ノアール、ウ○コヒーラーと出会う
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
ソックール村で“英雄”としてもてはやされたあの日から、すでに数週間が経っていた。
再び旅に出たノアールとちっちゃいオジさんは、村でもらった大量の食糧をすっかり食べ尽くし、今では森の中で木の実や野草をかき集めて暮らす日々を送っていた。
「お腹すいたよ~。昨日はタケノコが生えてたからラッキーだったけど……。ねぇ、ちっちゃいオジさんって、“たけのこ派”? それとも、“きのこ派”?」
「オマエ、コロス」
「そっか~、“きのこ派”かぁ~。わたしはやっぱり“すぎのこ派”よ」
と、木の実を拾いながらノアールがふと顔を上げた、そのときだった。
ズン……ズン……ズン……!
地面が低く唸るように揺れる。
「おれは、“たけのこ派”だぁ~~!!」
怒声と共に、クマのような巨大なモンスターが木々をかき分けて現れた。
「モンスターだわ!」
ノアールとちっちゃいオジさんが身構える。
現れたのは──タケノコのような角を生やし、背中に謎のジッパーをつけたクマ型魔獣・ベアンブー。
「ギシャアアア!! “きのこ派”……減らす!!」
ノアールの額に冷や汗がにじむ。
(まずい……! “きのこ派”のちっちゃいオジさんが狙われてる!)
ベアンブーの怒涛の攻撃を、ちっちゃいオジさんが紙一重でかわし続ける。
そのとき──木の陰から、一つの視線が。
「や、やばい……あの子、ピンチじゃん……!」
木の影から顔を出したのは、セインツという回復術士の青年だった。
彼の唱える回復魔法ヒールは、なぜか変な色をしていた。回復魔法といえば緑の光が一般的。だが、セインツのヒールは──くすんだ茶色と黄色が混ざったような、なんとも言えない色……。そう、“ウ◯コ”のような色だった。
「い、いま助ければちょっとカッコいいかもしれないけど……! でも俺のヒール、色ヤバいし! 攻撃魔法なんて持ってないし! ていうか、何より怖い!!」
(……よし、見てるだけにしとこ)
セインツがそんなことを考えている間にも、戦いは続いていた。
「オマエ、コロス」
ちっちゃいオジさんが宙を舞い──
パアアァン!!
モンスターの顔面にドロップキック!
──効いていない。
「グゴオオオアアア!!」
その隙を狙って、ノアールが詠唱!
「闇よ、蠢け──ダーク・パーカッション!!」
……しーん。
何も起きなかった。
「ははは、何も起きなかったな! これで“きのこ派”の一票を消せるぜ! 死ねぇ!!」
ベアンブーがちっちゃいオジさんに爪を振り下ろした、その瞬間──
「ひっく……ひっく……」
木の影からしゃっくりの音が聞こえる。
そう──
ダーク・パーカッションの効果は、「近くにいる人間にしゃっくりをさせる」だったのだ。
だが、そのしゃっくりのせいで、ちっちゃいオジさんの回避にほんのわずかな隙ができてしまう。
ベアンブーは見逃さず、鋭い爪で斬り裂いた!
ビシャアァ!!
オジさんが吹き飛び、ふんどしが顔にかぶさる。
「はっはっはー! これで“きのこ派”が減ったな! はーっはっはー!」
「オジさんっ!!」
(くっ……どうする!? 俺のしゃっくりのせいで、ちっちゃいオジさんがやられちまった……。でも今さら出ていって何になる……? いや、駄目だセインツ! このままじゃ絶対後悔する! 俺は何のために回復術士になったんだ!? ええい、ままよ! ついでにパパよ!!)
ようやく勇気を振り絞ったセインツが、飛び出す!
顔は引きつり、全身から冷や汗。だが、足は前へと動いていた。
「今こそ俺の出番だ! こ、怖いけど! 怖くない……怖くない!!」
ちっちゃいオジさんの前へ滑り込み、震える声で叫んだ。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィル!!」
──ブワァァ!!
謎の黄土色の光が、オジさんを包む!
「な、何この色!? ヒールって普通、緑じゃないの!?」
ノアールのツッコミをよそに、ちっちゃいオジさんはむくりと起き上がる。
ふんどしをキュッと締め直し、静かに言い放つ。
「オマエ……コロス」
「でも、オジさんが元気になったわ。今がチャンス! 闇の炎よ、オジさんに力を──ダーク・サティスファクション!」
その瞬間、ちっちゃいオジさんの背後に黒い炎が燃え上がる!
──跳躍!
空へ飛翔し、上空からベアンブーに急降下!
鋭い爪を一本ずつ折っていく!
「ギャアアアアアァァァァ!!」
そして最後に──
「オマエ、コロス」
ちっちゃいオジさんはそうつぶやくと、ローリングふんどしアタックを放った。
ズドオオオオオオオォォォォン!!
爆風が森の一角を吹き飛ばす。ベアンブーは木の葉ごと空高く舞い上がり、そのまま星になった。
──静寂。
ノアール、セインツ、そしてちっちゃいオジさんが立ち尽くしていた。
「すごい……」
セインツは、オジさんの圧倒的な強さに唖然としていた。
「オマエ、コロス……」
「うん、“たけのこ派”の一票が減ったね」
セインツはへたりこみ、全身汗だくでつぶやく。
「お、俺……ちょっとだけ、役に立ったよね……?」
……。
……。
ノアールとオジさんが無言で彼を見る。
「ジト目じゃん!! なんで!?」
こうしてノアールの旅は、さらに混迷を極めつつも続いていく。
そしてセインツは、なぜかそのまま一行に加わることとなった。
「いや、あの、俺、別に旅したいとか──」
「オマエ、コロス」
「はい! よろしくお願いします!!」
「それにしても、あなたのヒール、なんであんな色なの?」
「……食べたものによって色が変わるんだ。俺にも理由は分からないけど……」
「え、それって……あなたのヒールの色……ウ……」
ノアールは、言いかけた言葉をそっと飲み込んだ。
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