表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

天使の微笑み

 あれから、キースはずっと月夜の後をつけるストーカーとなり、事務所の近くをウロウロしていた。近くに姿を見せる度に、警察に通報するのだが、その度に猛スピードで逃げては、また元の場所に戻って来るの繰り返しをしていた。今も、近くの電柱の影からチラチラ姿を見せている。

『…なんで、一向に捕まらないんだぁ?』

 月夜は、キースの逃げ足の速さに呆れ返っていた。

「月夜君〜。くれぐれも、無闇に外に出ないようにねぇ~。」

「はぁ〜い。」

 さすがに、何度もパトカーの音と奴の姿を目にすれば、一条にも分かる。

「すみません。また奴が外に居るので、来てほしいんですけど。」

 手慣れたように、一条が110番通報する。もう、何度通報したか分からない。パトカーの音がする度、キースも急いで逃げていく。

「それじゃあ、仕事に行ってきます。」

 月夜は、一条に笑って言う。

「うん。今のうちに行ってきなさい。くれぐれも、気を付けてね!」

 一条も笑い返す。

「はい!」

 月夜は、ヒナコの屋敷へ足を運ぶのだった。月夜の後ろには、招かれざる客がついてきていた。その姿を見て、ヒナコと李は目が座っている。

「最低!」

「最低ね!」

 キースの行いを知っている二人は、軽蔑の目を向ける。だが、そんなことを気にすることなく、キースは高笑いする。

「なんで、部外者が月夜について来るのよぉ!!」

 ヒナコが、怒りをぶつける。

「こいつ、どんなに巻いても後から付いてきやがるんだ!」

 月夜は、うんざりする。

「いやぁ~。俺、今居場所がなくて、困ってるんだわぁ!それに、月夜に一生ついて行こうと心に決めた!命かけて守るぜぇ!」

「私たちを、脅しにかけたこと、忘れたわけじゃないでしょうね?言っておきますけど、私たち組織を脅かそうとしても、全世界に仲間はいるのよ!いつだって、あなた一人消すことができるわ!なにより、月夜に手を出したことが許せないわ!!」

