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デパートへの展示

フローライト第百二十一話

朔との日々はまた元通りになった。けれど美園は元通りになれなかった。今回の奏空のことが不可解で、どうしてもすっきりしないのだ。


「朔、ちょっと黎花さんのところ行ってくるけど・・・」


今日は仕事で黎花のところへ行く予定だった。朔の仕事がいっぱいいっぱいなところに、黎花からの依頼が来たので、色々相談しに行こうと思ったのだ。


「あ、ほんと?俺も行くよ」と朔が言う。


「いいよ、忙しいでしょ?」


「いや、息抜きしたい」


「そう?」


考えてみれば朔には一日ゆっくりする日というのがほとんどなかった。夜はほとんどパソコンに向かってるいし、アナログの絵の方も、昼間に描いている。


黎花の家に向かいながら朔が車の助手席で眠っていた。信号待ちでその寝顔を見ると、何だか胸が苦しくなった。


(今回、朔が折れてくれたけれど・・・)


もちろん、自分の考えが変わったわけではなかった。朔がそう言ってくれたのだから、素直に感謝すれば良いことはわかっていた。


(でも・・・)


ああ、らしくないな。いつまでも考えてるなんて・・・これこそ自分の嫌いな「ぐじぐじ」だ。


黎花のサロンのあるビルの駐車場に車を入れて朔を起こした。朔が寝ぼけ眼で「あ、ついた?」と言って欠伸をしている。


 


「お久しぶり~」と黎花がにこやかに迎えてくれた。スタッフの女性がコーヒーを持ってきてくれて、皆で一口飲んでから話をスタートさせた。


「今回の○○〇デパートの壁面に朔の絵をって言ってくれてるの」と黎花が言った。


「へぇ・・・すごいね。きっと目立つでしょ?」と美園は言った。


「そうなの。すごくいい宣伝になるのよ。どう?」


「いいよね?朔」と美園は朔の方を見た。


「・・・いいけど・・・どんな絵?」


「それがね、人物を入れて欲しいって」


「人物画?」と朔が聞き返す。


「んー・・・人物だけアップって意味じゃないのよ。絵の中に人物も入れて欲しいって注文で・・・他の画家の人も出す人いるんだけど、人物で統一したいらしいの」


黎花が少し遠慮気味に言ったのは、朔があまり人物画を描かないのを知っていたからだ。


「条件はそれだけ?」と美園は聞いた。


「そう。後は感性でいいって」と黎花が答える。


美園が朔の方を見ると、朔は考えるような顔をしていた。


「あのデパートは多くの人が行くし、色んな年齢層の人が出入りするから、ほんといい話だと思うんだよね」と黎花が言った。


「サイズは?」と朔が聞く。


「Fの百くらい」


「わりと大きいね」と美園が言った。


「いつまで?」と朔がまた聞く。


「来月までにって。ゴールデンウィークに間に合わしたいって」


「えっ、じゃあ、三週間くらいしかないね」


「そうなのよ。急な話しだけど、いいお話だと思ったから」と黎花は言った。


「・・・それ・・・無理だな」と朔が言った。


「忙しい?」と黎花が聞く。


「忙しいっていうか・・・今から考えて・・・そのサイズで・・・ちゃんとしたのが描けない」


「そんなことないと思うよ。朔ならできるよ」と黎花が言う。


「私、他の仕事手伝うよ」と美園は言った。朔の絵を多くの人に見てもらいたい。絵画の世界では、朔もある程度知られていたが、一般の人にはイラストは別としてあまり知られていない。


朔は黙っている。


「とにかく今日一日考えてみて」と言われてその日は黎花のサロンを後にした。


 


「朔、ほんと私ほかのデザインとかイラストの方手伝うよ」


帰りの車の中で美園は言った。


「・・・そういうんじゃなくて・・・」と朔が言う。


「そういうんじゃないの?」


「そうだよ。人物入れてって条件・・・」


「それ、難しい?」


「難しいってわけじゃないけど・・・」


「じゃあ、何?」


「俺・・・人物は美園しか描けない」


(えー・・・)と思う。


「それはないでしょ?」


「美園しか描いたことない」


「そうだっけ?」


「うん・・・」


 


