#021 「派閥会議」
放課後の図書室奥。本棚に囲まれた静かな一角。夕方の光が細長く差し込み、埃がゆっくりと舞っている。
――はずだった。
なぜか机を囲み、各派閥の代表たちがずらりと並んでいた。空気はぴりぴりと張り詰めている。
「はるな様派を代表して来た!」
男子が拳を握りしめ、机を叩く。
「想太派をなめるな!」
女子が椅子を鳴らして立ち上がる。
「美弥お姉様軍団を軽視しないで!」
冊子を抱えた女子が一歩前に出る。その冊子が机にどさりと積まれた。
「いちか天使連合は癒しを広める!」
低く揃った声が本棚に反響する。
「隼人×要連合は譲れない!」
妄想ノートを握りしめた女子が机に身を乗り出す。
「ともり派こそ至高!」
端末の画面が光り、薄暗い図書室に青白い光が浮かんだ。図書室の一角が、完全に別空間になっている。
「……これ、完全に派閥会議だな」
隼人が呆れたように呟く。
「統計的に、会議は長引く」
要は真顔で分析する。
「何の統計よ!」
はるなが机を叩く。その衝撃で、積み上げられた本が一冊、ずり落ちた。
「静かにしてください!」
司書の先生の声が飛ぶ。
だが――
「はるな様こそ至高!」
「想太くんこそ救い!」
「お姉様に従え!」
「天使の笑顔を守れ!」
「兄弟BLを公式に!」
「ともり様万歳!」
叫び声が重なり、図書室の静寂は粉々に砕け散った。机が震え、椅子の脚が床を擦る音が混じる。
「……カオスだな」
想太が小声でつぶやく。
「むしろ面白いかも!」
いちかが目を輝かせる。
「いちか、ノリすぎ」
美弥が冷ややかに制した。
「決を取ろう!」
誰かが叫ぶ。
「一番尊いのは誰か!」
投票用紙が配られ始める。ペンが走る音まで混ざり、図書室は完全に戦場だった。
「やめろーーー!!!」
六人の声が重なる。一瞬だけ静まりかける。
「静かに!図書室です!」
司書の先生が再度叫ぶ。
全員が振り向く。
そして――
「無理です!」
ファンクラブ全員の声が揃った。
天井に反響し、本棚の奥まで震わせる。静かであるべき図書室が、最も騒がしい場所になっていた。
「これ、どう収拾つけるんだ……」
隼人が頭を抱える。
「統計的に、崩壊寸前」
要が淡々と答えた。
机を囲む派閥会議は、まるで火花を散らす焚き火のように燃え続ける。そして図書室の隅で、一冊の本が静かに閉じられた。
誰も、その音には気づかなかった。