 李は、怒りの全てをぶつける。普段、温厚な彼女が怒るのは、珍しい。

「深く、反省してるよ!このとぉ〜り!!だから、俺も仲間に…。」

「嫌だね!!」

 三人は、同時に声を放つ。

「仕事の話し、しても大丈夫?」

 李が、困った顔をする。

「仕方ないだろ。ここにいるいじょう、こいつも聞かなくちゃいけないんだから。それに、仕事をしないわけにはいかないからな!」

 月夜は、憤怒する。

「それもそうね。でも、くれぐれも仕事の邪魔はしないでね!!」

 李は、キースに一押しする。

「分かってる。迷惑はかけないよ!」

「ここにいること事態が迷惑だ!!」

 三人は再び声をあげる。李は、一息ついた後、話しを始める。

「今回の仕事は、"天使の微笑み"と呼ばれているものよ。宝石の価値は、黒真珠には及ばないけど、とても価値のある物だわ。どう、引き受ける?」

「ああ、もちろんだ!」

 月夜は、ニッと笑う。

「詳細は、こうよ。ある、美術館に展示してあるものなの。」

 李は、月夜に紙を渡す。それを受け取り目にすると、後ろからキースも覗いてくる。

「なんか、とても殺風景な建物だな。こんなところに、得物がかるのか?まあ、一度下見をすれば…。」

「この場所は、お宝入手が困難な場所だなぁ。入り口が、一つしかないし、天井は大きな壁だ。」

「!?」

 キースが、口を挟んでくる。

「お前っ…!」

「見て見ろ。建物の外は、高い木が多い茂っている!ドローンを飛ばすのは、難しいんじゃないか?」

「誰が、お前に意見を求めている!」

 月夜は、食って掛かる。

「まあ、お前が探偵さんと下見をして、入手ルートを特定してくれればいい話だけどな。」

 まるで、もう仲間に入ったかのように言うキースに呆れてため息を吐く。

「じゃあ、予告状出しても構わないかしら?」

「ああ。いつものように頼むよ!」

 月夜は、フューたちの所へ行くことにした。フューたち三人も、月夜の後ろにいる男を見て目が座っている。

「クズだ!」

「クズだねぇ〜!」

「ゲスが…!」

 李たちと同じ反応に、キースは笑って見せる。

「例のごとく、後をついてきてウザい!」

 月夜が、うんざりして言う。

「まあ、よろしく頼むよ!俺も仲間に…。」

「誰が入れるか!!」

 四人は、同時に叫び、キースを車に乗せずにドアを閉めて走り出す。

「あ、ちょっ、おい!!」

 一人残されたキースは、車を追って走ってくる。

「しつけぇ奴だなぁ!!」

 フューは、思い切りアクセルを踏む。だが、どんなに飛ばしても、キースはついてきていた。

「…なんて野郎だ!こんなに飛ばしてるってぇのに…!!」

「まるで、スピードブーツ並みだねぇ〜!」

 ジェリーが、かかっ、と笑う。

「これじゃあ、かえってこちらが目立つぞ?」

 バスクが、冷静な判断をする。月夜は、またため息をつく。

「…仕方がねぇ。奴も、中に入れるしかない。」

 不本意だが、そうせざるおえなくなり、車を急停止させる。

「や、やっと、止まったか…!」

 キースは、息をきらし膝に手を当てる。

「早く乗れ!」

 フューが、車のドアを開ける。

「やぁ〜!車の中は、こんなになってるのかぁ〜!!」

「…。」

 誰も、キースに話しかけない。

「仕事の話で来た。昼間、下見に行ってくるから、いつもの通りの作戦でお願いするぜ。」

「了解!夕方に落ち合おうぜ!」

「ああ!」

 話しを終え、月夜は探偵事務所に戻ることになった。

            ※

 一条は、予告状の知らせを受け、月夜と一緒に轟の待つ美術館へと向かった。

「一条さん、よく来てくださいました!」

「どうも。あの館以来ですね!」

「ああ。大変な事件だったが、おかげで極悪人を逮捕することができた!不本意だが、シルバーの予告状なしでは、見つけられなかったでしょう。」

「そうですね。」

「だが、今回は違う。奴を、捕まえてみせますよ!幸運なことに、今回はとても私たち警察にとって、都合の良い場所なんです!」

 轟が、得意そうに話す。

「どういう意味です?」

 一条が聞き返す。

「この建物を設計した技術者が、少々変わっておりましてな、日が暮れると、建物内にいくつもの仕掛けが作動をし、侵入者を妨害する策が仕掛けられているのです!」

「仕掛け!?あの、館のように?」

「ええ。夜になれば、いくら逃げおおせてきたシルバーも、袋のネズミです!」

「!?」

 後ろで聞いていた月夜が、目を見開く。

「一体、どんな仕掛けが?」

「簡単に言えば、侵入することはいとも簡単。ですが、出るのはとても難しい。我々の警備も、ただその時を待っていれば良いだけのことです!大掛かりな人数を動員しなくて済む!その仕掛けをお見せできないのは、残念ですが…。」

「念の為、仕掛けの場所だけでも案内していただけますか?」

 一条が、興味本意で聞く。

「分かりました。ご案内致しましょう!」

 一条と月夜は、轟の後に着いて行く。美術館の中は、白い壁でできていた。

『全体が真っ白だなぁ!これじゃあ、黒い服を着てる俺は、丸見えじゃないか!』

「仕掛けは、ここ、ここと、後"天使の微笑み"が飾ってある壁全体です。この宝に触ったと同時に、コンクリートの壁が、立ちはだかるというわけです!」

「…なるほど。確かに、袋のネズミだ!しかし、そのシルバーを、どうやって逮捕するのです?空間なら、警察の方たちが中に入れないのでは?」

 轟は、ニヤリと笑って見せる。

「外から入るのは簡単なのです!隠し扉があって、我々はそこから入れば良い!隠し扉も、一カ所しかないので、うろたえているシルバーを、網で捕獲すればいい!奴は、いつも黒い服を着てる。白い空間では、とても目立ちますからなぁ!」

 轟は、ははっ、と笑って見せる。

『なるほど。そういう仕組みか…!やっぱり、下見をしておいて、正解だな!』


 月夜は、キースがうろついているから、と言う理由で、事務所にお留守番すると一条に言い、現場に向かう一条を後にした。そして、姿が見えなくなった一条を見送り、フューたちと合流した。そして、早速作戦会議をした。