自宅マンションに着いてから、朔と二人でもう一度考えてみた。


「私しか描けないなら、私でいいんじゃない?」


「・・・そうだけど・・・」


「何が引っかかるの?」


「何か・・・やだな」


「だから何が?」


「抽象画ならいいけど・・・美園そのものを出すのが・・・」


「誰も私だなんてわからないし、いいんじゃない?」


朔がまだ考えている。何が嫌なのか美園にはいまいちピンとこない。そもそも自分しか描けないってそれはないだろうと思う。


「朔、私しか描けないわけじゃないと思うよ?私しか描いたことがないだけで・・・。これを機会に誰か他の人を描いてみてもいいんじゃない?」


「・・・・・・」


「朔の絵の幅も広がるし・・・」


「俺の絵の幅って?」


「色んなジャンルを描けたらその方がいいかなって・・・」


「・・・・・・」


「やだ?」


「色んなジャンルって必要ないと思う」


「どうして?」


「俺は・・・俺の世界を描いてるから・・・誰かの世界を描いてるわけじゃない」


朔に言われて美園はハッとした。朔の絵を見てもらいたいと思うがあまり、朔の世界を壊すのならまったく意味がないことになる。


「ごめん・・・」と美園は謝った。


「・・・謝ることないよ」


(あー・・・失敗だな)と美園は思う。朔の世界は独特で、その世界が美園も好きなのに、とんちんかんなことを言ってしまったと思った。


「・・・美園も俺の世界にいて・・・でも、あまり見せたくない・・・」


「でも、昔は私を描いてくれて、その絵を売ったでしょ?」


高校の頃、美園がモデルで描いた絵を明希の店で売ったのだ。


「それはそうだけど・・・あの頃は、まだ何もわかってなくて・・・ただ、利成さんに認められるのが嬉しくて・・・それで描いてた」


「そうなんだ・・・」


「他の人物も描けないわけじゃないけど・・・描きたくないんだ」


(描きたくない・・・朔の世界には私しかいないのかな・・・)


そう思って朔の顔を見ると、朔も美園の顔を見つめていた。


「・・・仕事してくる」


朔が美園から目をそらし立ち上がった。


今回の話はすごくいいチャンスなのに、どうしたらいいのだろう。美園は朔の背中を見送りながら思った。


(私以外の人物・・・それは描けない・・・私なら描けるけど、あまり見せたくない・・・)


でもどうして見せたくないのだろう?


(あーいまいち芸術家の気持ちはわからないな・・・)


自分も一応アーティストの端くれではあるけれど、朔ほどのこだわりは持っていない。自己世界観にこだわるのは、第三者から見たら視野を狭めるようにも感じるけれど、朔にしてみれば自分の世界以外を描くのは、まったく意味がないことなのだ。


でも何とか朔に描いてもらう方法はないだろうか・・・?


 


夕飯の支度をしてから、朔のアトリエに行った。ドアを開けると朔が黙ってキャンバスの前に座っているのが見えた。キャンバスには何も描かれてはいない。朔はイメージを描くとき、よくこうやって真っ白なキャンバスを何時間も見つめていることがある。


「朔・・・」と美園は遠慮がちに声をかけた。


朔の返事がないので邪魔したら悪いと思い、美園はそのままアトリエから出ようとした。すると「美園」と急に呼ばれた。


「何?」と美園は振り返った。


「やっぱりモデルになって」


「え?」


「・・・美園のこと描くから」


朔が美園の方を見た。


「いい?」と聞いてくる。


「もちろん、いいよ」


「・・・だから他の仕事も手伝って」


「うん、もちろん、そのつもりだよ」


「うん、ありがとう」と言ってから朔が立ち上がった。


「ご飯食べる?」


「うん、何作ったの?」


「ビーフシチュー」


「そうなんだ」と朔が笑顔になった。


 


