花火と推し活
「大丈夫かな…?」
髪も浴衣も気合入れてる奴に見えるかな…?でも、「ドレスコードだぞ(ウインク)」って言われたし(お兄に)。折角誘ってくれた夏祭り…楽しもう。
まだ空は明るい中、太鼓と人の声が混ざり、行き交う人々で熱を帯びる。お祭り会場へと続く神社参道の入口で待ち合わせ。
「ごめ~ん!お待たせ!」
彩葉の浴衣は紺色に鮮やかな朝顔の柄。髪は後ろでお団子。簪の飾りが揺れ下駄の音が軽く近づく。
「⋯待った?」
「////(首を横に振る)」
「良かった。まだ、皆来てないんだね。」
「皆って⋯?」
「あのね、奈央と萌々も誘ってたの。事前に言ってなくてごめん。二人だとちょっとあれかなぁと思って、、、いや、悪い意味ではなくて、その、えっと、奈央とは毎年来てて、一緒なら楽しいかなって⋯」
「お待たせ〜!2人とそこで会ったんだ〜ね!奈央!」
「うん/////。(可愛い可愛いかわいい⋯)」
「お、もう来てたのか。奏も浴衣なんだな!」
良かったぁ。皆浴衣だ。特に昴!渡辺さんに誘われて直ぐ、昴に連絡しておいて良かった。渋々だったけど、安井さんがいて嬉しそうだ。
「じゃ、行こっか!」
参道の幅は広くは無く、人も多いので自然と、彩葉と奏、奈央と萌々と昴に分かれる。
「何か食べたい?それとも、遊ぶ?」
「俺、焼きそば食べたーい!!」
彩葉の問いにすぐさま答える昴。
「あんたに聞いてない!今日は西野くんに奢るんだから!」
「何でだよ!俺にも奢れや!」
「自分で買ってよ!萌々と奈央は何がいい?」
「「チョコバナナ!」」
「みんなで買いに行こう!!」
楽しい。こんな風に友達とお祭りに来て、浴衣着て、屋台を巡って…。初めての事ばかりだ。下駄が石畳に当たる独特の響きが、身体に馴染むようにゆっくりと、確実に、嬉しさを噛み締める。
「あれ?奈央達居なくなっちゃった⋯。」
「さっきイカ焼き買いに行くって言ってたけど?」
いつの間にか空は暗くなり、提灯の明かりが紅く照らす。彩葉と奏は、奈央達3人とはぐれた。
スマホの通知音が2つ鳴った。彩葉が確認すると驚いた表情で顔が赤くなる。
自分も確認すると、グループLIMEに
萌々 [人多すぎて戻れないから、二手に分かれて花火の場所で合流しよっか!]の文字。
ーーーーその頃、、、
「よし。これで、あの2人も近づくでしょ!
ねぇねぇ私、射的やってみたい!!」
「はい!やりましょう///萌々ちゃん」
「何で敬語!?」
「これ、撃てるかな?」
萌々の撃った玉は、パンッと軽い破裂音と共に景品をすり抜ける。
「お嬢ちゃん残念!これ参加賞ねー!」
「ありがとうございます。可愛いキーホルダー!」
「おじさん!私が仇を撃つ!萌々ちゃん。私が取ったら、付き合って。」
「おい!それは俺のセリフだろー!?おじさん!俺も!」
「ふふふっ!じゃあ、あの!ぬいぐるみ欲しい!頑張って!!」
指差す景品番号は、1等 大きなシロクマのぬいぐるみ。
「ゼッテー負けねー!」
「ふんっ!負ける気がしない。」
「お二人さん頑張って!はい!狙って狙ってー!!」
≪パンッ!≫
ーーーーーーー
「今LIMEが…もう勝手なんだから。えっと、、、⋯二人でも良い?/////」
なんだそれーーーーーーー!!!かっ⋯⋯可愛い!!!////断るわけ無いじゃないか!二人きりなんてまるでデートじゃないか⋯。デート!?!?
「⋯⋯西野くん?大丈夫?」
「うん。////行こう。」
ゆっくりと参道を進んで行く。本当に人が多いな。屋台に目移りしつつ、彩葉についていく。
「何か食べたい物ある?」
彩葉に聞かれた奏は、少し先に見えた幟の[たこ焼き]を思う。何個か入っているから、、、(1個ちょーだい!)
(え/////)
(あ~ん/////!)
「/////た……焼きそば。」
「王道だね!待ってて!」
「ちょ、」
彩葉は人混みへと消えた。僕の下心って⋯馬鹿ヤロー!しっかりしないと!
ーーーーー
「馬鹿バカバカ!/////」
2人きりじゃ意味ないじゃない!人混みで声届きにくいから、顔がいつもより近い/////!
「お嬢ちゃん焼きそば買うのかい?」
「/////っふぁい/////!」
「? 1つねー!」
遡ること1週間前ーーー
[じゃ、神社の鳥居前に17時集合で!]
勢いで誘ってしまったぁー!既読の付いた画面にニヤつく自分の顔が、スマホに不意に映ってビックリする。喜んでる場合じゃない!先ずは、英語のリスニングを自力でやり遂げなくては、夏祭りに行けない!!
〜〜〜〜〜
「じゃ、再テスト返却するぞ〜渡辺!⋯⋯やれば出来るじゃないか!次ー小沢〜!お前は⋯このプリントやるから、後日やって持って来い。次!」
私、頑張ったぁああ!!やれば出来るっ!
