レッツ サマーバケーション!!
あれから数日が過ぎ、再び集められた図書委員達。紙が渡され、そこには夏休み企画書の詳細が書かれていた。
学校内企画 [東夏高漫画公開アフレコ]
1.読上げる漫画は恋愛スペクタクルSF時代劇『桃太郎に捧げよ、愛乱舞』
2.主役 桃太郎『西野奏』/ヒロイン 鬼『瀧詩織』
3.音響、映像、他は各部活所属の方。
etc.
どうやら図書委員をやっている方たちは、演劇部・放送部・美術部の方々が多いらしい。プラス、漫画・アニメ好き。その為、気合が入ってしまったようだ…。だがしかし!私の心配はそこじゃない!何故、西野くんが主役!?同じ紙を貰った西野くんが固まってる。
恐る恐る、企画説明をしてる副委員長の3年生に聞いてみる。
「あの、何故西野くんが主役になったんですか?」
「いやぁ、あの子の声良いなぁって思ってたんだよ!!図書委員にいたから、てっきり演劇部か放送部なのかと思ったら、帰宅部って言うじゃない!この企画になった時から、私は決めていたよ。異論は認めない!良いかな?」
「はい!寧ろ、嬉しいです!!!!!サイコーです!!」
「良かった!同志だね!!」
「はい!」
初めて奈央以外の人と、“推し”の喜びを分かち合った。嬉しい!!
「じゃあ、皆さん連絡先は交換しといてくださいね〜夏休みの休み連絡困るので。では夏休みに会いましょう!」
「LIMEで良いよね?西野くんやってる?良い?」
「え///あっ///そうだね。じゃあ、はい。」
夏休みも委員会があって学校に来なきゃいけないなんて、中学の時には考えられ無かった。(絶っっっったい、嫌だ!)って言っただろうな。でも、今はすっっっっごく楽しみ!なんたって、推しの声が聞き放題!!毎日イベントみたいなもんじゃない!!!
「ありがとう!」
「/////(ヤバい…)」
西野にとって彩葉の無自覚な笑顔は、破壊力抜群だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
教室は期末テスト前で、若干ピリついている。萌々はいつも通り話しかけてくれる。
「結局、彩葉の案で決まったんだね。えっと〜『桃太郎に捧げよ、愛乱舞』だっけ?」
「そう!アニメ化はまだされてなくって、声優さんの先入観が無いっていう理由で先輩が選んだらしい。漫画本自体をスクリーンに映す予定だったんだけど、それだと見にくいしコマ割りがあるから、重要な一コマを大きく描き直して紙芝居みたいにするんだって。」
「大変だね!!」
「まあね。でも、楽しい!!」
「それは良かったね〜。で、期末テストだけど⋯?」
「大丈夫!!今回はちゃんと勉強した!!」
「おっ!えらーい!」
私はキチンと勉強したのだ!何故なら、夏休みに補習なんてことになれば、委員会の仕事に穴を空ける事になる。そんなの図書委員の先輩方に顔向け出来ない!!!
「萌々ちゃん、ここ教えて〜!!奏に聞いても教えてくれないんだよ。」
「そうなの?」
「あそこで本読んでるじゃん。萌々に話しかけたかっただけじゃないのぉ〜?」
「ち、違う/////」
「ここはねぇ、この間先生が言ってたのに〜ノート取ってないの?私の見る?」
なんだかんだ、優しく教えてあげる萌々は昴の事、どう思っているんだろう?にしても、分かりやすいなぁ〜昴。
「そういえば、昴くんは知ってるんでしょ?体育祭の借り物競争の時、西野くんなんて書いてあるカード持ってたの?」
「それは⋯」
急にどうした!?萌々!?今聞くの!?いや、はっきり聞いた所で動揺することなんて無いんだ!!ただの友達。そう、友達!!
