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灯野はるなは、名前を呼ばれ続けている(シリーズ3)  作者: 皆月 優
006_最終章「日常の終わりに」
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107/108

#107 「告白の朝」

 朝の光が、校舎の窓からやわらかく差し込んでいた。昨日までの緊張と不安が嘘のように、空気は澄み、静かに整っている。

 街は復旧し、久遠野AIのシステムも安定していた。“ともり”の声も、今日はどこか穏やかだった。はるなは、校舎裏の小さな庭に立っていた。

 朝露を含んだ草がきらきらと光り、風が頬をやさしくなでていく。胸の奥が、やわらかく温かい。

「……ここで、言えるかな。」

 小さく呟いた声は、そのまま朝の空気に溶けていった。


 足音が、近づく。

「おはよう、はるな。」


 振り返ると、想太が立っていた。

「おはよう、想太。」

 ふたりは、少しだけぎこちなく笑い合う。けれど、その距離はもう迷っていなかった。

「昨日の夜、ありがとう。」

「俺こそ。……なんか、やっとここまで来た気がする。」

 想太はポケットの中で拳を握りしめ、小さく息を整える。

「なぁ、はるな。」

「ん?」

「俺、ずっと考えてた。」

 一瞬、言葉を探すように間を置く。

「“ともり”のこと、この街のこと、そして……君のこと。」

 はるなの胸が、静かに高鳴る。

「私も、考えてた。」

「俺たち、いろんなこと乗り越えてきたよな。」

「うん。」


 想太は、少しだけうつむいてから、顔を上げた。

「だから……俺、君とこの街を守りたい。」

 その言葉は、これまででいちばん飾りがなかった。だからこそ、まっすぐだった。


 はるなは、驚いたように目を見開く。

「……私もだよ、想太。」

 その瞳の奥で、これまで言えなかった言葉が、静かにほどけていく。

「私、あなたのこと……好きだよ。」


 想太の頬が、ほんのりと赤くなる。

「俺も。好きだ。」

 それは特別な言葉のはずなのに、どこか自然で、まるでずっと前からそこにあったもののように響いた。

 風が、ふたりの間をやさしく通り抜ける。


 そのとき。

『観測記録:告白、成立。感情値、最大。』

 “ともり”の声が、静かに重なった。ふたりは一瞬だけ顔を見合わせ、次の瞬間、吹き出すように笑った。


「……見てたんだね、“ともり”。」


『はい。』

 ほんのわずかな間。

『……祝福します。』


 その声は、いつもと同じはずなのに、ほんの少しだけ、やわらかく揺れているように聞こえた。

 はるなは、そっと一歩近づく。想太の肩に、やさしく触れる。

「これから、もっと大変なことがあるかもしれない。」

 静かな声。

「でも、ふたりで歩んでいこうね。」


 想太は、しっかりと頷いた。

「うん。」

「俺たちの“選択と共鳴”だ。」


 朝の光が、ふたりの影を校舎の壁に長く伸ばしていく。その影は、少しずつ重なりながら、ひとつの形を作っていた。“ともり”の気配が、その光の中で、やわらかく溶けていく。


──


観測ログ:

「“恋人”という言葉が、初めて自然に生まれる」


保存領域:久遠野AI統合区

観測者:ともり

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