「…なるほど、そういう仕組みか。なら、ドローンは木陰の間に用意しておく!」

「ああ!まあ、久々にあの装置の登場だ!」

 月夜が話をしていると、横から声がかかる。

「俺も行くぜ!」

「!?」

 その場にいた全員がキースのほうを向く。キースは、黒いマスクをして、色々身に付けた装備を準備していた。

「そんなに、都合よく逃げ出せるとは思えない。だが、俺が居れば、簡単に抜け出すことができるぜ!」

「仕事の邪魔をするなと、言ったはずだ!お前がいたら、かえって目立つ!」

 月夜が、一押しする。

「仕掛けだらけなら、トレジャーハンターの俺の得意とするところだ!言っただろ、逃げるのは得意だって。まあ、俺の実力を試してくれよ!」

「…っ!勝手にしろ!!」

 月夜は、そっぽを向く。

「月夜ぁ〜!例の装置、用意出来たよぉ〜!」

 ジェリーが、装備品を月夜に渡す。

「おうっ!サンキュー!」

 月夜は、装備をつけようと服を脱ごうとする。だが、一つの熱い視線を感じ、手を止める。

「っ…!」

「うほほぉ〜!!」

 キースが、発情している。

「見てんじゃねぇ!!」

 フューが、キースを殴る。

「こいつの事は、見張っておくから、今のうちに着替えろ!」

「はあ〜…。」

 月夜は、ため息を吐く。そして、装備を素早く身に着けるのだった。

「それじゃあ、ショータイムだ!!」

 気合いを入れ、月夜は建物のほうへ向かって行く。その後ろを、キースがついてくる。

「チッ!」

『本当に、邪魔な奴だ!』

 シルバーのスピードブーツの後を、キースは苦にも思わずついてくる。いくらスピードをあげても、それは変わらなかった。

「なんて奴だ…!」

 いつもの調子が狂わされていたが、仕事だと思い、集中するためただ得物のある建物へ向かうことにした。思っていた通り、外に警備はされていなかった。ただ、シルバーが中に入るのを、どこかで見守っているのだろう。慎重に、辺りを見渡しながら、中へと入っていく。そして、"天使の微笑み"の展示部屋へとたどり着いた。

「手をつければ、仕掛けが作動する…ってか。」

 シルバーは、躊躇することなく得物に手をつけた。すると、一気に周りの壁が下から上がってくる。

「なるほどねぇ。さすがに、袋のネズミっか。」

 シルバーは、早速例の透明になる装置を作動させようとする。だが、後ろからキースが腕を伸ばしてきて、自分の方へ引き寄せる。

「なっ…!は、放せっ…!!」

「しー!」

 キースは、シルバーの口に手を当てる。と、同時に、隠し扉から轟たちが入ってくる。

「罠にかかったな!今だ!!」

 一斉に、五人の警察が入ってくる。だが、シルバーの姿はどこにも見当たらない。

「!!」

 警察たちが、天使の微笑みがあったケースの周りを探し回る。

「警部、奴の姿がありません!!」

「絶対に、この部屋に居るはずだ!網で周りに投げろ!!」

「はい!!」

 警察たちは、言われた通りに、闇雲に網を投げる。シルバーは、キースの隠れ身の術で、白い壁にいた。そして、警察たちが後ろを向いているうちに、キースはシルバーを脇に抱えて、警察が入ってきた隠し扉へと出て行った。その素早さに、シルバーはただ茫然とするしかなかった。

