#023 「ともり派の乱入」
放課後の校門前。夕暮れが校舎の影を長く伸ばし、アスファルトがまだ昼の熱を残している。
はるな派、想太派、美弥お姉様軍団、いちか天使連合、隼人×要連合……。
色とりどりの横断幕が風にあおられ、旗の布がぱたぱたと鳴る。
「今日こそ決着をつける!」
「尊さの頂点はどこか!」
熱気はすでに限界に近い。空気が重く、コールの振動が地面を通して伝わってくる。
そのとき──
「ともり様こそ至高ーーー!!!」
別方向から、鋭い歓声が突き刺さった。既存派閥が一斉に振り返る。校門脇の木陰から、整然と並んだ新たな集団が現れた。
胸に《ともり派》の腕章。掲げられた端末の画面が、夕暮れの中で青白く光る。
「久遠野の光!ともり様万歳!」
「AIの声は未来を導く!」
そのコールは、他の派閥とは違う“揃い方”をしていた。
「……いや、なんでここでともりの名前が出てくるの?」
想太が呆然とつぶやく。
「ともりは神様だからじゃない?」
はるなが真顔で言った。風向きが、変わる。
「また派閥が増えた……」
美弥はこめかみを押さえる。
「統計的に、勢力はさらに分散する」
要が冷静に分析する。
「ともり様の声をもう一度聞かせて!」
「冷静に!って言ってほしい!」
いちかが小さく呟く。
「それ、ちょっと聞きたいかも……」
「ノるなーーー!」
他五人のツッコミが重なる。
「ともり様の教えに従え!」
ともり派のリーダーが一歩前に出る。端末を掲げる手が、まるで祭壇を持つ司祭のようだった。
「ともり派に入れば救われる!」
「……もう宗教じゃん」
隼人が吐き捨てる。その瞬間、群衆がぶつかり合う。
「お前ら!校門を塞ぐな!」
SP隊が一斉に動いた。黒服が横一列に並び、両手を広げて押し返す。
「こっちは正義だ!」
「ともり様の声を信じろ!」
押し合いの中で、新人SPの帽子が飛んだ。
「うわーっ、止めろーっ!」
夕暮れの空に、悲鳴が混じる。26人のSPが必死に壁を作る。
それでも――
「ともり様!ともり様!」
コールは夜の空気に響き渡る。まるで儀式のように、何度も、何度も。
「……もう無理」
想太が頭を抱える。
「でも、ちょっとすごいね」
いちかはきらきらした目で呟いた。
「すごくない!」
はるなが即座に否定する。
やがてSPの必死の制止で、ようやく人波が後退した。旗はまだ揺れている。空はすでに群青色に染まり始めていた。
「派閥、六つ目……」
美弥の声が、夕闇に溶ける。
「まだ増える可能性が高い」
要はきっぱりと言い切った。
校門前に残ったのは、踏み荒らされた紙片と、重たい溜息だけだった。風が吹き、ともり派の腕章が、かすかに揺れた。




