#025 「要の爆弾発言」
放課後の校門前。夕暮れの群衆はまだざわめいている。旗が風に鳴り、コールが重なり合う。六つの派閥がせめぎ合うその中央で、いちかの体がふらりと傾いた。
「危ない」
要の声は低く、短い。
次の瞬間、彼の手がいちかの腕を掴み、引き寄せた。靴底がアスファルトを擦る音。いちかの髪がふわりと揺れる。
「キャーーー!」
悲鳴とも歓声ともつかない声が弾けた。
「尊い瞬間きたーー!」
スマホのシャッター音が連続する。
「……これは火種だな」
隼人が小さく呟く。
「統計的に、拡散は不可避」
要は淡々と返す。
そのまま、彼は視線をまっすぐ前に向けた。
そして、さらりと言った。
「いちかは俺の彼女だから」
──音が消えた。
風だけが、横断幕を揺らす。誰かのスマホが、ぽとりと地面に落ちる。
数秒。完全な静止。
夕暮れの光が、二人の影を長く引き伸ばしていた。
次の瞬間。
「えええええーーー!!!」
爆発。悲鳴と歓声が一斉に噴き上がる。
「公式きたーーー!」
「裏切られた!」
「でも尊い!」
波のように群衆が揺れる。押し合いが再び始まり、SPの列がきしむ。
「え、えへへ……」
いちかの頬は真っ赤だ。夕焼けと見分けがつかないほどに。
「……言いやがった」
隼人が額を押さえる。
「火に油だろ!」
想太が絶叫する。
「爆弾を落としたわね……」
はるなが呆然と呟く。
「むしろ戦争が激化するわよ」
美弥の声は冷静だが、目は鋭い。
「要くん!幸せになって!」
「2番目の彼女は私!」
「いやいやいやいや!」
いちかが両手を振る。
人波が左右に揺れ、横断幕がまた一枚、破れた。
「……やっぱり出てきたわね」
はるながジト目になる。
「俺んときも言われた!」
想太が涙目で叫ぶ。
「公式でも収拾つかねぇ」
隼人が肩をすくめる。
「統計的に、混乱は永続する」
要は変わらぬ声で言う。
その平坦さが、さらに火に油を注ぐ。
ファンクラブの一部は泣き崩れ、一部は歓喜し、中央で分裂が始まる。誰かが座り込み、誰かが拍手を始める。
「もう無理っす!」
新人SPが叫ぶ。
「26人いても“彼女問題”は守れません!」
校門前は、悲鳴、歓声、拍手、ため息。それらが混ざり合い、夕暮れの空に溶けていった。二人の影だけが、並んで、静かに伸びていた。




