だけ瞬きをした。視線を正面に保ったまま、淡々と答える。

「統計的に、観測者全員が同じ結論に至っている」


「でしょ〜!」

 いちかは嬉しそうに身を乗り出す。肩が軽く触れる。要は一瞬だけ呼吸を止める。触れた場所から、体温が伝わる。

「ふたりとも素直じゃないんだから」

 いちかはくすくす笑う。


 要はジュースを置き、顎に指を当てた。

「しかし」

 少し間を置く。

「彼らが騒がれる一方で、僕たちはほとんど話題にならない」


 いちかが首をかしげる。髪がさらりと揺れる。

「え? なんで?」


 要は視線を横へ流す。

「単純に、すでに確定事項だからだろう」

 さらりと言い切る。その言葉に、いちかは一瞬だけ目を丸くした。


 次の瞬間。

「えへへ。そうだよね、もう恋人同士だし」

 無邪気な笑顔。不意打ち。


 要の耳が、瞬時に赤く染まる。

「……!」

 視線が泳ぐ。噴水の水音が、やけに大きく聞こえる。


「わっ、照れてる〜!」

 いちかがさらに身を乗り出す。距離が縮まる。


 要は真顔を保とうとする。

「統計的に、これは……不意打ちだ」

 声は平静。だが、ストローを持つ指先にわずかな力が入る。いちかは楽しそうに笑い、自然に肩を預けた。体重がかかる。要は一瞬だけ身を固くするが、すぐに力を抜く。拒まない。それが当たり前のように。周囲では、他の生徒たちが談笑している。けれど、このベンチの周りだけ空気が穏やかだ。


「……ねぇ、要くん」

 いちかの声が少しだけ小さくなる。耳元に近い。

「私たちが一番にゴールしちゃった感じ?」


 要は一度、深く息を吸った。目を閉じ、開く。

「順序はどうでもいい」

 視線をまっすぐ前に戻す。

「大事なのは――今、隣にいることだ」

 言い終えた瞬間、自分でわずかに驚く。理屈ではない言葉だった。


 いちかの動きが止まる。頬が、ぱっと赤くなる。

「……っ!」

 ほんの一瞬、言葉を失う。そして、はにかむ。さっきまでの余裕が、少しだけ崩れる。今度は、いちかのほうが不意打ちを受けた番だった。


 要は横目でその様子を見る。小さく、満足げに息を吐く。噴水の水が、陽射しを受けてきらめく。二人の距離は変わらない。触れている肩。重なりそうな影。

 はるなと想太のぎこちなさとは対照的に、ここには揺るがない静けさがある。すでに答えを出した者の、余裕。けれど、不意打ちは今も効く。それが、この関係の心地よさだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