#013 「廊下の追走劇」
放課後の廊下。蛍光灯が白く光る直線の空間で、六人が横並びになった瞬間――空気が、びりっと震えた。
「待ってーーー!!」
「写真ーーー!!」
「今日が命日でも本望ーーー!!」
スリッパとローファーの音が一斉に跳ねる。床がどどどっと鳴る。ファンクラブの波が、曲がり角の向こうから雪崩れ込んできた。
「ちょ、これやばいって!!」
想太の声が一瞬裏返る。
「突破する」
隼人の目が鋭くなる。
「右ルート確保、三秒後に合流点」
要の視線が廊下の分岐を走る。
「走るわよ!」
はるなの声と同時に、
「ちょっと待って、ヒールなのよ私!」
美弥のヒールが床を打つ、カツン、カツン。
「一番速いの私かも!」
いちかがすでに数歩前。六人は一斉に駆け出した。ロッカーの金属が震え、掲示板の紙がぱたぱたと揺れる。
「きゃーーーーーーー!!!」
背後で歓声が爆発。廊下が振動する。
黒スーツのSP隊が横から飛び出す。
「包囲網形成!」
「出口封鎖──無理!突破されました!」
「GPSが追いつきません!」
イヤーピースから混線音。
「心拍数が青春を超えてます!!」
新人SPの声が震える。
「馬鹿な……俺の50m走の記録が抜かれた?」
ベテランの息が荒い。
「愛の力よーーー!!」
「推しは酸素ーーー!!」
足音が加速する。
「体育会系怖ぇぇぇぇ!!」
想太が涙目で曲がり角へ突入。
「廊下でドリフトしないで!!」
はるなの叫びと同時に、いちかがスニーカーで床を滑らせる。キュッ、と音が鳴る。
「統計的に、物理法則が破綻している」
要の眼鏡がずれかける。
「分析してる場合!?」
悲鳴が後ろから連鎖する。廊下はもはや陸上トラック。掲示ポスターが一枚、はらりと落ちた。
「止まってください!危険です!」
SPの声は完全に飲まれている。
そのとき──天井スピーカーの赤ランプが点灯。
『速度異常を検知。安全指数低下。記録します』
無機質な声が廊下に反響する。一瞬、全員の足音が半拍だけずれた。
「補導対象って出ましたーー!!」
「記録するなーー!!」
隼人の叫びが跳ね返る。
「今は左、非常階段へ!」
要の指示。
六人が一斉に方向転換。しかし。
女子の波も同時に滑らかに回り込む。
「包囲完成ーーー!!」
「なんで連携取れてるの!?」
美弥が息を切らす。
「推しは集合意識よーー!!」
床が再び震える。
『繰り返します。廊下は走らないでください』
AI先生の声が、むなしく天井で反射する。
「「「無理だろーーーっ!!!」」」
六人、SP、ファンクラブ。全員の叫びが、完璧にハモった。
放課後の灯ヶ峰学園。窓の外では、夕日が静かに傾いている。今日もまた、平和ではなかった。