「なんだっけな⋯あ、[好きな人の友達]!」
「「!?」」
顔を見合わせた私と萌々。聞いたくせに、どう反応して良いかわからない…。当たり障りのない返事をする。
「そう⋯なんだぁ。」「へぇ~」
「何?何の話?」
にこやかな笑顔を浮かべた西野くんが、いつの間にか近くに来ていた。
「借り物競争の時、奏が掴んだカード[好きな人の友達]だったよな?!(ウインク)」
「エッ!/////うん/////」
「ちなみに…その好きな人って⋯」
萌々〜!?突っ込み過ぎだって!!既に可哀想なぐらい真っ赤だから!!
「さ〜座れ〜!!期末テストだぞ〜!準備はいいか〜!」
チャイムと先生の助け舟は、私の不安をすくい上げてくれた。
〜〜〜〜〜
「あれ?なんで突っ伏してるの?彩葉。」
「…山外した…。ヤバい…。」
「まぁまぁ。ちょっと夏休み忙しくなるだけだから、ね!」
「補習前提にしないで〜!!」
チラリと西野くんの席を見ると、教えて欲しいと群がる生徒たちに、真摯に応えてる。
「ねぇ、ここはテスト出る?」
「範囲内だけど、1問あるかないかだと思う。」
「西野ーこれ分かんなーい。」
「どれ?これ数式自体を覚えないと無理かも。」
「ここんとこ合ってる?」
「合ってるよ。大丈夫。」
不意に私の方を向いた西野くんと目が合った。すると、ふいっと向きを変えられた。あれっ?無視された⋯?違うよね…。さっきので嫌われた…?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
テスト返却日。英語が特にピンチ……。朝から憂鬱だな…。憂鬱の理由はそれだけじゃない。あれから西野くんと話してない。テスト期間は委員会も無かったし、何だか避けられてるような気がする。
「テスト返すぞ〜大島ー!!」
「は~い」
名簿順に返されていくテスト。ああぁぁぁあああ!頼む〜〜〜!!赤点だけはぁあ!!
「渡辺〜! 今回は、ギリギリ⋯」
―――――――
静かな図書室。久しぶりに嗅ぐ古書の香りは、懐かしくも儚い匂い。
「アウト⋯でした……。すみません。」
「まぁまぁ。夏休み委員会あるし、ちょっと大変になっちゃったね。」
「ほんとにごめん。西野くんに委員会のシフトを任せることに⋯」
「シフトって…。」
ハハッと笑ってくれた。怒ってるかと思ったのに。いつもの西野くんだ。
「この間は、なんかごめん。」
「何?」
「教室で借り物競争のカードの話、なんかして。怒ったかなって、、、」
「ううん。そんなこと無いよ、大丈夫。それに、聞きたかったんだ?カードの内容。」
ほんの少し笑みを浮かべる西野くん。図書室の静けさが私の動悸を増幅させる。
「う、うん/////。私のは全校生徒が知ってるし。」
「そうだね。お兄が言っちゃったからね。マイク通さなくたって良いのに。」
笑って話せてる事が何よりも嬉しい。優しい声色がじんわり染みる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
蝉がギャン鳴きする夏休みになった。
教室には赤点を取った数人の生徒と監督の先生が1人。
「あつ~い。。。」
「頑張れ!補習なんだから、ちゃんとやれ〜。」
「は~い。」
「終わったぁ〜!!」
「お疲れ様でした。」
補習プリントを提出し、急いで図書室へ向かう。息を切らし図書室のドアを開けると、ひんやりとした空気と視線を浴びる。
「すみません。遅れました。」
「大丈夫だよ〜何人か補習居るから。」
「じゃあ、これでタイミングと音聴いてて。気になる事があれば、言ってね。」
今日は『桃太郎に捧げよ、愛乱舞』の合わせ練習日。先輩達から渡された役は、【音響担当】ガッツリ裏方だ。セリフを言うなんて恥ずかし過ぎて無理だった私にとっては、超〜ラッキー!!