『忍者の技ってやつか…!』

 キースから離れたいのは山々だったが、外に出るまでは、静かにふるしかなかった。警察たちが、まだ網を動かしている間、早々と外へ逃げおおせる。

「ここまで来れば、大丈夫か…!」

 キースは、シルバーを抱えたまま言った。シルバーは、キースのみぞおちに肘鉄を食らわす。

「のおっ…!」

「いつまでも、触ってんじゃねぇよ!!」

 うずくまるキースを後に、シルバーは置かれているドローンに得物をつける。

「フュー、得物を取った!運んでくれ!」

「了解!」

『後は、ここを抜け出すだけ…。』

 考えて、壁を飛び越えようとすると、再びキースが手を出してくる。

「なっ!お前、いいかげんに…!!」

「いいから、俺の言う通りにしておけ!」

 キースは、シルバーを再び脇に抱えると、装備していた縄を壁に括りつけて、一気にジャンプする。

「俺に、何度も触るな!!」

 キースの腕を振りほどこうとするが、パワーグローブを身に着けていなかった為、キースの腕力に敵わなかった。

「お前は、俺が守ると言っただろ?」

「大きなお世話だ!!」

 シルバーは、壁の外へたどり着いた。と、同時に、フューから連絡が入る。

「月夜、まずいことになった!」

「何だ!?」

「ドローンが、木に引っかかった!」

「ドローンが!?」

 シルバーは、壁のほうを向く。

「…取りに行くか…!」

「やっぱり、引っかかったか!俺が、回収しに行く!」

「はぁ!?何を勝手に…!」

「俺に任せろ!お前は、先に戻っておけ!」

 キースは、再び壁の向こうへジャンプした。木々が音を出していることを嗅ぎつけ、内側が騒がしくなる。

「いたぞぉ〜!!」

 その声を聞いて、シルバーは仲間のいる車の方へ走り出す。

「あいつ!持ち逃げしたら、ただじゃおかねぇぞ!!」

 シルバーは、素早く車に乗り込む。

「月夜、悪ぃ!迷惑かけちまって…!」

 フューが、誤ってくる。

「心配ない。外のリサーチを怠った俺のミスでもある!」

 月夜は、素早く服を着替え始める。

「そういえば、奴は?」

 キースがいないことに気づき、フューが尋ねる。

「勝手に、ドローンを回収しに行った。任せろだとよ!」

「あいつ、持ち逃げするつもりじゃねぇだろうなぁ〜!?」

 フューも、疑っていた。

「それなら、それだけの奴だってことだ。別に、始めから信用してないだろ?」

 着替えが終わり、月夜は荷支度を始める。

「…だな。」

「少しだけ待って、それで来なかったら、出発しようぜ!」

「了解!」

「さんせぇ〜い!」

 全員、同じ意見だった。そこへ、車のドアをノックする音がする。

「おい、俺だ!開けてくれ!」

「!?」

 思っていたよりも早く戻ってきて、全員びっくりする。

「ほらよっ!ドローンと、得物だ!」

 キースは、月夜に渡す。

「…お前。」

「少しは、信用したか?どうだ、俺の実力は!?」

 言いながら、マスクを外す。

「…。」

 誰も、何も言わなかった。

「出発するぞ!」

 フューは、月夜を事務所へ送り届けるために走り出す。

「お前の実力ってやつは、認めてやるよ。だがな、仕事に集中したいのに、余計な手ばっか出してんじゃねぇ!!おかげで、いつもの調子が狂っちまったじゃねぇか!!逃げることなら、自分でちゃんと出来る!!」

