#027 「ともりの助言」
放課後の特別教室。今日は珍しく、外が静かだった。窓の向こうには夕暮れの空。旗もなく、群衆もない。
ただ、遠くの校庭からボールの跳ねる音が聞こえるだけ。
「……やっと落ち着いたな」
隼人が椅子に深く腰を下ろす。背もたれが、かすかにきしんだ。
「でもまだ耳に残ってるわ。“ともり様ーー!”って」
美弥が額を押さえる。静かな教室の中で、その言葉だけが浮かび上がる。
「統計的に、あの熱狂は当分続く」
要は真顔で告げた。
「勘弁してくれ……」
想太は机に突っ伏す。木の冷たさが、額に伝わる。
「でも、ファンの人たちって……本当に敵なのかな?」
いちかがぽつりと口にする。その声は、小さいのにやけに響いた。
「敵っていうより……暴走してるだけ?」
はるながゆっくり言葉を選ぶ。窓から入る風が、カーテンをわずかに揺らした。
そのとき。机の端に置かれた端末が、淡く光を放つ。青白い光が、六人の顔を順に照らす。
《……ファンは敵じゃない》
ともりの声が、静かに響いた。外の静寂と混ざり合うように。
六人は顔を上げる。
《彼らは君たちを守ろうとしているんだよ。やり方は間違っていても、想いは敵意じゃない》
言葉は落ち着いている。押しつけがましくない。
「守ろうとしてる……?」
はるなが呟く。窓の外で、風が一度強く吹いた。
「それなら……少しは気が楽になるかも」
美弥は小さく頷く。
「守られるだけって、少し悔しいけど……悪くないかも」
はるなは苦笑する。
「でも“2番目彼女”は敵だろ!」
想太が急に顔を上げた。静かな空気が、ぱきんと割れる。
「確かに!」
隼人が即座に同意する。
「“普通が尊い”って言われるのも敵よね」
はるながすかさず突っ込む。
「いや、あれは……本当に意味がわからない」
想太は再び机に額をぶつけた。ごん、と小さな音がする。
一瞬の沈黙。
そして――
くすり、と。いちかが笑う。
「でも……みんなで笑えたなら、それでいいじゃない」
その言葉は軽い。けれど、教室の空気をゆるめるには十分だった。六人の口元に、自然と笑みが広がる。
外は静か。でも、ここには確かに温度がある。
そのとき、ドアが控えめにノックされた。
こんこん。
新人SPが顔を出す。ネクタイはきちんと整っている。
「本日、特別教室は平和でした。」
一瞬、誰も言葉が出ない。
「信じられない……」
六人の声が重なる。
教室に、微妙などよめきと、小さな安堵が広がった。蛍光灯の下、今日は本当に、静かだった。




