#020 「隼人・要連合の台頭」
放課後の昇降口。夕陽がガラス越しに差し込み、床に長い影を落としていた。
靴箱の前を、兄弟そろって歩く隼人と要。その歩幅は自然に揃っている。
――その瞬間。
「隼人先輩ーー!」
「要くんーー!」
歓声が一斉に弾けた。昇降口の空気が一気に熱を帯びる。その熱量は、はるな派や想太派にも劣らない。いや、むしろどこか異質だった。
「兄弟で歩くだけで尊い!」
「公式カップル感すごい!」
スマホのシャッター音が連続する。
「……おい、俺たち兄弟だからな?」
隼人が額に手を当てる。
「誤解が拡散している」
要は冷静に告げた。
その冷静さが、逆に歓声を煽る。
「キャーーー!!」
「冷静なツッコミ尊い!」
「ちょっと待って! 隼人×要ありじゃない!?」
「いやいや、要×隼人でしょ!」
ざわめきが渦を巻く。妄想ノートを広げる者、熱く語り合う者、すでにカップリング論争が始まっている。
「兄弟BL……尊い……」
涙ぐむ女子まで現れた。
「これは……まずい流れだな」
隼人は小声で呟く。夕陽が彼の横顔を赤く染める。
「統計的に、カップリング議論は収束しない」
要の声は落ち着いているが、周囲の空気は完全に加熱していた。
「……その冷静さが逆に燃料なんだよ!」
隼人が即ツッコミを入れる。
その瞬間。
「きゃーー! イチャイチャしてる!」
「尊い! 兄弟推し最高!」
床を踏み鳴らす振動が響く。
「イチャイチャじゃねぇ!」
隼人の声は、歓声に飲み込まれた。
――教室の窓。
中から様子を見ている四人。
「……完全に新しい派閥だね」
美弥が静かに呟く。
「ほんとにカップル扱いされてる……」
はるなが顔を引きつらせる。
「兄弟で人気ってすごい!」
いちかは純粋に目を輝かせている。
「俺まで被害受ける気がするんだけど……」
想太が机に肘をついた。
昇降口ではまだ、
「隼人ーー!」
「要ーー!」
というコールが止まらない。夕陽はゆっくり沈みかけている。
「……もう誰も止められないな」
隼人がため息をついた。
「分析すると、この流れは拡大の一途」
要は真顔のままだ。
その背後で、新人SPが靴箱の影に寄りかかり、ネクタイを緩めて呟く。
「派閥が増えすぎて……俺、処理できません!」
昇降口に、笑い声とため息が交錯する。夕陽はさらに濃くなり、兄弟の影は、並んで長く伸びていた。