「そんなに、俺の存在が気になってしょうがなかったのかぁ?嬉しいねぇ~!」

「っ…!!こいつぅ〜…!!」

『まったくこりてねぇ!!』

 事務所に着き、フューは車を止める。

「じゃあな、月夜!早速、ヒナコに得物を届ける!」

「ああ。サンキュー!」

 車は、月夜を降ろして走り出す。

「…て、なんで、てめぇまで当たり前のように降りてんだよ!!」

「当たり前だろぉ〜?俺は、お前の傍に居るって言ってるじゃねぇかぁ!今なら、事務所に探偵さんもいない!これから、俺と…。」

「くっ…!!」

 月夜は、キースの股に足を蹴り上げようとすると、キースは慌てて手で受け止める。

「じょ、冗談だよぉ!冗談!!二度目は、簡便してくれぇ〜!!」

「さっさと、消えろ!!言っておくが、事務所の中に入ってきたら、ぶちのめしてやる!!」

 月夜は、殺気立ち事務所の中へ戻っていく。

「お休みぃ〜、月夜ぁ!!」

『あいつ、ずっと外に居る気だ…!』

 月夜は、事務所の中に入り、ちゃんと鍵をかける。そして、深いため息を吐きながら、ソファーへ倒れ込む。

「…やべぇ。すげぇ疲れたぁ〜!ああ〜くっそ!!あの野郎、マジで邪魔だ!!」

『本来なら、簡単なミッションだった!普段、冷静なシルバーはどこに行った!?』

 考えていると、月夜のスマホがバイブを鳴らす。画面を見ると、一条だった。急いで電話に出る。

「はい!どうしました、一条さん!?」

 驚いて、起き上がる。

「月夜君。そっちのほうは、大丈夫?ストーカー野郎に、何もされてない!?」

「だ、大丈夫です!そ、それより、仕事のほうはどうでした?」

「残念ながら、シルバーには逃げられてしまったよ。轟さんも、残念がってる。」

「そ、そう…ですか。」

「それに、何故か今回、シルバーは謎の覆面男を連れて来ていた!見たことはないが、防犯カメラに二人映っていたんだ!」

「へ、へぇ〜!」

「それが、今回とてもシルバーの行動が、らしくなかったんだ!いつもの透明な姿になれば、簡単に逃げられたはずなのに、わざわざ覆面男に抱えられて…。まあ、その男もなかなかすばしっこい逃げ足で、身軽に仕掛けをさけていったんだ!まるで、昔で言う忍者みたいに!」

「…。」

「…なんか、君のストーカーみたいだった気がする…。」

「な、なに言ってるんですか!僕は、ずっと事務所にいましたし、奴もずっと外からこっちを覗いていますよ!?…今も、ずっと…!」

 言いながら、事務所の下を見る。ウソではない。本当に、月夜のほうを、陰でチラチラ見ている。

「…だよねぇ。やっぱり、気のせいだったみたいだ。」

「そうですよぉ!それより、何時頃帰って来ます?」

「君のことが心配だから、すぐに帰るよ!事務所に奴がいたんじゃ落ち着かないから、外に食べに行かない?」

「は、はい!僕も、落ち着かなかったので!」

 月夜は、一条の提案に嬉しくなる。

「そう!それじゃあ、正装しておいて!窓の無い建物の中なら、気兼ねなく二人でたべられるから!」

「はい、分かりました!」

 月夜は、電話を切り、気分がウキウキして早速準備をすることにした。

『気兼ねない、二人だけの食事…。楽しみだぁ!そうだ、あれを用意しておかなくちゃ!』

 月夜は、早々とある物を準備しておいた。




 二人は、ある高級料理店にいた。

『さすが、一条さん。良い場所をチョイスしてくれた!個室の壁で囲まれた一室なら、奴の視線を気にする必要はない!久しぶりに、気が楽だぁ!』

 嬉しそうに食べる月夜を見て、一条が微笑む。

「美味しい?」

「とっても!」

「そう。なら良かった!」

 一条も、穏やかな顔をしている。

「さすが、資産家の家でマナーを教わってきたね。食べ方が、とても上手だ。」

「さんざん、教えられましたから。」

 二人は、顔を見合わせて、フッと笑う。ある程度食事が済み、月夜は準備していたある物を一条に渡す。

「一条さん。これ…!」

「?」

 一条は、差し出された物を受け取る。

「今日は、一条さんの誕生日でしょ?僕からのプレゼントです!」

「覚えててくれたのかい?君からのプレゼントか…。嬉しいよ!」

 一条は、渡された箱を開ける。中身は、ネクタイが入っていた。

「赤いネクタイ。きっと、一条さんにお似合いになると思って…!」

 一条は、それを見て微笑む。

「ありがとう!使わせてもらうよ。」

「はい!」

 月夜も、嬉しそうに笑う。

「…それで、その…。」

「ん?」

 月夜は、恥ずかしそうに、目をそらしながら思い切って言う。

「今日は、一条さんの三十五歳の特別な日。なんでも、言うことを聞きます!」

 月夜の申し出と態度を見て、一条は察しがつく。そして、フッと笑う。

「それじゃあ、君の誕生日の時と同じことを望むよ!君のこと、私のものにしても良い?」

「は、はい…!」

 月夜は、上目使いで一条の顔を見て、顔を赤らめた。

「場所は、事務所じゃないよ?ちゃんと、二人で気兼ねない場所で、だ!」

 月夜は、うん、と頷き同意する。二人の後をつけてきたキースは、食事が終わった二人が、外からまったく行動が見えない建物に入って行ったのを見て、歯がゆい思いをし、唇を噛みしめる。

「っちっきしょ〜!!二人で、良いことしやがってぇ〜!!うらやましいじゃねぇかぁ〜!!」

 もちろん、キースの言葉は届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