表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/67

#034 「新学期スタート」

 新学期の朝。春の光が、久遠野学園の校舎の白壁をやわらかく照らしていた。校門をくぐる生徒たちの足取りは軽い。散り始めた桜の花びらが、風に舞い、アスファルトの上を転がっていく。

 その流れの中心に、六人の姿があった。

 もっとも――その中で想太だけは、ほんのわずかに肩に力が入っていた。


「おはよう、想太!」

 弾む声が横から飛ぶ。はるなが笑顔で手を振った。朝日に照らされたその横顔が、一瞬だけ眩しく見える。


「おはよう」

 想太も自然に手を上げる。


 その瞬間――

「キャーーー!」

 背後から小さな悲鳴が上がった。空気が揺れる。数歩先を歩いていた生徒たちが、わずかに振り返る。


 やれやれ、またか。想太は内心で息をついた。

 ファンクラブ大戦争は終わった。けれど、熱そのものが消えたわけではない。以前のような暴走はない。白いラインの内側に整然と並び、一定の距離を保っている。

 それでも――声は飛ぶ。


「はるな様ー!」

「想太くーん!」

「お姉様、今日も素敵です!」

 整列しているのに叫ぶなよ。そう、想太は、心の中で小さく突っ込んだ。

 想太は曖昧に手を振る。それだけで、列の後方までさざ波のようなざわめきが広がる。


「……なんか、まだ落ち着かないなー」

 隼人が横で肩をすくめる。彼の視線も周囲を警戒していた。


「統計的に、群衆心理は残存する」

 要が淡々と告げる。


「残存って……」

 想太は苦笑する。足元の花びらを踏みそうになり、無意識に避けた。


 美弥は小さく息を吐く。

「もう慣れるしかないんじゃない?」


「でも、はるなちゃんが一緒なら平気だよ!」

 いちかが明るく笑い、はるなの腕にぴったりくっつく。


 はるなの肩が、ぴくりと跳ねた。

「ちょ、ちょっと……」

 顔を赤くしながらも、振り払わない。その様子に、再び視線が集まる。


 教室の扉を開けた瞬間、今度は室内の空気が変わった。

 黒服のSPが廊下の端に立ち、生徒たちは自然と距離を保っている。


 ひそひそ声が、机と机の間をすり抜けて届く。

「すげーな……完全に“特別クラス”だな」

「前より近づきやすいけど、逆に緊張するよな」


 想太は椅子を引き、席に着いた。机の天板に触れた指先が、ひんやりとしている。

「……こうしてみると、ほんとに特別扱いだね」

 小声で呟く。


「そりゃ、君たちは全国放送されたんだもん」

 美弥がさらりと言った。

「注目されて当然でしょ」


 教室の窓から差し込む光が、黒板の端を白く照らしている。


「でも、私たちが笑っていれば、それでいいんじゃない?」

 はるなが前を向いたまま答えた。

 その横顔を、想太は横目で見る。強いな、と思う。自分よりも、ずっと。


 昼休み。六人は屋上へ向かった。フェンス越しに青空が広がり、春風が制服の裾を揺らす。弁当の蓋を開ける音。笑い声。やっと、少しだけ普通の時間だ。


「そういえば、想太」

 隼人がふと切り出す。

「平和が続くといいな、とか思ってるんじゃねーの?」

 風が、会話の間をすり抜ける。


 想太は空を見上げた。

「……まあ、そうだね」

 肩をすくめる。

 大戦争は終わった。けれど、胸の奥にはまだ落ち着かないざわめきがある。

 新学期。新しい配置。新しい視線。何かが、また動き出す気配。

「平和が続くといいな」

 そう口にした瞬間。全員の顔が、ほぼ同時に苦笑に変わった。

 風が弁当の包み紙を揺らし、春の空にその言葉をさらっていく。想太は小さく息を吐いた。平和。その言葉が、どこか不吉な響きを帯びている気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