その日は久しぶりに朔とお風呂に入った。朔が「やっぱりヌードがいいかな?」と冗談っぽく言った。


「は?」と髪を洗っていた美園は顔を上げた。


「ヌードが一番きれいだもんね」


「・・・そういう冗談はやめて」


「冗談じゃないよ」


「いや、冗談」と美園がシャワーを出すと、朔にシャワーを奪われた。


「かけてあげる」と朔が言う。


「あ、ちょっと」と美園は言った。朔がでたらめにシャワーをかけてきたのだ。


「もう、真面目に」と美園が言うと、朔が「アハハ・・・」と笑いながらシャワーをかけてきた。


「やっぱりモデルはヌードね」と朔がシャワーを美園に返してくる。


(もう・・・冗談なんだか本気なんだかわからないんだから)


 


次の日黎花にすぐ連絡をして、朔がオーケーしたことを伝えると、黎花もすごく喜んでいた。そしてその日から美園も朔の絵のモデルと、デジタルの方の仕事と事務処理などで忙しくなった。


モデルをやる時は、肩を出してデコルテの線を描きたいと朔が言うので、大幅に肩が出るようになった服を着た。


「少し休む?」


大きな欠伸が出た美園に朔が言った。今日は雨で部屋の中が何となく薄暗いせいもあって眠くなってきてしまった。美園もずっと数時間しか寝てなかった。


「ううん、大丈夫」と美園は言ったけれど、朔が「いい、休もう」と言った。


「コーヒーでも入れる?」と朔がどうやら気を使っているようだった。


「いいよ、自分でいれるから」と美園は言ってアトリエを出た。


キッチンでコーヒーを入れていると、朔が来て「ある程度下絵が出来たら、もうモデルになってなくても大丈夫だから」と言った。


「うん・・・でも、必要なら言ってね」


「うん、ありがとう」


コーヒーを入れると朔がそのままそれを持ってアトリエに行ってしまったので、美園はリビングで一人でコーヒーを飲んだ。ついでにスマホでSNSやユーチューブをチェックした。朔のインスタには常に朔の絵やイラストをアップしている。たまに多くの芸能人などがやっているように、美園も自分のファッションを披露したりしたのをアップして、色んな人が検索でヒットするようにした。


そのコメントをチェックしていると、<へたくそ>というコメントが目に入った。たまにこういう批判めいたコメントが入ることがある。そういうのは出さないようにしているのでどうってこともないが、思い立ってそのアカウントをクリックして飛んでみた。大抵は何もアップもしていないものだが、そのアカウントの人も絵をアップしていた。


(あれ?・・・)


何だかすごく上手いのだ。朔と同じ油絵だった。


(珍しいな、こんな批判する人も同じ絵を描いてるなんて)


そんなことを思いながらコーヒーを飲んでいるとスマホが鳴った。画面は奏空からの電話を知らせていた。


(奏空?)


