#026 「六人の会議」
放課後の特別教室。外の騒ぎからようやく逃れ、扉が閉まると同時に、空気がふっと軽くなった。窓の外ではまだ遠く、断続的な歓声が響いている。けれど教室の中は、机を囲む六人の静かな呼吸だけが残っていた。
「……はぁぁぁ」
想太のため息が、天井の蛍光灯に溶ける。
「まさか“彼女宣言”するとは思わなかったわよ」
はるなが要を睨む。その視線には怒りよりも疲労が混じっている。
「統計的に、早めに事実を公開する方が混乱は減少する」
要は背筋を伸ばしたまま答えた。
「減少してないから!」
想太のツッコミが、静かな教室にやけに響く。
窓ガラスの向こうで、誰かの「要くーん!」という声がかすかに聞こえた。
「でも……ちょっと嬉しかった」
いちかが両手を膝の上で握りしめる。頬はまだほんのり赤い。
「公式化ってやつだな」
隼人が椅子にもたれかかる。椅子の脚が、床をきしませた。
「そのせいで“2番目彼女希望”とか出てきたんだよ?」
美弥が呆れたように肩をすくめる。
「……俺の時もそうだった」
想太は机に突っ伏す。机の木目に額を押しつけたまま、くぐもった声。
「“普通が尊い”とか言われてたもんね」
はるなが苦笑する。
「いや……あれは本当に意味がわからない」
想太は両手で頭を抱えた。蛍光灯が、わずかに揺れる。
「要くん、かっこよかった!」
いちかがまっすぐ言う。その一言に、教室の空気が少し柔らぐ。
「当然のことをしただけだ」
要は変わらぬ調子で答える。
「キャーーー!とか言われてたけどな」
隼人が皮肉っぽく笑う。
「尊い……って泣いてる子もいたわ」
美弥が遠い目をする。
「俺、罪深い男になった気がする」
要がさらりと言う。
数秒の沈黙。
「自覚あるの!?」
五人の声が同時に重なった。その瞬間だけ、教室に小さな爆発が起きる。
「はるな様はどう思う?」
美弥がふいに尋ねる。夕方の光が、はるなの横顔を淡く照らす。
「……混乱しすぎ。もうちょっと普通にしてほしい」
はるなの声は小さい。でも、真っ直ぐだった。
「普通が一番難しいんだよな」
想太が苦笑する。窓の外の歓声が、今度は遠く波のように聞こえる。
「……ともりはどう思う?」
いちかが端末を見た。
青白い画面が、机の上を照らす。
《混乱も未来の一部だよ》
ともりの声が、静かに響いた。
外の騒ぎとは対照的に、教室の中では誰も慌てない。六人は顔を見合わせる。そして、ふっと笑った。蛍光灯の下、小さな安堵がゆっくりと広がっていく。
外ではまだ歓声が続いている。でもこの教室だけは、確かに落ち着いていた。