「⋯ということで、不安だしついてきてくれるよね?一緒に夏祭り行くよね!?奈〜央〜!」
「そうだなぁ、しょうが無い。行ってやるか!」
「心の友よぉおお!」
「コラ!!タダでついて来いなんて言わないよね!?私はぼっちで、2人でイチャコラするのを見ていろと!?」
「誰がイチャコラするって///!?んな訳ないでしょ!!じゃ、どーしたら来てくれる!?」
「そーだなぁー⋯萌々ちゃんも来てくれるなら良いよ?」
「今直ぐ聞きます!」
ふたつ返事でいいよとLIMEが来た!
「「よし!交渉成立だね。」」
ーーーーー
「お待たせ〜焼きそば買ってきたよっ⋯て居ない?西野くーん!?」
何処行ったのだろう。ちょっと並んでて遅くなったから、先に花火会場行った?等考えを巡らせキョロキョロと周りを見渡すが、らしき姿は見当たらない。ほんの少しのざわつきが視野を狭める気がした。片手に焼きそばを持ち、人混みを掻き分けるが居ない…。
「あれー?1人?」
「俺等と回る?」
「いえ、友達と来ていますので。」
ガラの悪そうな男性2人組。サラリと躱して逃げようとする。
「ちょっとぉ〜逃げないでよ。」
「俺らが悪い事してるみたいじゃん!」
お酒と嫌な香水が混ざった匂い。グイッと腕を掴まれると、振り解け無い程の強い力で彩葉は恐怖を感じる。
「離してください!!」
出た声は思っているよりも、微かで誰にも届きはしない。藻掻いたとき、持っていた焼きそばが、男の顔面に思いっきり当たった。
「あっっっっつ!!何すんだ!」「大丈夫か!?」
掴まれた腕の力が緩んだ一瞬の隙に、走って逃げた。
「おい!!」
はぁはぁはぁはぁ⋯参道をどっちに走ったのかも分からない。いつの間にか遠くで花火の音もしている。人混みから離れて、辺りは提灯の灯りが無い。此処は何処⋯?境内の裏手だろうか?
「渡辺さん!」
聞き覚えのある声に振り向くと、息を切らした西野くんの姿。
「良かった⋯。急に、走っていく姿が見えて⋯、追いかけてたら、こんな所まで⋯どうしたの?何かあっ…/////た?」
心配してくれる西野くんの声に顔を上げること無く、私は西野くんの浴衣の袖を掴んでた。
「ごめん。焼きそば落としちゃった…。」
何故か震えが止まらない手を、西野はそっと握る。
「大丈夫。大丈夫。」
優しくて、温かくて、柔らかい。西野の声は彩葉を包み込む。
「落ち着いた?こっちに来て?」
手を握ったままついていくと、境内の奥の細い階段を上がる。すると開けた場所に出た。
「此処でも見られるんだ。」
目の前に大きく開いた花火が、西野の顔を照らす。彩葉を真っ直ぐ見つめ微笑んだ。後からくる地響きの様な音が、心を揺らす。
次々と上がる花火に、声量を上げる2人。
「凄く近く感じるでしょ?人少ないし、見易いよね。」
「うん////ありがとう!綺麗だね!」
先程までの震えは嘘の様に止まり、色とりどりの花火に目を奪われる。
「渡辺さん。あの、その…」
「何?聞こえない!」
「好きです。」
見上げる巨大な花火は鮮やかに降り注ぐ。全身に響く音に交じった“それ”は⋯
「え⋯?」
「(聞こえてなかったか。)ううん。綺麗だね!」
「うん!」
西野は彩葉の横顔に不安を憶える。
(自分に自信がないから、聞こえていなくても自分に言い訳ができるように、無意識に花火の中で告白したんだ。伝わる事を恐れているんだ…。)
壮大に散ってゆく花火は煙を纏い、フィナーレを迎えた。
「終わったね。見惚れちゃったぁ。奈央達と合流出来なかったけど、心配してるかな?」
「あのさ、何で誘ってくれたか、聞いてもいい?」
「えっと、、それは、いつもお世話になってるから…。(声を聴けているだけで幸せを頂いておりまして、その上お優しいお心遣いに感謝申し上げる所存です。)」
「それはこっちの台詞だよ。今日は『奢る!』ってきかないし。綿あめ、チョコバナナ、お面、焼き鳥に焼きそばまで…。急にどうしたのかと思って。僕何かしたかな?何でも言って!」
「いや/////これは、“推し活”です/////。」
「“推し活”⋯?」
遠くから呼ぶ声がした。昴の声はよく通る。
「おーい!奏〜!ここに居たのか!探したんだぞ〜!」
「凄い花火だったね〜!彩葉達は見られた〜?」
「うん。萌々は何持ってるの?」
「射的の景品だよ〜!」
「可愛いキーホルダーだね!って、奈央も昴も持ってるの?」
「あゝ。昴が邪魔しなきゃ当たったのにー」
「ああ~肘でグイッてやられたからなぁー」
「なに~!?」「んだとー?!」
「まぁまぁ。」
奈央と昴は何やら揉めているようだ。仲裁する萌々は楽しそう。そっちはそっちで楽しんだようで良かった。
「帰ろっか!」
一番星が輝いている空の下、カランッコロンッと響く音は不揃いで、帰路につく足取りは重い。
楽しかったな…。
「また来年も来ようね!」
彩葉が満面の笑みで振り返った。一瞬で心に8尺玉の花が咲いた。
「うん。来年も。」