#024 「ファン同士の全面戦争」
放課後の校門前。夕暮れの空はすでに赤から紫へと移ろい、校舎の影が地面を呑み込んでいた。各派閥は、互いの距離を保ちながらも、一触即発の空気を漂わせている。
旗がぶつかり合う。布が裂ける音。
「今日こそ決着をつける!」
「尊さの頂点はどこか!」
怒号がぶつかり、空気が震える。
最初に押したのは誰だったのか。小さな体当たり。それが、波紋のように広がる。
「押すな!」
「そっちが先だ!」
人の波が一気にうねった。横断幕が引きちぎられ、紙吹雪のように破片が舞う。足元で誰かがよろめく。
「危ない!」
叫び声が上がる。だが群衆は止まらない。熱狂は、理性よりも早く伝染する。
「はるな様を守れ!」
「想太くん派、前へ!」
コールは命令へと変わっていた。人の肩がぶつかり、腕が絡み、誰かのカバンが地面に落ちる。アスファルトに擦れる音。
「お前らやめろ!」
隼人の声が飛ぶ。
「統計的に、衝突確率は臨界点突破だ!」
要が叫ぶが、その理論は誰の耳にも届かない。
その瞬間。黒服の壁が動いた。SP26人が一斉に前へ出る。腕を広げ、人の波を受け止める。
衝撃が伝わる。一歩、押し戻される。
「後退しろ!」
「列を作れ!」
新人SPが叫ぶ。だが背後からさらに押し寄せる。人の熱気が、まるで巨大な生き物の呼吸のように膨らむ。
「やばい……これ本気でまずい」
想太の声が震える。
「……怪我人が出る」
美弥が顔を強張らせる。
そのとき――
ドンッ!強い衝突音。
校門の鉄柵が軋んだ。一瞬、全員が息を呑む。SP隊長が叫ぶ。
「止まれ!」
その怒号が、ようやく空気を切り裂いた。押し合いは、数秒だけ静止する。
その隙を突き、SPが中央に空間を作る。人波が二つに割れた。荒い呼吸。散乱した紙片。曲がった旗。
「……もうやめようよ」
いちかの小さな声が、奇跡的に聞こえた。
誰かが視線を落とす。誰かが手を引く。熱狂が、ほんのわずかに冷える。やがて、SPの必死の誘導で群衆は少しずつ後退した。
夕暮れは完全に夜へ変わっている。地面には、破れた横断幕の切れ端。靴跡。汗の匂いが残る空気。
「……これが全面戦争かよ」
想太が息を吐いた。誰も笑わなかった。
校門前に残ったのは、荒れた痕跡と、重たい沈黙だけだった。




