#039 「いちかの爆弾発言」
昼休みの屋上。春風がシートの端をめくり上げる。六人はいつものように弁当を広げている。けれど今日は、どこか視線の行き場が定まらない。図書館の帰り道からずっと、想太とはるなは妙に距離を意識していた。
目が合わない。合っても、すぐ逸らす。その様子を、残りの四人は見ている。
「ねえねえ〜」
いちかがサンドイッチをかじりながら、にやりと笑った。
「二人とも、昨日図書館でなにしてたの?」
空気が、ぴたりと止まる。
「なっ……!」
想太とはるなが、ほぼ同時に顔を上げた。風が強く吹き、シートが揺れる。
「べ、別に……勉強だよ!」
想太が慌てて答える。声が少し裏返っている。はるなは弁当箱の蓋を閉じかけたまま、固まっている。
「ふぅん……」
いちかがじっと二人を見比べる。
「でもさ」
一拍、間を置く。
「顔、すっごく赤いよ?」
その一言で、空気が弾けた。
はるなの肩がぴくりと跳ねる。
「ちょ、ちょっと待って! いちか、なに言って――」
言葉が続かない。視線を逸らす。耳まで赤い。
「だってさ」
いちかはけろりとしている。
「見てれば分かるもん」
その言葉に、隼人が吹き出す。
「お前、ほんと容赦ねぇな」
要が淡々と頷く。
「客観的観測結果として、図書館以降の二人の視線回避率は異常値」
「だから分析やめろ!」
想太が叫ぶ。
その隣で、美弥が静かに口を開いた。
「……否定、しないのね」
声は穏やかだ。けれど、はるなから目を逸らさない。
はるなの指が、弁当箱の縁を強く握る。
「ち、違うから!」
強く否定する。
だが。否定の声が、どこか弱い。
想太はその横顔を見る。本気で怒っているわけではない。ただ、逃げ場を探している。胸の奥が、ざわりとする。
もし。もし、いちかの言葉が――
「なあ、想太」
隼人が肘で軽く小突く。
「お前はどうなんだよ」
風が吹く。青空がやけに広い。
「……僕は」
言葉が喉で止まる。図書館での距離。西日の色。近すぎた呼吸。
「……別に」
そう言いながらも、心臓が速い。
いちかがにやりと笑う。
「ほらね」
その笑顔は無邪気だ。残酷なくらい。屋上に吹き抜ける風が、二人の間を通り過ぎる。
はるなは顔を伏せたまま、何も言わない。けれど、その沈黙がいちばん雄弁だった。
想太は気づき始める。もしかして。もしかしたら。このざわめきの正体は――
春の空の下で、六人の関係は、ほんの少しだけ形を変えた。




