ノアール、魔王城に突入する
魔王城周辺。
ノアールたちは、凶暴なモンスターの群れに取り囲まれていた。
「フッ……ここはこの俺! マッスルセインツに任せな!!」
セインツはそう叫ぶと、勢いよくモンスターへ殴りかかった。
(……あれ? 魔法じゃないの? 物理なの?)
オカダは心の中で静かにツッコむ。
セインツのパンチ!
──しかし、モンスターは軽々と躱す。
続けて、セインツのキック!
──だが、それもまた躱される。
さらにパンチ、キック、パンチ、キックと怒涛の連続攻撃。
しかし、モンスターたちは余裕の表情で、すべてを躱していく。
「へっ……今日は、これくらいにしといてやる!」
(……修行の意味とは……? 筋肉が増えただけでは……)
オカダがそんなことを考えていると、ノアールが叫んだ。
「セインツ、どいて! ──闇よ! すべてを焼き尽くせ!! 《ダーク・ファイアボール》!!」
放たれた魔法が、モンスターに直撃する。
「ギャアアアア!!」
断末魔とともに、モンスターは一瞬で焼き尽くされた。
「《ダーク・ファイアボール》!」
「《ダーク・ファイアボール》!」
「《ダーク・ファイアボール》!」
ノアールは間髪入れず魔法を連発し、周囲のモンスターはすべて灰と化した。
(ノアールさん……魔法を連発しすぎです! 魔力切れを──)
しかし、オカダの心配をよそに、ノアールは息一つ乱していなかった。
(……え? どういうこと……?)
疑問を抱くオカダの横で、ちっちゃいオジさんは──
なぜか、軽やかなステップを踏んでいた。
「オマエ、コロス……」
◇
魔王城・城内入口。
「それにしても、ジャギーの部屋って、どこにあるんだ?」
セインツが首をひねる。
「あ! あれを見て!」
ノアールが叫び、指をさす。
全員がそちらを見ると──そこには、ご丁寧にも城内の略地図が掲げられていた。
(し……親切すぎる……。普通、こんなの置かないでしょう……。はっ……まさか、罠?)
オカダは心の中で全力ツッコミを入れる。
「よし! じゃあ、3階の東側、真ん中の部屋だな!」
しかし、そんなオカダの不安など一切気にせず、セインツは即決。
こうして一行は、3階へと向かった。
◇
ジャギーの間。
重々しい扉を開けると、そこには──
いかにも“魔女”としか言いようのない格好をした人物が立っていた。
「あれが……ジャギー……?」
セインツが小声で尋ねる。
「いいえ、違うわ!」
ノアールは即座に否定する。
「あれは、ジャギー様の68番目の弟子、“ムキョポギョポマース”様よ!」
「違う!!」
魔女が声を荒げる。
「私は24番目の弟子、“エダル”だ!! そんな発音しづらい名前ではない!!」
ノアールは、テヘペロ。
「久しぶりだな、ノアール……!」
エダルが睨みつけるように言う。
「エダル様、ここで何を……?」
「フッ……私は、ジャギー様の“力”を手に入れるために来たのさ」
「なっ、ジャギーの力を!?」
セインツが大げさに驚く。
「ああ。ジャギー様は勇者との戦いの末、おそらく異世界へと転移した。だが──その強大な“魔力の源”を、この世界に残していったのだ」
「魔力の源!?」
ここぞとばかりに、セインツがガンガン会話に割り込む。
(……お前、誰だ?)
一瞬だけ冷たい視線を向けてから、エダルは続けた。
「そうだ。私はその魔力の源を探すために、長い間──3日間も、ここに滞在していた」
「み、短っ……」
思わず漏れかけたオカダの声を無視し、エダルは俯く。
「しかし……見つからなかった。どこにも、魔力の源は存在しなかった……」
沈黙。
次の瞬間──
「……だが!」
エダルは顔を上げ、ニヤリと笑った。
「やっと、見つけたのだ!!」
そう言って、エダルが指さした先──
──セインツ。
「え、俺……?」
「ちがーう!!」
即座に全力否定。
「お前じゃない! その足元の──ちっちゃい生き物だ!!」
──あ、ちっちゃいオジさんだった……。
「見よ! ジャギー様の弟子の証を!」
エダルはそう叫び、胸元の宝石を掲げる。
宝石は、まばゆい光を放っていた。
「この輝きこそ、そいつが魔力の源である証。私は魔力の源を手に入れ、この世界の新たな魔王となる! その崇高なる目的のために──お前たちには、ここで死んでもらう!!」
エダルは呪文を唱え始めた。
(くっ……魔力が、桁違い……!)
オカダがそう感じた、その瞬間──
「させるかぁ!!」
セインツが雄叫びを上げ、エダルに殴りかかる。
だが、エダルは軽く身をかわし、セインツの胸に両手を当てる。
──バシュッ。
──ドガァァン!!
吹き飛ばされ、壁にめり込むセインツ。
しかし、コメディーなので生きている。
「次は──ノアール。お前だ」
エダルの放った魔法が、一直線にノアールへ迫る。
「……!」
呆然と立ち尽くすノアール。
だが──
ドンッ!
横から突き飛ばされる。
オカダだった。
オカダはエダルの魔法を、まともに受けてしまう。
「オ……オカダ……!」
「ノ……ノアールさん……逃げて……」
「ほう……。私の魔法を受けて、まだ生きているとは……」
エダルは感心したように笑う。
「だが、すぐに楽にしてやる!」
再び呪文を唱えようとした、そのとき──
オカダを庇うように、ちっちゃいオジさんが前に立ちはだかった。
「オマエ……コロス!」
「ほう。魔力の源に“意志”があるのか……?」
エダルは目を細める。
「面白い。だが、その意志は不要だ。今すぐ排除してやる!」
そう言って、エダルはちっちゃいオジさんの首を掴み、軽々と持ち上げた。
「……て」
「や……て」
「や……やめてー!!」
ノアールの叫びと同時に、彼女の身体が強く輝き始める。
「なっ……!? なんだ、この魔力は……!?」
ノアールの体から、膨大な魔力が噴き出す。
それは、空間を歪ませ、巨大な渦を生み出した。
「……!」
その渦に、オカダとちっちゃいオジさんが飲み込まれていく。
「ノ……ノアール……さん……」
「オ……マエ……コロス……」
「しまった……!」
エダルは焦り、ノアールに向けて魔法を放つ。
──だが、効かない。
やがて、まばゆい光が静かに収まった。
そこに立っていたのは──
真紅の角を頭に生やし、漆黒の翼を広げた、悪魔のような姿のノアールだった。
「ケケケ……」
歪んだ笑みを浮かべ、ノアールは言う。
「オマエ……コロス」
そして、オカダとちっちゃいオジさんは──
(……あれ? ここって……)
ゆっくりと意識が戻る。
オカダと、ちっちゃいオジさんが立っていた場所。
そこは──
(……いつものスーパーの駐車場……?)
見慣れたアスファルト。
白く引かれた駐車線。
少し錆びたカート置き場。
間違いない。
ここは、オカダが暮らしていた──元の世界だった。
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