「はい?」と美園が出ると「美園~」と奏空の声が響いた。


「何?」


「今、何とマンションの近くです」と陽気に奏空が言った。


「うちの?」


「そう、行っていい?ていうか、いる?」


「いるよ。来ていいよ」



「お久だね、美園」と部屋に入ってくると奏空が言った。


「どうかした?」


「近くまで来たから、どうしてるかなってね。朔君は?」


「アトリエで仕事」


「そうなんだ。忙しそうだね」


「まあね」


美園が奏空のためにコーヒーを入れていると朔がリビングに入って来た。奏空を見て驚いている。


「あ、こんにちは」と言う朔。


「うん、朔君、こんにちは。元気?」


「はい・・・」


美園は入れたコーヒーを奏空の座っている前のテーブルに置いてから、「あ、ごめん。モデルだよね?」と美園は朔に言った。


「いや、後でいいよ」と朔が言う。


「朔君、仕事っていうか、絵の方はどうなの?最近描いたのってある?」と奏空が聞いた。


「あ・・・今、描いてます」


「そうなの?どんなの?」


「その・・・美園を・・・」


朔が少し困ったように言った。


「美園?そうなんだ?」


「○○〇デパートの壁面に期間限定だけど、飾られるんだよ。そのための絵を描いているよ」と美園は言った。


「へぇ・・・そうなんだ。出来たら見に行こうかな?」


奏空がそう言いながらコーヒーを飲んだ。


「美園、俺、イラストの方やってるからモデルは後でいいよ」朔がそう言って奏空に軽く頭を下げてからリビングを出て行った。


「彼、大人くさくなったね」と朔が出ていくと奏空が言う。


「そう?」


「うん」と奏空がコーヒーをまた飲んだ。


「奏空、あのね」と美園は言った。ずっと気になっていることを聞くにはいいチャンスだった。


「ん?」と奏空が無邪気に言う。


「前のことだけど・・・朔が、子供欲しいって言う話・・・」


「うん」


「相談したでしょ?奏空に・・・覚えてる?」


「覚えてるよ」


「あの時の奏空の答えがどうしても腑に落ちなくて・・・」


「そうか」


「ほんとはどういう意味だったの?」


「意味?あのまんまだよ?」


「だって・・・いつもの奏空がいうような内容じゃなかったし・・・あの後、結局朔が折れてきたから・・・そこもちょっとというか・・・だいぶ違ったし」


「・・・美園はどう思うの?俺の言ったことおかしかった?」


「ううん、全然。おかしくないことがおかしいんだよね」


「アハハ・・・なるほどね」


「まとも過ぎたの。いつもあんなまともなこと言わないでしょ?」


「アハハ・・・もう笑わせないでよ。でも、確かにそうだね」


「何か裏があるとか?」


「裏も返してからまた返せば表になるしね」


「何それ?」


「意味わかんない?」


奏空が美園のいつも言う口癖を言った。


「わかんない」


「そうか・・・ヒントあげるよ」


「何?やっぱり何かあるんだ?」


「うん、それも含めてヒントね。・・・”子供”これがキーワードです」と奏空が少しおどけて言った。


「子供?」


「そうだよ。今回は”子供”の話が色々波紋を呼んでたでしょ?例えば・・・俺の子供は美園だけど、美園は生物学的には利成さんと咲良の子供なわけで・・・。俺自身の子供はいない」


「そうだね、それは少し不思議だったよ。何で奏空が子供作らなかったか」


「作らなかったわけじゃないよ。できなかったんだよ。もっというなら、できる条件が揃わなかった」


「条件?そんなのあるの?」


「俺の場合はね、実はあったんだよ。そこがうまくいかなかった・・・結果、俺の生物学的な子供はできなかったわけ。もちろん出来ても出来なくても、俺には直接影響ないけどね」


「どういうこと?」


「咲良が利成さんのことを盾に拒んだんだよ」


「えっ?奏空の子供をいらないって言ったの?」


「いや、咲良は欲しがってたよ。それが罪滅ぼしのようにね。だから何でできないのかって気にしてた」


「そうだよね。何でだったの?」


「ヒント2です」とまた奏空がおどけて言う。


「子供とは何でしょう?」


「さあ?カルマ?」


「ピンポン!当たり!」


(ピンポン?何か古臭いな・・・)


美園がそう思って奏空の顔を見ると「ちょっと考えてみて。ちなみに美園と朔君の子供の問題はまだ解決してないよ」


「えっ?どういうこと?」


「はい、今日はここまで。美園はね、最近成長してきたから、試験もだんだん上級になってくるんだよ」


「えー・・・もったいぶらないで教えてよ」


「ダメ。少し考えてみなよ」


「・・・・・・」


奏空が「じゃあ、今度はこっちにおいでよ」と笑顔で言って帰って行った。


(もう・・・一体どういう意味なの?)


子供のこと・・・解決してないって?


美園は首を傾げたが、とにかくやはりあの時のことには裏があったのだ。その方がホッとした。あの内容が本当に奏空の本気なら、違和感極まりなかったのだから。


 


夜にまた朔のモデルをやった。一時間以上座りっぱなしで欠伸をすると朔が「もういいよ」と言った。


「え?できたの?」


美園は朔のそばへ行ってキャンバスを覗き込んだ。


(わ・・・)