絵が出来上がっていて、その場面に合わせたセリフと場面の音。
『野郎共!やっちまえ!!』のセリフから剣の交わる音と足音、なかなかリアル…。先輩達凄すぎ。私はヘッドフォンから聞こえる音に集中する。
「どう?」
「良いと思います!!」
「もう少し足りないとかある?」
「そうですね…やられた人の服が破れたりする音が入ると、よりリアルかもしれないです。」
「そうだね。加えてみよう。」
ガチ稽古じゃん。もう、舞台だよ。高校生になってから、初めての経験ばっかりだな。
『鬼姫、俺は君を信じている!一緒に来るんだ!』
西野くんの“俺”!!一人称“俺”はヤバい/////!!この桃太郎は宇宙船に囚われた鬼姫を救う、ちょっと強引だけど正義感溢れたキャラ。めちゃくちゃイイ!!はぁ~西野くん一人称俺になんないかなぁ〜。でも、“僕”も捨て難い…。
「今日はここまでにしよう。解散!」
「お疲れ様〜」
妄想膨らむ中、今日の練習は終了した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
家に帰り、録音した音のチェック。はぁ~////良き/////西野くんの台詞ばかり繰り返してしまう。
『鬼姫を見捨てたりなんかしない!』
『俺達の気持ちは一つだ。』
『俺から離れるなよ。』
普段と違う西野くんが聴けて耳福デス/////!
然し、追試の英語⋯リスニングあるんだよね。スマホの連絡先を探りながら、誰か教えてくれる人…奈央は「アイ・アム日本人!ノーイングリッシュ!!」だし、萌々は部活のコンクール控えてるし、昴は同じ追試組。頼れるのは……[西野奏]の文字。良いかな?頼り過ぎだよね…でも…
[お疲れ様。英語の追試があって、教えて欲しいことがあるんだけど。]
直ぐに既読が付いた。やっぱ、やめた方が良い!?
[僕で分かることなら。どこ?]
[リスニングなんだ。テストの範囲だけど、サッパリ分からなくて。]
[今電話しても良い?]
⋯??電話⋯でんわ⋯デンワ?って何でしたっけ?……電話ぁぁああああ!WHY!?
落ち着け、落ち着くんだ。返事を⋯いや、こっちから電話するべきなのでは?こういう時ってどうするんだっけ〜!?急に分からなくなる!!すると、着信音が鳴った!!ヤバいッ!意を決してスワイプする。
「もしもし?」
「も、もしもし。。?」
「話した方がリスニングは良いと思って。」
「そうだね/////」
こりゃ、マズイ/////耳に直接西野くんの声は、私には早すぎる!!心の準備が出来ない!何で何も考えずに連絡したの〜!?過去の自分に問いかけたって、返事は無い。普通に会話する時は顔を見てるから、慣れたけど、電話……ダンプカーに追突されたのではって位の衝撃が///!!!!
「聞こえる?」
「ひゃい。キコエルヨ////」
「じゃあ、今から英文言うから聞いて、翻訳してみて?」
「ワカッタ。」
「Her school is having a sports festival.」
「彼女⋯学校でスポーツ、フェス…体育祭!」
「すごい!単語を拾えさえすれば、何となく意味は分かるはず。じゃあ次は⋯」
「ちょっと待って!/////」
この調子でダイレクトに推しの声を聞き続けるのは心臓に悪い!頼った私が悪いけど、ごめん!西野くん!
「どうかした?」
「あの〜〜もう大丈夫!ありがとう!遅い時間にごめんね〜」
「えっ?あ、そんなことはないよ?分かった…」
めちゃくちゃ沈んだ声。ホントにごめんなさい〜!!頼ってばっかりじゃなくて、何かお詫びを…
チラリと目に入った卓上カレンダーに夏祭りの文字。これだ!
「あの、夏祭りって行く?」
「夏祭り///!?」
そう!今週末は夏祭り!いつもは奈央と行くけど、、、
「西野くん、行く?一緒に行けないかなって思ったんだけど。」
「行く!」食い気味で返事をした西野。
「良かった。じゃ、またLIMEするね。」
「うん。またね!」
ふぅ~乗り越えた……。西野くんの声が明るくなったのを聞き、安堵する。
よし(๑•̀ㅂ•́)و✧リスニングは自力じゃぁあああ!!