#033 「大戦争の終わりに」
全国放送から数日後。久遠野学園の朝は、どこか澄んでいた。
校門前に並ぶファンクラブたち。歓声はまだある。
「はるな様ー!」
「想太くんー!」
けれど、声の高さが違う。以前のような押し合いはない。足元には白いラインが引かれ、自然と列ができている。
横断幕は整えられ、うちわは胸の高さで静かに揺れる。
「お姉様、今日も素敵です」
「天使ちゃん、がんばって!」
一人ずつ、順番に。
「……なんか、急に礼儀正しくなったな」
隼人が校門脇で苦笑する。風が、彼の制服の裾を揺らした。
「統計的に、規律は伝染する」
要が淡々と答える。その声は、もう緊張していない。
「ほんとにそうかな……?」
想太はまだ半信半疑で、列を見つめている。
はるなは腕を組み、静かに言った。
「……たぶん、全国放送で“ともり”の声を聞いたからだわ」
校門の上空を、白い雲がゆっくり流れていく。
「ともり様が言ったから、みんな守ろうとしてるんだね!」
いちかが嬉しそうに笑う。その笑顔に、列の先頭の子がほっと息をついた。
美弥は深く息を吐いた。
「ようやく“秩序”って言葉を思い出したみたいね」
校門脇。26人の黒服が、今日は余裕をもって立っている。
新人SPが伸びをする。
「新人、どうだ?」
ベテランが声をかける。
「はい!……いや、正直、物足りないです!」
その言葉に、周囲が小さく笑う。
昼休み。六人は校庭の中央に立っていた。芝生の匂い。遠くでボールの弾む音。
「……結局、私たちって何なんだろう」
はるなが空を見上げる。空の蒼色はいつも通り。
「守られる存在、なんだろうな」
隼人が腕を組む。
「でも、それって責任も重いよね」
美弥が静かに言う。
「統計的に、影響力は拡大中」
要はノートを閉じた。
「普通に過ごしたいだけなんだけどなぁ……」
想太は両手を後ろに組んで、空を仰ぐ。
「でも、私たちが笑ってたら、みんなもきっと笑ってくれるよ」
いちかが明るく言った。その言葉は軽い。でも、確かだった。
はるなは小さく微笑む。
「……そうね。守られるって、悪いことばかりじゃないのかも」
夕陽が校庭を赤く染める。六人の影が、ゆっくりと伸びていく。影は重なり、また離れ、それでも同じ方向を向いていた。
「よし!今日も無事に終わり!」
新人SPが元気に叫ぶ。
「……いや、まだ明日があるだろ」
隼人が即座に突っ込む。
そのやり取りに、六人は思わず笑った。風が吹く。横断幕は、もう暴れない。
こうして久遠野の“大戦争”は終わりを迎え、静かな日常が、少しずつ、確かに戻り始めていた。