「何?これ・・・可愛すぎる・・・」


可愛い少女が肩までだした姿で中央に描かれていた。そしてその周りに花がたくさん書かれていた。少女の目は少し伏し目がちで、どことなく儚げだった。


「可愛い?美園だよ、これ」


「えー・・・私?こんなに可愛くないよ」


「可愛いでしょ?美園は」と言って朔が笑った。


「この花は?何の花?」


「・・・何の花でもないよ」


「え?じゃあ、朔が考えたの?」


「そう・・・」


「へぇ・・・色を付けるの楽しみだね」


美園はその下絵を見つめた。


「今回はちょっとイラストっぽい感じにしたんだね」と美園は言った。


「うん・・・美園だけど、美園を子供にしたイメージだよ」


「え?そうなの?」と美園はもう一度その絵を見た。


確かに今の美園よりは若い感じだ。


「やっぱり朔の絵はいいね」


美園が言うと朔が嬉しそうに「そう?ありがとう」と言ってから「今日は寝ようかな」と言った。お互い最近はほとんど寝てなかった。


「そうだね。今日はいったん休んだ方がいいね」


「うん・・・」


美園は先に寝室に入ってベッドに寝そべってスマホをチェックした。


(ん?)と思う。昼間にチェックしたインスタにまたコメントが入っているのだ。


<下手くそなんだから絵はやめた方がいい>


(は?)


何この人と思う。もう一度その人のアカウントに飛んでみる。やっぱり油絵が色々アップされていた。


(確かにこの人はうまいけど・・・)


だからといって朔がヘタだなんて思わないし、絵の良し悪しは技術的なものだけの話ではない。


朔が寝室に入って来てベッドに入ってきた。美園がスマホを置こうとすると、「何かあった?」と聞かれる。


「んー・・・変なコメントが入っててね」


「変なコメントって?何に?」


「インスタ、朔の」


「俺の?何だって?」


「下手くそなんだからやめろって」


「・・・見せて、それ」


朔に美園のスマホを渡した。朔はその内容をみてからまた美園にスマホをわたしてきた。


「お前の方が下手くそだって、コメント入れてやろうか?」と朔が言った。


「やめてよ。面倒になる」


「・・・冗談だよ」と朔が布団の中に入った。朔は今でも時々投げやりなことを言ったり、皮肉めいた言い方をする。朔の母親のことはまだ完全に乗り越えたわけでもなかったし、また乗り越えようとするものでもないと美園は思っていた。


「・・・じゃあ、おやすみ」と美園が言うと朔が口づけてきた。いきなり舌を押し込まれて無理矢理のようなキスをしてくる。


「・・・朔・・・寝るんじゃないの}


美園は少し息が苦しくなって唇を離した。


「したい・・・」


「いいけど、ゴムがないよ」


「薬は?」


「飲んでないっていうか、時間なくて病院行ってなかった」


「じゃあ、そのままさせて」と朔がまた口づけて来る。


「じゃあ、中に出さないで・・・」


「わかってる」


そう言った朔が「美園」と言いながら、また熱烈に口づけてきた。その唇が美園の首筋から胸に移動していく。


「ちょっと・・・朔・・・」


朔が今日はひどく荒々しく胸を揉んできて痛いほどだ。太ももを持ち上げられて舐められる。美園がイクまでしつこく舐められてから朔が入ってきた。


「美園」と名前を呼ばれる。閉じていた目を美園が開けると朔がじっと見つめていた。


「俺の名前・・・呼んで・・・」と朔に言う。美園が恥ず,かしいので黙っていると「呼んで」とまた言われる。黙っていると、深く突きあげられ「あっ・・・」と思わず声がでてしまった。


「朔・・・」と美園は朔の名を呼んだ。


「ん・・・美園は俺のものだから・・・」


「あっ・・・」とまた声が出てしまう。


「・・・誰にも・・・見せたくない・・・」


朔がそう言って美園の上に射精した。


女性は社会の中では男性のステータスなのかもしれない。どんな女を何人手に入れたか・・・それは男にとってどれほどの意味を持とうとも女には関係ないことだ。女はいつもただ一人の人を求めている。それは何なのだろうか?


「美園・・・俺だけのものだから・・・他の男に見られたくない・・・」


美園の身体を拭き終わると朔が言った。朔はどこか美園を神聖なもののように思っているところがある。


(そういや、前に女神がどうとか言ってたっけ?)


どうも男性のそういう気持ちはよくわからないなと美園は思う。


 


朔の美園をモデルとした絵は締め切りぎりぎりの日に完成して無事に黎花と一緒に、○○〇デパートに持っていくことができた。それは他の若き画家たちの絵と共に、ゴールデンウィークから展示され、しばらくはそのまま展示されることになった。

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