堕天録の戦火
「なぜ我ら、神の落とし子たちが神に反乱したのか…」
アラリックとチャーはロムルスの話に釘付けになっていた
「神が持つ二つの果実――
地球には“叡智”が、
火星には“不死身の力”が宿っていた。
月面人はそれを欲した。
神に憧れ、遂には神に成り代わろうとした。」
アラリックが小さく呟く。
「禁断の実…。神話の世界の話だと思っていたが、本当にあるなんて…」
「それで、私たちは太陽である神に戦いを挑んだのだ」
「太陽が神…?やはりあの時見たのは単なる光ではなく、この世に具現化した神そのものであるということか…」
目の奥には太陽にも劣らない強い光が見えていた
「お前が太陽を見たと言った時、私はお前の言葉を信じた。本当に出会ったのだということを。」
ロムルスは、空を見上げながら続けた
「少し話が脱線したが…これが神との決別――一度目の戦いの理由だ。」
「け、結果はどうなったんですか!!」
チャーは興奮気味に聞いた
「結果だけなら私たちの勝ちだった。
しかし、神との圧倒的な力の差を魅せられ、当時の私と共に戦った神の落とし子たちは死んでいった」
ロムルスは当時のことを思い出すように左上を見た
「じゃあ、月面人の負けなのでは…?」
「あぁ、それが二つ目の戦争と繋がっておる。
一度負けた私たちは、もう一度神へと挑んだ。それは神話には書かれなかった。どこかからの力が働いたらしい。」
「早く結論を…!」
「二度目の戦争の目的は地球を手に入れることだった。実は一度目の戦争で、私たちは火星を手に入れることはできたのだ。」
「そうなのか…!?でも、火星に行った記録はどこにもないはずだろ?」
アラリックは衝撃的なことを信じられないでいた
「結果的には、四人の神の落とし子の達の裏切りによって、禁断の実である地球を手に入れることは叶わなかった。それどころか、火星ですら私たちは手に入れる事ができなかった」
ロムルスは真剣に、事実を並べて行った
「何言ってるんだ?話の流れがつかめないぞ…?」
「四人の神の落とし子の裏切りとは、火星の不死身の力の私たち仲間からも奪い逃走したのである」
「なんと!四人というのはもしかして…?」
「あぁ、ルシアに国家転覆を狙っている、反乱軍の四人だ。正確に言うと今の反乱軍の先祖にあたる者たちだ。そして四人は不死の果実を“手に入れた”。
が――」
ロムルスは首を横に振った。
「使えなかった。
当時の知識では、不死の力を“発動”できなかったのだ。
結果、不死因子だけが肉体に残り、
そのまま“普通に生き、普通に死んだ”。
不死には到達しなかった。」
チャーが呆然と呟く。
「……四人の子孫が今の反乱軍?」
「その通りだ。」
「そして不死の力を奪った四人は、後に一つの国家を築く。
それがルシア帝国だ。
彼ら、ルシア人達の血脈には“未発動の不死因子”が眠っている。
ルシアの王族は、
これを完全な不死に進化させようと、
千年以上研究を続けている。」
「そ、そんなことがあったなんて…」
チャーの知的好奇心の対象であった、最強の生物に近づくためには不死身が絶対条件であった。ならばと今、チャーはルシアに向かうことを考えていた
「噂によると、トロボット族の族長が、ルシアに捕まった際にその薬の投与に成功したというのを聞いたな…」
「アラリック…ここは一時停戦としようじゃないか…?」
チャーはニヤケながらそう言った
「………」
アラリックは返事をしなかった
「まず、ワシはお前たちを逃がさんぞ…?」
ロムルスは二人を縛り付けるのをやめる気はなかった
「くっ…ロムルス大統領…」
と、チャーが苦虫を噛んだような顔をした
その瞬間、アリメカの夜空に、重い風が吹き抜けた。
ロムルスが生み出した巨大な「樹」が、アラリックとチャーを空中で絡め取っている。
二人は身動き一つできないまま、ただその‘'侵入者‘‘を見下ろすしかなかった。
「ロムルス……久しぶりだなァ」
声がした瞬間、ロムルスの背後に“三つの影”が降り立った。
一つは、身の丈ほどの金属棒を背負った猿。
もう一つは、紫の毛並みを持つ大熊。そして、真ん中には、隻眼の男が立っていた。声を出したのはその男だった。
樹上に仁王立ちした男――いや、それは“隻眼の熊”だった。
片目には深い傷跡。
ロムルスが最もよく知る男の片鱗が、その奥に確かに宿っていた。
「久しいな……パンドラよ。」
ロムルスが静かに名を呼ぶと、三匹の獣は同時に奇妙な声を叫んだ
「あの日から、お前を恨まなかった日は無いぜぇ! ロムルス!!」
チャーとアラリックは縛られたまま空中で揺れ、目を丸くした。
「な、なんだあの男!? もしかしてあの隻眼…!?」
アラリックはその男を凝視した
「隻眼の熊……?いや、突然現れたのに、殺す気満々じゃねぇか…っ!」
チャーも同じように驚き、二人は兵器を発動させようとしたが、腕を動かせずにいた
ロムルスの瞳が細められる。
「パンドラ……あの時のことを、まだ――」
「黙れぇ!!」
そう男が叫ぶと、猿が動き始めた
猿がロムルスを射抜くように見つめる。
「ッ……来るか」
ロムルスはすぐに理解した。
“あの猿はパンドラの能力の本体ではない。パンドラが召喚する第一の戦力”。
猿の瞳が細まり――ロムルスは即座に動きを止めた。
パンドラの持つ猿は、見る対象が動いた瞬間に、四肢を捥ぐという理不尽な能力を持っていた。
それがたとえロムルスほどの戦士でも、ルールは絶対だった。
「動けねぇよなぁ? ロムルス」
パンドラが好きなように喋る
そして――
猿の背後から武器の雨が降った。
・爆薬付きの投げ槍
・ワイヤーつきの鉄球
・月面時代の刃物を仕込んだ回転ディスク
それらは、パンドラの使う隠し武器で、猿との相性は抜群で合った
「クソッ……樹で受けるしかねぇな!」
ロムルスは足元から樹木を爆発的に伸ばし、盾にする。
だが動けない以上、完全には防ぎきれない。
槍が頬を掠め、回転ディスクが肩を切り裂いた。
「ロムルス大統領が押されてる……!」
「ウ、ウソだろ……!?」
縛られたままのアラリックとチャーが叫んだ。
一方、猿はロムルスの目の前で微動だにしない。
ただ、じっと睨みつけている。
この“視線の檻”が続く限り、ロムルスは逃げることも反撃することもできない。
「どうしたロムルス! 動けよォ!!」
パンドラの嘲笑が響く。
猿は徐々に距離を詰め――
鉄棒を振り上げる。
「止まれねぇなら――死ぬぞ!」
ロムルスは内心で覚悟を決めていた。
(……あと三十秒か。
視線能力の発動は一分。
残りさえ凌げれば……!)
しかしパンドラはその考えを読んでいた。
「残り時間なんざ分かってんだよロムルス!
だから猿の攻撃は止まらねぇ!」
猿の鉄棒が振り下ろされ――
ロムルスの左腕が折れた。
「ロムルス!!」
「大統領!!」
木の盾では防ぎきれなかった。
動けない状態で受け続けては限界がある。
さらにパンドラは、致命傷を与えるべく、銃を取り出した
「これで終わりだぁ!!」 パンドラの銃がロムルスの胸を貫こうとしたその時――
猿が行動を止めた。
「時間切れだ。」




